#01
「え、がっくん!
小鳥遊紡って誰!?」
「!?」
背中にずしりという重みを感じると同時に、騒がしい声が耳元で聞こえた。
すぐさまスマホを隠すように遠ざけ、その鳩が豆鉄砲を食らったような顔を手で押した。
「かっ、て、に見んな!!!!」
「なになに!?女の子とラビチャしてんの!?」
「うるせぇ!」
彼、八乙女楽は普段の様子ではおよそ想像が出来ない位に顔を真っ赤にする。
そんな幼馴染みが珍しいと思ったのか、イキイキとしたように身を乗り出した。
「まさか彼女──な、訳は無いから、好きな子!?」
「ん、なっ!……お前には関係無いだろ」
「ほぉ……否定はしない、と」
「……」
語るに落ちたな。
にんまりと笑う楽の幼馴染み──名は十六夜奏。有名アイドル『TRIGGER』の一人である楽に少しも魅力を感じない系女子だ。
とは言うものの、幼稚園の時から一緒で筋金入りの幼馴染みなので、本当に兄弟同然で育ってきた訳で。
いきなり、彼が超人気アイドルです。なんて言われても「はぁ、そういえば昔から町内のアイドルでしたね〜」と興味なさげに答えるしか無い。
「その人気アイドルの八乙女楽が片思い中とは誰も分からないだろうなー」
「だから好きなんて一言も……」
「何年幼馴染みしてると思ってるの。そんな誤魔化し効かないよ」
不敵に笑う奏に敵わないと悟った楽は顔を逸らし、小さく舌を打った。
「このお姉さんに相談なさいな!」
「いやお前、俺と年変わんないだろ」
「あー。そういう面白くない事言っちゃう?」
なんだかんだ本当に長い間幼馴染みをやっているが、彼がそういう恋の話をしたのは初めてな気がする。
22歳にもなるのに初恋……?まさかそんな人間がいるのか?彼は人間じゃないな。
「って、考えてみたら私なんて一回も恋した事なかったわ」
「お前は人間じゃないんだな」
「脳内同じ止めて」
「お前の考えてる事なんてお見通しだっつの」
拒絶したようなフリをすると、乱暴に頭を掻き毟られる。
「ぎゃああ!髪が乱れる!!」女性にあるまじき叫び方をする奏。昔からこういう所があるからこそ、一緒にいてとても楽だった。
「ま、でもさ。全力で応援するから!」
「……余計なお世話だ」
誰もそんな事頼んでない、と思いながらそう言うが彼女の耳には入っていないようで。まずはデートがどうとか呟いている。
「んー、でもいきなりデートってのも難しいか〜。だったら私がその子とお近づきになって、三人で出掛けて……隙を見て二人きりにする。うん、いい感じ!」
「……もう勝手にしてくれ」
楽はついに匙を投げてしまった。
後に後悔する事になる。
なぜ、どうしてこの時、無理に止めなかったのだろうかと。まさか彼女があそこまで行動を起こしてくるとは夢にも思わなかったのだ。
(フレー、フレー、が、く!)
(やめろ、恥ずかしい!!)