#10
彼等の曲の作詞をする為にも、彼等の曲をとりあえず聞いてみる。
実は今まであまりIDOLiSH7の曲をしっかり聞いていなかったので、改めて聞いてみると曲も素晴らしいのだが、彼等の歌を聞いていると不思議と励まされるのが本当に凄いと思った。
それは、彼等に会う前なら謎で終わったかもしれないが、今なら分かる。
彼等ならこれから数多の人達を夢中にさせる事が出来る、そう思った。
奏の脳裏には、彼等『IDOLiSH7』が楽率いる『TRIGGER』の隣に立つ姿が想像出来た。
それを、奏はとても見たいと思う。その為には自分も出来る限り頑張りたい──
「十六夜さん?」
「わっ!」
トン、と肩を叩かれ、大袈裟な位に体を大きく跳ね上げてしまう。
「すっ、すみません!そんなに驚かせてしまうとは思わなくて……」
「そ、壮五さん……。い、いえ、こちらこそすみません!」
大袈裟に反応してしまった事が少し恥ずかしくて、顔を赤らめる。
「何を聞いていたんですか?」
「えっと、皆さんの曲を聞いてました」
「あ、敬語……」
「え?」
「十六夜さんは僕より年上なんですから、気を使わないでください」
年上、という言葉がずしりと来る。
彼は大人しいし、しっかりしているから気にならなかったが、まだ彼は20歳なのだ。
2つしか違わないというのに、なんだかハタチという響きが羨ましく感じた。
「十六夜さんは公私を完全に分けられる方みたいですし、せめて仕事外では気を楽にしてください」
かなり気を使わせているのはどちらかというとこちら側な気もするが、しかしせっかくの提案を邪険にするのも気が滅入った。
「分かった!ごめんね、逆に気を使わせたみたいで」
「いっ、いえ……!」
やはり今まで気を使っていたのか、敬語が無くなった途端に自然な笑みを向けてくる彼女に、思わず緊張してしまった。
マネージャーである紡は、年下だという事もあり、あまりそういう意識をした事が無かったのだが……彼女は女性らしい魅力があると思った。
今まで大人らしくキリキリ仕事する様子を見てきたけれど、こうやって笑みを浮かべるだけで、無邪気で子供っぽいような一面を見たようでドキリとしてしまう。
(……って、僕はなんて事を考えているんだ!?)
「ど、どうしたの!?」
壮五は微笑まれた位で勝手にドキッとしてしまった自分に罪悪感を感じ、テーブルに頭を打ち付けた。
予想外の過激な行動に奏は狼狽えた。
「す、すいません……なんでも無いんです」
(なんでも無いようには見えんのだけど……)
「強いて言うなら己の愚かさを呪っていました……」
「それなんでも無くないよね!?大丈夫!?」
彼は酔ってるんだろうか、と思ったけれど顔は赤くないし、大丈夫みたいだ。
(女性というのは奥深いな……)
年下、同世代、年上でそれぞれ雰囲気も接し方も違うからどうしたらいいか分からない。
相方の環なら、そんなの一緒でいんじゃないの?と言うだろうが、それではいけない。というかそれが出来たらどんなに楽か。
年上の女性というのは、かなり年が離れている人と位しか接点をほとんど持った事が無かったような気がする。
「あ、そうだ。私の事は十六夜さん、じゃなくて奏で良いよ!」
「……奏、さん」
「うん!」
「へへ、なんか嬉しいな」とそれはもう嬉しそうに微笑むので、壮五はもう一度テーブルに頭を打ち付けたかった。
──その顔は反則だ!!
彼の憧れの人リストにはTRIGGERの他に彼女の名前が追加された。
(恋愛感情は決して無い)
(眩しい人に憧れるだけ)