出会い

この世界には能力(アビリティ)≠ニ呼ばれる物がある。


主に『炎』・『草』・『水』属性で成り立っていて、他には『電気』・『氷』・『格闘』・『毒』・『地面』・『飛行』・『(エスパー)』・『虫』・『岩』・『(ゴースト)』・『(ドラゴン)』・『悪』・『鋼』・『無色(ノーマル)』とある。


もちろん、その能力を戦いの物として扱える者は多くは無く、生まれ持つ魔力の大きさもそれぞれ違う為、ほとんどの人々は能力を使わず、力量(レベル)も上げずに平和に過ごしている。

それは能力を使わずしても生活出来る事もあり、そしてもしもの時に動けるような戦闘員が存在するからである。

彼らはまだ少年少女というに相応しい年齢であるが、実力は確かだと能力研究者であるオーキド博士のお墨付きだった。

これは、そのリーダーである赤い少年と、一人の謎の少女との出会いによって巻き起こる大騒動の話である──




Chapter.01
出会い




「イエロー!!」

バンッ!!

思いきり扉を開けて中に駆けていくと、自分が呼んだ張本人である『イエロー』は驚いたようにフードを急いで被っていた。

「?」

『彼』は、いつも家の中にも関わらず、フードや帽子を被って過ごしている。

それは今じゃ当たり前の事のようになっていて、疑問に感じる事は無かったのだが、目の前で被るのは初めての事で、今まで被っていなかったのにどうしてわざわざ被るのかと疑問に思ってしまう。

いや、しかし今はそれよりも、

「この子を看≠トくれ!!」
「!!」

背中におぶっていた少女を下ろして、イエローの前に横たわらせる。

すると、少女のボロボロな体を見て、イエローは驚いたように目を見開いた。

彼女が身につけているのが真っ白なワンピースの為、より一層その傷や汚れが目立って見えた。

「大変だ! すぐに治療を!」

イエローは焦ったように言うと、救急箱を取り出す訳でも無く、少女の傷の部位に手をかざした。

それを見ているレッドも、「なにやってるんだ!」なんて叱咤する事も無く、ただ緊張した面持ちでイエローの手元を見つめていた。

イエローが目を瞑ったかと思うと──手元が優しい光に包まれた。

そして、その優しい光は少女の傷をすぅっと消していく。


『癒しの力』。


それが、イエローの持つ能力であり、唯一の魔法である。

「傷は治りましたけど、洋服は汚れたままですから、ブルーさんに着替えをお借りしましょう」
「そうだな。帰ってきたら、グリーンと一緒に説明するか」

ブルーはともかく、グリーンは酷く警戒をしそうだ。

上手く丸め込む事が出来るだろうか。彼は頑固な所があるから骨が折れそうだ。

考えただけで気が重くなる。

そんな事を考えて渋い顔になっていると、イエローは「ハイ」と小さく返事をしながら、目線は少女の服にいっていた。

「……この足跡、誰のでしょう。せっかくの白い服が汚れてます」
「……………………」

その悲しそうな呟きに、レッドはダラダラと冷や汗をかきながら明後日の方向を向いていた。

イエローはずっと少女を見ているから気付いていないが、その反応は明らかに真犯人であった。

「いや、違うんだ。そんなつもりは無かったんだ。ただ気付かなくて踏んでしまったのであって、そう、これは不可抗力なんだ。信じてくれ」

頭の中でそんな言い訳を悶々としながら、レッドは嘘の吐けないその素直な性格により高鳴る心臓を抑えられずにいた。

「たっだいまー!」

レッドにとって最も奇跡的なタイミングで玄関の扉がけたたましく開く音と、御機嫌に弾む少女の声が響いた。

レッドとイエローは同時に勢い良く顔を上げる。

お互いの顔はどこか緊張の色を浮かべていた。二人は各々ブルーとグリーンにどう話そうかグルグルと考えながら、ただひたすらに二人がこちらの部屋に来るのを待った。

二人分の足音が段々大きくなり、こちらに迫って来ている事が認識出来る。



──カチャ



そして、ドアが開く。

レッドとイエローは通常すぐに「おかえり」と口にだして出迎える所なのだが、今この時だけは固唾を飲むしかなかった。

「…………」

しかし、荷物持ちをさせられたのか両手にかなり大量の袋を持ちながらムスッとしているグリーンが視界に入ってきた瞬間に、二人は緊張なんてどこかにいってしまった。

「グリーンが荷物持ちさせられてるなんて珍しいな……」

唖然としたようにレッドが言えば、後ろから気合いの入った格好をしたブルーが上機嫌に微笑みながら現れた。

「オホホホ。賭けに負けたのよねー?」
「……お前がイカサマをしたからだ」

眉間に皺を寄せながら不服そうにするグリーン。

そのグリーンの言葉に、レッドとイエローは嗚呼と納得した。さすがはブルーである。

そもそもよく賭け事(ちなみにクラップスという二個のサイコロの出目を競う遊戯である)なんて付き合ってやったものだ。

いつもならそういう類の物は拒否するはずなのに。

「あまりにもうるさかったからな……仕方無く付き合ってやったのにこれだ」

やれやれ、と荷物をソファに置いて体をほぐす仕草をするグリーン。どうやら相当長い時間付き合わされたらしい。

「ホホ、でもグリーンのおかげで助かっちゃったわ。ありがと!」

ぱちり、と可愛らしくウインクする彼女は相変わらずの美人だった。

だが、そんなものはグリーンには効かず、無視してソファにどっかり座っていた。

「もう! せっかくこんな美人がお礼言ってんのに無視!?」
「……うるさい女だ」

はぁ、と深い溜め息を吐く。

本当に喧しそうにするのだからブルーは口を尖らせた。

(ま、でも付き合ってくれただけ珍しいし……良しとしますか──)

腰に手を当てながらグリーンから視線を逸らす、と。

ブルーの視界にはレッド、イエロー、そして謎の少女がイエローの後ろで横たわっていた。

「アラ、その子……」

すっ、と謎の少女に近寄れば、レッドとイエローは今更ながらに体を硬直させる。

「アンタ……」

突き刺すような視線を向けられ、レッドは思わず肝を冷やした。

そういえば、どう上手く説明をしたらいいか考えていなかったと、今頃思い出す。

──馬鹿野郎、オレ!

既に後の祭りだという事は承知の上だが、どうしても後悔の念に駆られてしまう。

そして、ブルーがレッドに向けて口を開け、

「ついに女の子連れ込むようになったのね……」
「ち・が・う!!」

……とんでもない事を言い放った。

「オレは自主トレしてたらこの子が倒れてたからイエローに手当てしてもらう為に連れてきたんだよ!! 変な誤解すんな!!」
「なぁんだ、つまんないわねぇ」
「面白がんな!!」

と、突っ込みを入れてから気付く。

なんだ。説明出来てるじゃないか。……ツッコミのノリで小休止も無しに早口で言った為に上手く説明出来たかは分かりかねるが。

「……で、どうするんだコイツを」

ソファの背もたれに両肘を乗せながら座るグリーンが、その新緑の色をした眼を鋭く光らせて言った。

思わずギクリとする。

「どうする、って?」
「まさか目が覚めるまでここに置いておくつもりじゃないだろうな? もしこの女が悪党だったらどうするんだ。これが寝たフリで、隙を突いて攻撃をするつもりなのかも知れないだろ」
「……お前、何言ってんだよ」

酷く冷たい口調で淡々とそんな事を口走るものだから、レッドは耳を疑った。

「可能性がゼロという訳じゃ無いだろ?」

より一層淡白に言うグリーンに、握っていた拳がぶるぶると震える。

このまま手袋を取り、炎のパンチ≠かましてやろうかとさえ思ってしまう。

「そ、それはないです! 彼女、本当に傷だらけでしたし、寝たフリでも無いです!」

イエローがありがたい助け舟を出してくれる。

「グリーン、お前なんでそんなに疑り深いんだよ。いや、いつもだけどさ、今日は特に──」
「レッド」

すっ、と向けられた目は先程のように冷ややかな物では無く、ただただ真剣で、そしてどこか苦悩の色が見て取れた。

思いがけずレッドは言葉を飲み込んだ。



──近いうち、何かとんでも無い事が起こるじゃろう。



能力研究者の祖父、オーキド博士から言われた言葉がグリーンの頭に蘇ってくる。

珍しく憂いを帯びた祖父の瞳に、未知の恐怖を感じたのが鮮明に思い出される。

これから何が起こるのか、予想も出来なかったからだ。

そりゃあ、今までだって戦闘員としてきちんと犯罪者と戦ってきたけれど、祖父の瞳を見ているとそんなのは序の口にしか過ぎなかったような気がした。



──その時は頼むぞ、グリーン。



大事な家族であり、尊敬する人物であるオーキド博士からの頼みを聞き入れない訳が無かった。

グリーンは力強く頷き、首にかけたペンダントを握り締めた。

その時と同じ表情でレッドを見据えれば、一呼吸置いて口を開く。

「──聞いて欲しい事が、ある」




始まりの切符
(まもなく大事件行きが到着致します)
(白い線までお下がりください)

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