世の中には、白があるから黒がある。 白だけなんて事は有り得ない。 同じように、陽があるから影がある。 それは抗いようも無い事実だ。 そして、自分は黒で影なんだと自身で謳(ウタ)っている人物がいる。 その名は × × × ザッ、と地を蹴り、マップと目の前の建物を見比べる。 カントーの田舎町に挟まれているというのに、不自然な位に豪邸だった。 住んでる人はさぞ快適なんだろうが、何分小さな少女が二人暮らしだ。 快適なんてとんでもないだろう。 両親も残酷な事をした物だ。どうして必要以上に大きくしてしまったのだろうか。 調べた所によれば、ここに住んでいる少女の母親は、生まれながらの金持ちだったそうだ。 だからきっと広い場所に住んでいなければ落ち着かなかったのだろう。 (……っと、そんな事はどうでも良いか) 目的はこの豪邸に住んでいる少女の様子見だ。豪邸を建てた推測をしようと思ったのでは無い。 どうして様子見なんて事をしようとしているかと言えば、まぁ、自分の師のような人物が欲しがっている情報を確認しにだったりする。 けれど、別に情報提供をするつもりは無い。 なぜなら、きっとあそこに住む一人の少女にとっては、あの人の元には戻りたく無いだろうから。 それでも様子見をしようと思ったのは、興味の一言に尽きる。 ついでに今日の朝に、ポケモン図鑑という物を貰ったらしい少女の事も気になったからだ。 情報屋としては、聞き逃せない事である。あの偏屈じじいと子供に言われる程の、硬い頭を持った博士が、ポケモン図鑑という不思議な機械を小さな少女に渡した。 十分、興味深いネタだ。 「よし、行くぞ。ヒカリ!」 自分の肩に乗ったピカチュウに言えば、格好良く頷いてくれた。 今は晩御飯を食べ終わった位の時刻。つまり暗くなった頃だ。 様子見には打ってつけの時間帯。 もう少し暗くなってからの方が良いのでは無いかと思うかもしれないが、待ってくれ。 それでは御風呂を覗いたり、寝顔を拝むだけになってしまう。 確かに男にとっては嬉しい限りかも知れないが、自分としてはどうもそういう事は苦手だ。 心臓がむず痒くなってしまう。 決してヘタレている訳では無い。ウブなのだ。 (それにしてもマジで広い庭だなぁ、おい……) こそこそと物陰に身を隠しながら進んでいるが、一向に家に着かないとはどういう事なんだ。 段々とやる気が無くなってきた時、近くの花畑の方から笑い声が聞こえてきた。 (おっ、どっちだろ) ガサガサと草の中を掻い潜って花畑の方に向かい、顔を出す。 リュウは、思わず花畑でポケモン達に囲まれる彼女を、見入ってしまった。 月光に照らされた顔は、きらきらと眩しい位に輝いていて、その笑顔はまるで向日葵のようだった。 世の中に、ここまで汚れを寄せ付けないような真っ白な少女がいるなんて、知らなかった。 自分と正反対な彼女に、なんだか心臓がむず痒い。 視線が ハッ、としたのは彼女の腕から出てきたポケモンに吠えられたからだった。 「どうしたの? 誰か、いるの?」 少女の声がした。凄く可愛 (ヒエン、頼んだ) ボールから信頼出来るポケモン、ガーディを出し、草の中から飛び出させる。 「わっ、ガーディだ! 可愛いです! こっちおいで〜」 リュウがそっちに行きたいような気分に駆られたが、今の内にもう一人の少女がいるであろう場所に向かう事にした。 肝心の、その場所というのがどこなのか、流石に広くて検討も着かないが……まぁ、どうにかなるだろう。 どういう風にどうにかなったかと言えば、まぁ簡単な事だ。 この家の主人(アルジ)である方の少女は、外にいる。けれど、もう一人の少女は家にいる。 だから、その少女のいる所には、灯りが点いている為に、分かりやすかったのだ。 本当にどうにかなるものなんだな、と少し脱力してしまう。 (さぁて、お目当てのお嬢さんは、と) 当然窓は閉まっていて、カーテンも閉まっているが、これだけ広い空間の窓だ。 カーテンは少し足りなくて、中の様子がちらりとみえる。 そこから、そっと中を覗いてみると(我ながら変態くせぇな、と思う)、蜜柑色の小さな少女が食器を洗っていた。 先程の少女と反対側に結われた髪は、外側に跳ねていて、後ろ姿でさえもなんだか似ていない。 だが、姉妹と言われれば少しは そんな失礼極まり無い事を思っていると、ガツンと窓にぶつかってしまう。 (やべっ!) 普通の子供ならともかく、あの天才と言われた少女が聞き逃す訳が無い。 慌てて気配を消し、カイリューを出そうとして、止めた。 カイリューの羽ばたく音なんて大きくて、尚更目立ってしまう。 とにかくまた草むらに隠れるしか無いと、すぐ側にあった草むらに飛び込んだ。 勿論、気配は殺したままだ。 カーテンは勢い良く開かれ、周りをキョロキョロと見渡す少女の姿。 本当に少女はいくつなんだと思わされる行動だ。 と。突然少女が窓を勢い良く開けて、地面に膝をつきながら側の草むらをガサガサと漁る。 何をしているのかと思えば、「あった!」という声がした。 まさか、と思ったが、それは紛れも無く自分の髪の毛で、少女の事が末恐ろしく感じてしまう。 何者だよ、あんな細い髪の毛一本を見付け出すなんて。 彼女の天才振りを十分見た所で、リュウは退散する事にした。 しかし、一つ思った事がある。 この二人は実に興味深い、と。 白と黒の境界線 (オレはあの子に) (近付けない) 20140221 ←|→ [ back ] ×
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