#18
「き、緊張する……」
TRIGGERと会うのは、なんだかんだ初めてで、自然と胃が痛くなる。
IDOLiSH7の時もそうだったが、意外に自分でもびっくりする位に小心者のようだ。
(というか……スタジオ広っ!!)
小鳥遊事務所の社員として働いているけれど、まだ事務所の外から出ていない範囲で働いているので、こういったスタジオに入るのは初めてだった。
ちゃんと「STAFF」というプレートを首からぶら下げ、TRIGGERの控え室を探しに行く。
(迷う気しかせん……)
きょろきょろと挙動不審に辺りを見渡しながら、曲がり角に曲がろうとして、
「ぶふっっ」
何か固い物にぶつかった。
まさか自分以外に、壁の端の方を歩く人がいるとは思わなかった。
ぶつかった鼻が痛くて、思わず抑えていると、視界が暗くなる。
「ご、ごめんね。大丈夫?」
背の高い男性が、こちらを心配して顔を覗き込んでくる。目の前がなんとなく暗くなったのも、その為のようだ。
(背、たっか!!!!)
ぱっと見た所、180は優に越えていて、もしかしたら190あるのではないだろうか。
「って、十龍之介さん?」
よく顔を見てみれば、今やテレビに引っ張りダコの『TRIGGER』の十龍之介だった。
彼は一瞬きょとんとしてから「新人アイドルさん?」と首を傾げる。予想外の天然発言に、目を剥いてしまった。
「ち、違います!私は──」
「なんだよ。やっぱり迷ったんじゃねぇかよ」
どすん、と頭に誰かの腕が乗る。
「がっく──楽、さん」
愛称で呼びかけて、慌てて修正する。
自分で呼んでおいてなんなのだが、鳥肌が立ってしまった。楽さん、なんて呼んだ事が無かった。
「お前に楽さんとか言われると気持ち悪いな」
だから脳内同じやめい。……まぁ、お互い、幼馴染みなのだからしょうがないのだろうが。
すると、楽の後ろから綺麗な白い髪を靡かせて、九条天が歩み寄ってくる。
楽の隣に並ぶと、訝しげに楽と奏を交互に眺める。
「何、新人アイドル?それとも楽の恋人?」
「私ががっくんの恋人?
……あはは、違いますよー!」
「……なんで笑ってんだ」
「だって有り得ないやん!あはは!」
「…………」
胸を抉られた、というような表情をするけれど、幼馴染みの彼女はそれに気付かずにずっと笑っていた。
彼女の中ではちょっともそういう事を考えていなかったからか、無意識で仕事モードが解除されている。それが尚更物語っているようで惨めになる。
「なるほどね、一方通行か」
「……黙れ」
天と楽の会話を聞いても「?」を頭に浮かべる龍之介は、本当に筋金入りの天然だ。
「えっと、結局は?」
「あ、すみません。申し遅れました。
私、十六夜奏といいます」
「……十六夜?」
天がぴくりと反応した瞬間、楽が彼をそれ以上発言しないように手で制する。
(……へぇ)逆にそれは、疑念を確信に変える行動であった為、天は心の中で納得した。
「実は私、作曲家として八乙女社長にスカウトされたんですけど、まだ保留にしてもらってまして……とりあえず、皆さんに合う曲を作れて、尚且つ全員に認められる事が出来たならその時は受けようかと思ってまして」
あくまで自分を作曲家として認めるのは、社長ではなく、その曲を歌う者だ。と、そう言いたいのだろう。
そもそも、八乙女宗助のスカウトを一つ返事で引き受けない人物がいるとは思わず、天は「ふーん」という言葉を溢す。
彼なりの、感心の意だった。
龍之介も素直に、彼女のその根性を曲げない姿勢が、凄いと思った。
「……分かった。じゃあ、しっかりと見ててよね。『TRIGGER』の姿を」
三人の中で一番の年下だというのに、とても頼もしくて大人びた様子で薄く笑う彼が、すごくカッコいいと思った。
後ろ歩きも今日まで
(私もそのプロ根性)
(見習いますかね)