#11
今日は7人での練習ではなく、MEZZO"(環、壮五)とピタゴラス組(三月、大和、ナギ)、Fly awayコンビ(一織、陸)で練習をする(MEZZO"の他の二組はそれぞれ分かれて歌を出している)。
個人個人のウイークポイントを洗い出す為だ。
奏としてもいずれはやりたかった事なのだが、なんと提案してくれたのは一織だった。
先日一人一人の振り付けを指摘したのを買っての事らしい。
まさかこんなに早く自分の能力を認めてくれるとは思わず、かなり驚いてしまった。
目を点にしていたら一織は、
「別に貴女を特別信頼している訳ではありませんから。ただ、観客と同じ視線である第三者からの観点が欲しいだけです」
と口にしていたが、三月が隣でボソッと「ああ言ってっけど、一織なりに信頼してるみたいだから」と口添えしてくれたので嬉しくてにやつきが抑えられなかった。
にやけすぎて一織に怒られてしまったので、切り替えて仕事をするとしよう。
──MEZZO"の場合。
(そもそもメッゾは反響の大きかった二人で作ったユニットだから外面は良いと思うけど……)
肝心なのは、
「環君、まずは僕達の番だって行ったじゃないか!」
「だから来たじゃん」
「5分前行動だって言ったじゃないか。事務所内だからって気を抜かないで!」
「あー、はいはーい」
「環君!」
(内面だよねぇ……)
どうしてこんなに息が合わないのだろうか、この二人は。
声の相性はぴったりで、ただ歌う分には申し分無いのだが、こうも息が合わないと、いずれ歌にも支障が出てくるかもしれない。
「よし!メッゾの二人は歌は完璧なので、バラエティの練習をしましょう」
「マジで!?楽しそうじゃん!」
「バラエティ、ですか……」
ここでもう正反対の反応を見せる二人の息を合わせる事なんて出来るのだろうかと頭を悩ませてしまう。
「じゃあ定番の連想ゲームをしてみましょう。お題は私が提示しますので」
「おー」
「が、頑張ります……」
小さなホワイトボードを二人に手渡す。
連想ゲームは、お題を『赤い果物といえば?』とした場合、お互いに答えそうな回答を考え、ホワイトボードに書いてそれを見せ合い、一緒の答えを書いていれば得点が貰えるというゲームである。
お互いの息を合わせるには良いゲームと踏んだのだ。
「よし、いきますよー!」
お題『夏といえば?』
最初は少し幅広い回答が返ってきそうなお題にしてみる。まずはお互いの事を考える事が大事だと思ったのだ。
環はお題を見た瞬間に「これだ!」と思った物があるのか、素早くホワイトボードに書きなぐっている。
逆に壮五は悩み過ぎという位に深く考えてしまっているのか、ホワイトボードを見つめたまま固まっている。
(……大丈夫かな)
不安しか無かった。
「はい!時間切れです!」
「俺自信あるぞ!」
「では『いっせーのせ』でオープンしましょう。──いっせーのせ!」
ジャン!とホワイトボードを表にする。
環───『かき氷』
壮五──『海』
お互いその回答を見た瞬間に、驚くような反応を示す。
「夏といえば『かき氷』だろ!?」
「か、かき氷は夏でなくても売ってるだろう?だから海かと思ったんだけど……」
「でも夏に食うから旨いんだろ!」
「そ、そうか……」
環の主張に完全に押される壮五。別にこれという正解は無いので、そこまで責めなくてもと思うが。
「ま、まぁ、最初ですから!こんなものですよ!」
次行きましょう!と努めて明るく言えば、二人共今書いたものを消して大人しくなった。
次のお題は、
『四葉環といえば?』
「俺?」お題が自分だとは思わなかったのか、目を丸くしている。
今度は少しだけ考える素振りをする環。彼は別にアイドルとしてキャラを作る質では無いし、ごく自然体に『自分』という役割をこなしているので、自分といえばという問いに少しの迷いが生じたようだ。
反対に、今度は壮五が相方として環の近くにいるからか、先程よりも迷いなくボードに回答を書いていた。
「いっせーのせ!」
環───『王様プリン』
壮五──『ダンス』
「そーちゃん!俺いっつも王様プリン連呼してんじゃん!」
「い、いや、そうだけど……ダンス上手いからつい……」
「!! しょ、しょうがねぇな、そーちゃんは!」
(照れてる……)
文句を延々と語りそうだったのに、壮五の純粋な一言で途端に照れたようににこにこ笑う環と、そのやり取りに思わずほくそ笑んでしまう。
やはりそういう反応は子供らしくて癒される。
「じゃあ次行きたいと思います!」
『おにぎりの具といえば?』
急に選択肢の絞られるお題になったので、二人はそこまで考え込む事もなく書き始めた。
そろそろここら辺でお互いの答える内容がなんとなく分かってきた頃だろう。
一回でも当たれば、自信もつくだろうと思いながら「いっせーのせ!」と合図を送る。
環───『梅干し』
壮五──『
『なんで!?』思わず環と奏が口を合わせて突っ込む。
「なんで書き直したんですか!?」
「王様プリンはおにぎりに入れねぇよ!!」
「というか入れられませんから!」
「お、おにぎりに入れる位好きなのかな、って……」
顔を俯かせながら、さすがに今のは無かったなと反省する壮五。
書き直す前ですら合っていない所がなんだか痛々しかった。その上、その答えも正反対で救いようが無い。
(これ一生合わない運命なのでは……)
さすがの奏も、挫折しかける。
けれど、次で最後だと二人に告げ、かなり真剣にお題を考える。
誰が予想しただろうか。まさかたかが連想ゲームというお遊びに、こんなにも三人が頭を悩ませながら真剣に向き合うとは。
絵面的にはとてもシュールなので、こじつけで言った「バラエティの練習」的にも壊滅的だった。
そして、とうとう最後のお題──
『花見といえば?』
これは自分でも、上手いお題だと思った。
なぜならこのお題を見れば、誰もが少しでも「あの食べ物」が出てくるはずだからだ。
おまけに先程から環は食べ物しか答えていない。食べ盛りだからこそ、そちらに頭がいくのだろう。
そろそろ壮五も、環の答える事が分かって来ただろうし、彼の方が完全に環に合わせられるようになれば完璧だ。
それが最善では無いけれど、今はとりあえずそれで良い。
「いっせーのせ!」
環───『桜』
壮五──『団子』
「環君!?」
「そ、そーちゃんがこう答えると思ったんだよ!」
(ちゃんと壮五君の事を考えてくれたんだ……)
「確かにそれが一番に出てきたけど……まさか環君が……」
僕に合わせてくれるなんて、とは言えなかったけれど、壮五は少しだけ嬉しかった。
自分達はどんなに頑張ったって合わないのだ、自分がどうにか合わせるしか無いのだ。そう思っていたから。
けれど、少しでも環君には自分と合わせようとする気持ちがあるのならば、いつか遠くない未来自分達は仲良くなれるかもしれないと思った。
それは、奏も同じ事を感じた。
(これからはMEZZO"を温かく見守っていようかな……)
彼等の仲が、これから自然に縮まればいいと、そう思ったのであった。
二人のポラリティ
(彼等が仲良くなる時)
(二人は大人に近付く)