#20
「歌ってる時と今とで、一番雰囲気変わるのって龍之介さんですよね」
特に意味は無く発言したつもりだったのだけれど、その言葉を聞いた龍之介は、少しだけ下を向いて口を閉じた。
(あれ?あんまりしたくない話題だったかな?)
その表情と仕草に、温度を感じた奏は、少しだけ後悔した。したけれど、どうしてこの話をしたくないのかは分からなかった。
楽と天の方を向いてみたけれど、目を逸らされてしまった。
これ以上話を続けて良いのか迷ったが、思いきってそのまま話を進める事にする。
「歌ってる時のセクシーな感じも素敵ですけど、今の優しいお兄さんみたいな龍之介さんも素敵ですね」
八乙女宗助が、アイドルに対してキャラを作っているのは楽を通して知っていた。
彼は優しいので、その前向きな感想を聞いたら少しでも喜んでくれるのかと思ったけれど、暗い顔になってしまう。
「それは……」
彼は、静かにぽつりと呟く。
「やっぱり自分のキャラを偽るべきじゃないのかな」
「え、何でですか?」
「……え?」
龍之介は思った反応と違ったので、呆気に取られてしまった。
肝心の奏も、瞳孔を見開いてキョトンという顔をしている。
今まであまり彼女の顔を見ていなかったけれど、改めてよく見ると猫みたいな顔だと思った。
「だって、龍之介さんは龍之介さんじゃないですか」
そして猫のような彼女は、首を傾げながらそんな事をさらりと言ってのけた。
「今の龍之介さんも、歌ってる時の龍之介も、雰囲気が違うだけで『龍之介さん』には違いないじゃないですか」
最初の雰囲気からは想像が出来ない位に、とても無邪気に笑う。
それを見た瞬間、心臓が胸の外へ飛び出すみたいに激しい鼓動を打った。
初めて覚えるその感覚に戸惑いながらも、龍之介は熱くなった頬に手を添えた。
「そ、っか……そうだね」
「はい!」
自分の方が背が高いので、彼女はこちらを見上げながら笑った。
あれ、と止まる。
彼女の事は最初から可愛いと思っていたけれど、どうしてだろうかと思う程に今、彼女がとても可愛いと思ってしまう。
自分がこんなにも胸がときめくなんて、知らない。
「……奏、ちゃん」
「はい、なんですか?」
「あ、ううん!何でも、無いよ」
「?」
顔が、熱い。
名前を呼んだだけ、なのに。
もしかして、とも思うけれど、その感情の正体には気付かないフリをして、なるべく自然に笑うようにした。
世界の色が変わった日
(抱き締めたい、なんて)
(そんな欲もしまい込む)