#08
「じゃーん!私が皆様のご飯を作らせて頂きましたー!」
寮内をうろついているかと思えば、ご飯を作っていたのかと七人は納得した。
「聞いた所によると、皆様のご飯はほとんど出前やお弁当だと言うでは無いですか!アイドルたるもの、食事バランスは大事です!お弁当屋さんのお弁当もバランス的には悪くありませんが、それでも手作りの方がコスト削減&出来立てを食べられます。ですからこれからはなるべく私が作らせて頂きます!そもそも手作りのご飯には愛情が──」
「なげぇよ!!!!」
どれだけ話せば気が済むんだと、三月が強制終了させる。
彼女、先程ダンスの指摘をした時にも少し思ったが、話し始めると止まらないらしい。しかも今は比較的オフに近い状態だからか、素が出ているのだろう。
誰かに言われた訳でも無いようだし、さてはかなりのお節介だな。
「でも、確かに美味しそうですし、見た所バランスもかなり良いですね」
「すげー、旨そー」
一織が冷静に分析している横で、環がよだれを垂らさんとする勢いで料理を食い入るように見ている。
その横で、他のメンバーも圧倒されたように料理を見つめていた。
「自信作ですよ!」
ふふん、と満足気に笑って胸を張る。
彼女は公私を完全に分けるようで、先程までの大人しくて真面目そうな彼女はどこへやら。
今の奏はどこか子供っぽい所があるみたいだ。
『いただきます』
久々に揃った七人での食事。今まではMEZZO”の二人が忙しく、揃わなかったのだ。
これからは、他のメンバーも各々仕事が入るであろうし、七人での仕事も続々増えるだろうと思われるので、なんだかんだ今日はラッキーデイかもしれない。
「うまっ!」
「本当!美味しいです!」
環は男子高校生らしい物凄い勢いで食べ進め、陸はきらきらとした瞳でこちらを見てくる。
その光景に、奏は満足感に浸りまくっていた。
「……これ、本当に貴方が作ったんですか?」
「実は料理人呼んだとかか?」
「和泉兄弟酷くありませんか!?」
何故疑われているんだ!?
「人間誰しも意外な特技ってある物だよな」
けらりと笑いながら冗談だろうが、奏の心を抉るIDOLiSH7リーダー。
知ってた。この人絶対悪ノリするだろうって知ってた。
なら、彼は大丈夫だろう。
そう思い、IDOLiSH7随一の良心である逢坂壮五の方を見る。
彼なら悪ノリなんてする事は無いし、優しい人だから大丈夫だろう。
「え、えっと、僕はちゃんと十六夜さんが作ったって信じてましたよ」
「壮五さん(IDOLiSH7の良心)……!」
「見た目綺麗でも味は破壊的だと思ってたなんて事はありませんので!」
「ゆ、唯一のIDOLiSH7の良心が!!」
彼が本音をぽろりと漏らした瞬間だった。
「ワタシはアナタが料理得意でも、けっしてバカになんてしません!」
「ナ、ナギさーーーーん!!」
彼女の耳には彼の名を叫んだ瞬間に「エンダアアア!イアアア!」という曲が流れていた。
そんな茶番をした後、なんだかんだで全員完食してくれたので満足して後片付けをする。
後片付けは任せて帰宅しようかとも考えたのだが、今日一日真剣にレッスンをしていた彼等を少しでも休ませたくて、やはり片付けもする事にした。
(今日はがっくんも深夜まで仕事があって会えないしね)
誰もいない部屋に帰ったってつまらない。
きゅ、きゅ、と洗った食器を拭いていると、冷凍庫に大きな影が近付いてきた。
「環さん?」
彼は猫のように身を翻したかと思えば、冷や汗を流しながらこちらを警戒する。
(……ははーん)
「王様プリンは一日に一個って、さっき壮五さんが言ってませんでした?」
「なっ、それはソウちゃんが勝手に決めただけで俺は良いなんて言ってねーし!」
「でも糖分の過剰摂取はアイドルとしてあまり良くないですよ?」
「だ、だけど摂取しなさすぎてもストレスであんま良くないだろ!た、多分!」
子供か。
こうなったらあらかじめ練っていた対策を決行するしかない。
「環さん……実は幻の『黄金の王様プリン』っていうのがあるんです」
「な、なんだそれ?俺、聞いた事無いぞ?」
「だから幻なんです」
「あ、そか」
「一日に限定一個で闇取引されている物です」
「なんか怖いな……」
「それが実はこちらに」
「闇取引したのか!?」
「ええ……死にかけました」
「そんな命がけなのか……!!」
彼女が冷蔵庫の奥から取り出した物は、黒い容器に入っていて、確かに闇取引されてそうだと思った。
「これを、王様プリン大好きな私の同胞である環さんに明け渡します……」
「い、いいのか……これ!」
「良いんです……」
涙を飲む仕草をしながらも、悔いは無いという清々しい笑顔をする彼女の手にある闇王様プリンに手を伸ばす。
ひんやりとよく冷えていて、まるで普通のプリンのようだが、環の目には禍々しいオーラが見えていた。
魔のオーラを放つ王様プリン……言わば、魔王プリンという所だろう。
「その代わり、一日一個ですから」
「わ、分かった!」
素直に頷く彼に、影でガッツポーズをする。作戦大成功だ。
早速スプーンを構えて食べようとしているが、その表情はまるで熊と素手で戦おうとする戦士の顔だった。
「んん!!??」
「な、どうしました!?」
ドキッとして環を問いかければ、彼は見た事の無い位無邪気な顔で、
「超旨い!」
と笑ってくれた。
「へっ?」
思わずすっとんきょうな声を出してしまう。
(実はそれ、私が作ったやつなんだけど……なんか、)
──嬉しい、な。
にやける顔を抑えられず、その日はそのまま嬉しそうに楽にラビチャをめちゃくちゃ送ったそうな。
(怖っ!あいつから通知20って……)
(しかも内容くだらなさすぎかよ……)