「わかったら、行くぞ。………おい?」

リュウは先程よりも歩みを早くしたが、一向に歩きだす様子の無いルナに振り返った。

唇に手を当てて何かを考える素振りをしていて、嫌な予感しかしない。

「……何だよ」
「あ、いえ。……ガルーラってトキワの森には居ないはずなんですよね。なのに何故  

チッ、と舌打ちを打ったと同時に、リュウはルナの胸ぐらを掴む。

自分でもどうしてこんな乱暴な事を彼女にしてしまっているのか謎だが、真実≠勘づかせない為だと思いたい。

当のルナは訳が分からないというように目を泳がせ、その足下ではリボンを付けたピカチュウが主の危機を感じてか、威嚇をしている。

  当然の反応だ。

「あ、あの」
「お前さ、余計な事に気が付き過ぎ。あんまり首突っ込むと痛い目見るよ?」
「は……離して下さい……!」
「………」

軽く目を潤ませるルナが悲痛の声をあげた事により、リュウは不思議と汗ばんだ自分の手を離した。

本当に今日の自分は可笑しすぎる。

確かに、彼女はロケット団を恨んでいるから、ガルーラがこの場にいる本当の理由≠聞かせたくは無い。

本当の理由  ガルーラがここにいるのはロケット団の試験だ。

トキワでの養殖。そんな感じだっただろうか。

正直、かなり興味が無くて覚えてはいないが。

ロケット団は本当に馬鹿げた事を普通にやってみせるなぁ、と呆れたように息を吐く。

「ごめんなさい……」
「な、なんでお前が謝るんだよ」

いきなり頭を下げられ、ギョッとしたように身を引く。

一方的に乱暴な事をしてまった自分が悪いと思っていたリュウは、彼女の行動が理解不能だった。

というか、逆に申し訳無い気持ちが上乗せされて、身が縮む思いである。

どうすれば良いか分からず、格好の悪い事にオロオロしてしまう。

「お、おい、とりあえず顔あげてくれよ」
「いえ、そういうわけには……!」
「いやホントにさ、オレのが悪かったと思うし……」

ズズ  ン。

再び地鳴りが鳴り響き始め、リュウも頭を下げていたルナも空を仰ぐ。

どうやらガルーラがこちらに近付いて来ているようで、大きな影が自分達に射す。

「うえええぇぇぇ!?」
「チッ。よりによって……」

明らかに空気の読めないガルーラに舌打ちをし、モンスターボールを構える。

「ま、待って!」
「何だよ」
「このガルーラ……凄く傷ついてる!!」
「ガルーラを捕まえようとした奴が傷付けたんだろ」

まるで息をするようにサラリと言えば、ルナは眉をハの字にして、袖をくいっと引っ張ってきた。

「これ以上傷付けないで!」
「…………」

一瞬、キョトンとしてしまう。

しかし、それは本当に一瞬の事で、すぐにリュウはモンスターボールを構え直した。

そしてそのまま、モンスターボールをガルーラに向かって、思いきり  投げる。

側からは「え?」という呟きが聞こえてきて笑いが込み上げてきてしまう。

ガルーラがいた所にはモンスターボール一個だけが転がっていて、リュウはルナが呆然としている中、それを拾い上げた。

そのモンスターボールを見せながら、リュウはニッと笑う。

「だから言ったろ? 無用なバトルはしない、って」
「あ……」

とたんに恥ずかしくなったのか、ルナは耳まで顔が赤くなった。

それはもう、トマトのような赤さで、堪えきれずに吹いてしまう。

「わ、笑わないで下さい!」
「はは、ごめん! つい、さ」
「つい、って何ですかっ」
「そんな事よりあそこにお仲間さんがいるぜ」
「え?」

ぷんぷん怒っているルナに対し、話を流すかのように向こうの方を指差す。

そちらには、情報通りの容姿をした「レッド」という少年が立っていた。

ルナは指差した方向へ迷わず駆けていった。

その様子がどことなく嬉しそうで、ほんの少しだけ、切なくなったり。

レッドと話しているルナの様子を見ようと、リュウはスルスルと木の上に登った。

「オーキド博士の助手、図鑑所有者のルナか……。面白くなりそうだな」

しばらくは退屈しなさそうだ。


迷子に差しのべた手
(彼女の手は温かく、)
(自分の手の冷たさが)
(身に染みてしまった)


20140525
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