パズルガール | ナノ
 #31

(むっっっっちゃ……ええ!!!!)

 後日。
 奏の新曲は八乙女社長に見事に採用してもらい、そこに担当の作詞家が歌詞を付けてくれ、無事にTRIGGERの新曲は完成した。
 そして今は歌を3人で合わせる練習をしている最中である。

 自分が必死になって考えた曲に、歌詞がつき、そして大好きなアイドルが目の前で真剣になって歌っている。
 最高じゃないか……。

(しかもTRIGGERのこの真剣な表情。
これは日本を代表するアイドルの顔ですわ……)

 つまるところ、本当に輝かしい程までにイケメンという事だった。

「十六夜さん。ここのCメロの所なんだけど」

──あの、九条天が。

「…………ちょっと?」

 あの、仕事には物凄くストイックな九条天で、今まで自分の事を少し(いや、かなりか?)見下していた九条天が、自分に質問をしてくれている。
 あまりの感動に滝のような涙をダバダバと流す。

「ちょっと、幼馴染さん。この変な子どうにかしてくんない?仕事にならないんだけど」
「奏ー、帰ってこーい」

 楽に頭をポンポンと叩かれ、ハッ!と正気に戻る。ほんとに彼女はこの曲を書いた当本人なのか?と天は疑いの目を向ける。

(まぁ、才能がある人って頭のネジがどこか飛んでそうな人が多いし……)
「はれ?今、天さん失礼な事をお考えでは?」
「気のせいじゃない」
「わざと目を逸らすの止めてくれません!?」

 それは逆に思ってるということをアピールしている行動にほかならないのだが。
 抗議をするも、天はひょいひょいと奏の言い分をかわしてしまう。

「そもそもこの曲のコンセプトみたいなの、聞いてねぇな」
「よくぞ聞きなすった!!」

 それだよそれ!と八乙女楽の方向に指をビシリ、と指差す。
(なんか奏のやつ、妙に興奮してんな……)どうせ新曲が完成したのが嬉しくてはしゃいでるのだろうと幼馴染特有の理解力の早さで納得する。

「今回は!そう!情熱的に!です!」

 自信満々の割にはかなり抽象的だった。

「愛する人を虜にさせたい!
そう!まるで……ヒョウのように」

 完全に自分の世界に入っているのか、左手を胸に当て、右手を無意味に天に掲げ、まるで演劇で台詞を発してるかのようだった(この場の全員にとっては演劇というよりかは学芸会だろうが)。

「好きな奴いた事ない奴が何言ってんだ」
「うっ、お黙り……」

 一番痛い所を突かれ、奏は体を縮こませる。
 確かに実体験を元にしてる訳ではなく、ドラマや漫画の受け売りである。それでも一生懸命彼等にぴったりなイメージを考えたつもりなのだ、許して欲しい。

「……」
「へっ」

 いつの間にか、大きな影が差し込む。
 何かと思い上を見上げると、真剣な顔をしている十龍之介が立っていた。

 突然の事で驚いて彼の瞳を覗くと、その瞳は素っ頓狂な顔をしている自分を映していた。
 誰かの瞳に自分が映っている事なんて、よくよく考えると初めて気付いたかもしれない。それだけ相当近くに顔を置かれている事には、気づかなかったけれど。

「こ、こんな感じ、?」

 すとんっ。と後ろの壁に手を置かれ、小さく囁きかけられる。
 顔が紅潮してるのが、影が差して暗くなった視界でも目立っていた。

「せ、せや、ね……」

 すっかり力が抜けてズルズルと壁に背中をもたれこみ、最初的にはぺたんと床に座り込んでしまった。

(さ、さすがエロエロビースト……)そう考えるだけで精一杯で、自分が壁ドンされたのだということにはその後も気付かなかったのであった。


微熱吐息に黙す
(奏ちゃん、好きな人いないのか)
(そっか……)

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