満ちたりた新月

 


「はぁっ……はぁっ……!!!!」



新月の夜。

真っ暗闇の中、白い服を(まと)った少女は息せき切って疾走していた。長い時間走っていたのか、彼女の息は非常に荒く、足はもつれ気味だった。



(今日しか……! 今日しか……ない!)

そう思いながら駆ける彼女の表情は真剣で、汗の滲む顔に張り付く髪の毛が向日葵色に光っていた。








とある昼下がり、黒髪の少年  レッドは大樹を前に意気揚々と腕を振り回していた。

「よっし!」

レッドははめていた手袋を外し、ポケットに入れると、左手の拳を前に突き出した。

それから右手を軽く腕に添えると、息を整えた。すると、拳からは炎が生み出され、周りは蒸気で揺れていた。

「はっ!」

突き出した炎の拳を大樹に叩き付けた。

自分の何倍も大きくて太い大樹は、炎の威力により大きな音をたてながらゆっくりと倒れていった。

それを眺めてから、レッドはガッツポーズをする。

「炎のパンチ≠ヘ完璧だな!」

一人でそう満足そうに笑いながら手袋をはめる。

毎日やっているこの特訓だが、やはり毎日自分の技の威力が上がっているのを実感出来ると楽しいものだ。

だから特訓というのは止められない(完全にバトル厨である)。

「それじゃ、そろそろ帰る……か?」

踵を返した瞬間、なにか柔らかい物を踏んでしまい、思わず足を止める。

なんだか嫌な予感がし、ゆっくりと目線を下に下げていく。目が半開きなのは恐怖からだ。

「!!」

しかしその半開きの目は下を見た事によってすぐに見開かれた。

そしてレッドはその俊敏性のある体で素早く踏んでいた物から離れ、しゃがみ込んだ。

「女の子だ……!」



escape!
(これが物語の始まり)


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