本当は知っていたのです。

あの時、あの格好をした私が、あそこで貴方と出会う事を。

私達が結ばれる事を  




「これなんか良いんじゃないかな」
「アラ、アルトは本当にセンスが善いのですわね」

トキワシティ一の服屋で、マリアの冒険用の服を選ぶ事となった。

マリアはふわふわとしたイメージだから、寒色よりも暖色だろうとまず思った。

そして次に、動きやすさ。

女の子として、そしてお嬢様として、スカートは外せない気もするが、跳んだりした時に下着が見えるのは頂けない。

だから、スカートとレギンスを組み合わせる感じの方が良いと思った。

「じゃあこれで良いのかい?」
「ええ。気に入りましたわ」

ふわりと微笑む彼女はやはり可愛らしく、気品がある。

それに、どことなく向日葵っぽい。

どうしてだろう。向日葵みたいな元気な花よりも、上品な花じゃないのは。

きっと向日葵のような髪だからだ。

そんな自問自答から我に変えれば、マリアが選んで買ったばかりの服に着替えていた。

「は、早いねぇ……」
「彼処に更衣室があったので、我慢出来ずに……つい」
「……やっぱ向日葵だ」
「はい?」
「何でもないよ」

はにかむマリアに思わず呟く。

なんだか気恥ずかしくって、誤魔化すように曖昧に微笑む。

「確かにこの服はとても動きやすいですわね」
「そうだろう! やっぱり旅にをするには動きやすく無くてはね」
「決めましたわ」
「ん? 何を?」
「私、貴方と共に旅をしますわ」
「え」

またマリアの悪い癖が出た。

何をするか分かった物じゃないような唐突な物言いと、思い立ったらすぐ実行という性格。

「さあ、行きましょう」
「えええええええええ」
「アラ、嫌なんですの」
「あ、いえ……」

嫌な訳じゃあ無い。寧ろこんなに魅力的なお嬢様と旅だなんてバッチコイだ。

だが、そんな唐突に決められても、困るのだ。

「どうしたんですの、アルト」
「……いや、なんでもないよ」

それでも、彼女に自分の名前を呼ばれると、何もかもがどうでも良くなって、付き合っても良いかなと思った。

これから賑やかになるな、と自分の幼なじみのポケモンであるニドラン♀に目を向けた。


♪ ♪ ♪


お嬢様という物は、色々問題があると気付いたのは、トキワの森に入ってからだった。

「……すみません」
「あ、いや、大丈夫」
「………すみません」
「あ、いや、えっと」
「…………すみませ」
「もういいよ!?」

またあの癖だ。

何をするか分かった物じゃないような唐突な物言いと、思い立ったらすぐ実行という性格と、誰に止められても止まらない猪突猛進的行動力。

マリアは執事のヤマトが言った通り、方向音痴だった。

それはもう本当に、どうしようもない位の。

という訳で、現在地、不明。

只今、迷子中  

「そんなに落ち込まないで」
「……むぅぅ」
「……それとも拗ねてる?」
「……すみません」
「気にしすぎだなぁ、マリアは」

表情がコロコロ変わるのが愛くるしくて、思わず笑ってしまう。

そんなアルトに、マリアは不満なようだ。

「……笑い事じゃないですわ」
「ははは、マリアさいこー!」
「なんだか馬鹿にしてません?」
「してないよぉ?」
「嘘ですわ……」

そう言ってむくれる。頬を膨らませて、なんて可愛いのだろう。

「でも、出る方法ならありますわ」
「! 本当かい?」
「ええ」

トキワの森は広大だ。迷ったら、なかなか自力では出られない。

また思い付きの行動じゃなきゃいいのだが。

そう心配していると、マリアが森のポケモンであるピカチュウに手をかざした。

すると、手が仄白く光る。

「……、あっちですのね。有り難うですわ」
「え、今、何したの?」
「トキワの不思議な能力ですわ」
「へえええ! 凄い!」
「有り難うございますわ。他にもポケモンを癒せますの。でもこれを使うと眠くなるのですわ〜……」

そう言って、ふわぁと可愛らしく欠伸をする。

そして両手を広げてきた。

「え、何?」
「察しが悪いんですのね。抱っこですわ。寝ますわ」
「だ、だだだだだ抱っこ?」

産まれてこの方、女の子を抱っこなんてした事が無いアルトは大層慌てた。

「は、や、く」
「う……畏まりましたっと  ん? 軽いぞ?」

それなりの重さを予想していたのだが、全然予想より軽かった。

というか軽すぎだった。

なんだか、普通より細くて貧弱な気がする。お嬢様だからだろうか。

「って、もう寝てるよ……」

すやすやと寝息をたてながら自分の腕の中で眠るお嬢様に、苦笑する。

しかし、まじまじ見ると、その端正な顔立ちにドキドキしてしまう。

「御休み、僕のプリンセス」

軟らかな唇に口付けをし、お姫様抱っこのまま歩みを進めた。


君が僕を呼ぶ甘美な瞬間
(嗚呼、この気持ちは)
(一体なんなんだろう)

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