#15
三月と共に作ったハンバーグは、驚く程に上手く出来た。早く自信作のハンバーグを皆に見せようと、二人して急いで他のメンバーを呼んだ。
「やった!ハンバーグだ!」
「oh!エクセレント!」
「うわぁ、美味しそうだなぁ。これ、三月も作ったの?」
「ああ!」
「ワタシもカナデと作りたかったです……」
「ナギ作れないでしょ」
環が光の速さで椅子に座った。そう思っていたら、陸と三月が微笑ましく話している横で、ナギと大和がそんな話をしていた。
たまにナギはそういう発言をしているが、彼の国の人々はみんなこんな感じなのだろうか。
あまりこういった扱いに慣れていないので、なんだか擽ったい気持ちである。
『いただきまーす』
やはり皆ハンバーグが楽しみなのか、いつもより声が弾んでいた。
「うめぇ〜……」
「本当だね!美味しい!」
環と陸が相変わらずの素直な感想をくれるので、胸がいっぱいになる。
彼等の素直さを見習いたまえ、黒髪君と眼鏡君。
「壮五君も美味しい?」
「はい。美味しいですよ、奏さん」
『!?』
かちゃかちゃという音が、途端に止む。
奏と壮五は不思議そうに、こちらを一斉に見る六人の方を向いた。
「いつの間にそんなに仲良くなってたんですか!?」
「ワタシもアナタに親しくして欲しいです!」
「え、ええ!?わ、わわ!!」
先に発言した陸の声を遮らんという勢いでナギが発言したと思っていたら、ガタッと立ち上がり奏の手を急に握ってきた。
意外な位、純情な反応を示す。
「──やめなさい」
本当にお兄さんのように大和がナギと慌てる奏の握っている手を無理矢理断ち切った。
恐らく困っている事に気付いてくれたのだろう。
思っていたよりも大きくて逞しかった彼の手にドキドキしてしまっていたので、離れた途端にほっとしてしまう。
逆に、ナギは「oh……」と残念そうにしていたが。
「でも、確かに壮五だけじゃなく、オレ達にもタメで話してもらいたいよな」
一織のように敬語が癖、というのならしょうがないけれど、普通に話せるのなら普通に話して欲しい。
このままだと距離感の差を感じたままだ。
「……そうですね。僕だけでなく、皆にもオフ位は気楽に話した方が奏さんとしても良いんじゃないでしょうか」
「ちょっと、寂しいですけど」本当に小さく、ぼそりと何か言う。
「え、と。皆さんが良いのでしたら……」
「モチロンです!」
「お兄さんももちろん良いよ、同い年みたいだしね」
他の四人も、息を合わせたように頷いてくれる。
仕事中タメが出たらどうしよう、という心配もあるけれど、それ以上にみんなに自分を認めてもらったような気がして、嬉しさが込み上げてくる。
壮五に初めて普通に喋りかけた時、距離が縮まったように感じたあの瞬間を、思い出した。
「ありがとう、みんな!
改めてよろしくね!」
嬉しくて、満面の笑顔を見せる彼女に、七人は各々の感情で微笑んだ。
「beautiful!」
「ほぁ!!??」
今まで横にずっといたナギが、いきなり思いきり抱き締めてきた。あまりに驚き過ぎて物凄く女子力の無い声をあげてしまう。
慌てて三月が二人を引き離そうとするが、かなり強い力で抱き締めているのでなかなか剥がせない。
「おいおい、ナギ!奏さんが潰れっから離せって!」
「ナ、ナギくん。お、落ち着いて!」
「そーちゃんがな」
何故か壮五が慌てたようにナギの周りをくるくると回る。彼は果たして何がしたいのだろう。
一方、大和は先程のようにまた引き離そうかとも思ったけれど、眺めていると面白いので傍観者を気取っていた。
「な、ナギく……」
「oh!sorry!笑顔があまりに美しかったものですから!」
「なっ……!」
さらり。
息をするかのように、そんな恥ずかしい台詞を吐くものだから、カッと顔が真っ赤になった。
だから褒められ慣れてないんだって!
「さ……」
パクパクと鯉のように口を動かしていたかと思えば、くるりと七人に対して背中を向けた。
「さいなら!!!!」
それから、不思議な動きをして出ていってしまった。擬音を付けるのなら、カサカサ、だろうか。
そこまで照れるか、と一織と環は彼女の背中を見送りながら唖然としていた。
「照れた彼女もprettyですね!」
そうか?完全に動きが虫みたいだったぞ。と、三月と大和は思ったけれど黙っておく。
とりあえずハンバーグは美味しかった。
不慣れなそのぬくもり
(抱き締められるなんて)
(思ってもみなかった)