「恐ろしい事に、2匹の力はここに来て完全に互角! こうやってぶつかりあった状態のまま、押すことも引くこともできず一見、活動停止したかに見えます。 だが、行き場を失った破壊エネルギーはどんどん蓄積され、周囲に広がっていく有り様です」 想像もつかないような二匹の激戦に、ユキは圧倒されてしまう。 「超古代伝説にあるホウエンを襲った大災厄とは…、まさにこの状況だったのでしょう…」 どうして、こんな事になってしまったのだろう。 マリがこの現状になるかもしれないと、近い事を仄(ホノ)めかしていたじゃないか。 なぜ自分は、もっと早くそれを親身に受け取って、前もってマグマ団を潰していなかったんだと後悔する。 「しかし、安心してください。この破壊エネルギーの拡張を周囲から押し止めるべく、今、力を尽くしている者たちもいます」 「周囲から押し止める……?」 「ウィ!馬鹿力≠ナ強引にね!」 ユキは頭の上でクエスチョンマークを乱舞させた。 「ホウエンでもトップクラスの腕を持つ彼等だから出来る荒技です」 「トップクラスの腕を持つ!?」 アダンの言葉に驚いていると、目の前のキングドラが作り出した水のスクリーンは、二匹の周りを広範囲に写した。 それから、ユキがもっと驚く事を、アダンは言ってのける。 「新・旧Wチャンピオン、ミクリ、ダイゴと四天王!! 彼等6人が操る伝説のポケモン!! レジロック!! レジアイス!! レジスチル!!」 そこには、ユキが見知った二人がレジスチルを操っていて、一瞬見間違いかと思って目を擦る。 しかし、何度見てみても、目の前の光景が変わる事は無かった。 旧チャンピオン 新チャンピオン どちらとも、ユキの知る人物であった。 「え、ええええええええ!!?」 思わず、ムンクの叫び状態になっていると、アダンは不思議そうにこちらを見た。 「んんん? どうしましたか?」 「え、あ、いえ……ちょっと、知っている人だったもので……」 「ミクリはともかく、ダイゴの事は知らなかったのですか?」 「ええ、まぁ……何でも見透かすような金色の眼を持つ石大好き人間位にしか……」 「あながち間違いでは無いですね」 今までそれなりに冷静を装っていたユキが途端にげんなりする物だから、アダンはクスリと笑ってしまう。 相当二人の事が苦手らしい。 大抵の人間は、二人の事を格好良いと言って敬うので、なんだか新鮮だ。 「そんな事はどーでもよろしい。大切な事は 大切な事は一つだけです、と言おうとして人差し指を突き立てようとした時、ユキが手を突き出して止めた。 「分かってます。大切な事は一つだけ。 彼らが力を尽くしたって、結局はただの時間かせぎにしかなり得ない」 その稼いだ時間の使い方は、起きた瞬間にアダンが言っていた。 だから、このマボロシ島で何をするべきかは、理解しているつもりだ。 「……なるほど。 「はい、アダンさん!」 もはや空気になっていたフウとランと呼ばれた少年少女は、瞬時にボールからポケモンを出して背中合わせになった。 『バネブーじんつうりき!!』 しかし、瞬時に反応したのはフウとランだけでは無かった。 「リージュ吹き飛ばし=I」 アゲハントが力強く羽根を動かした事により、バネブーのじんつうりき≠ェ吹き飛ば≠ウれ、逆にバネブーへと襲い掛かった。 だが、それだけでバネブー二匹が戦闘不能になるとは思わない。 だからユキは、トドクラーの入ったボールをバネブーに向かって放り投げた。 「のしかかり=I」 体重87.6kgのトドクラーが(加えて空中からの落下だ)、小柄なバネブーにのしかかる=B 想像するだに重い圧力がかかった事だろう。 バネブー二匹は押し潰された事により、目を回して戦闘不能となった。 ふぅ、と溜め息を吐くと、アダンから拍手を送られた。 「トレビアン!! 素晴らしい!」 「いきなり襲い掛かるなんて、関心しませんけどね」 反射神経辺りを試したかったのだろうが、誰でもいきなり襲い掛かられたら良い気はしない。 しかし、アダンはただ口許に笑みを浮かべるのみ。 「さすがは キミ達の言った通りだったよ」 「……………………………は?」 アダンが言った瞬間に、側の草むらがガサガサと音を発てた。 まさか、と思って振り返れば、案の定そこには、 「そうでしょう。ユキの強さは筋金入りですから」 「ユキはあたしより強かよ!」 実の兄 「いつからいたんだい……?」 「え? 最初からだけど?」 「ユキより前に起きたけんね」 「oh my god(オーマイガッ)……」 神は我を見放した……とばかりに流暢な英語を発するユキ。 ちなみに、ユキが英語を使った時は、感情がそれなりに高ぶった時だ。かなり高ぶった時は、荒々しい口調になる。 「まぁ、キミはずっと寝てなかったみたいだから、当然と言ったら当然だよね」 「ぐっすり寝てたとねぇ。寝顔が可愛かったとー!」 「……ルビー達はいつ起きたんだい……?」 「昨日」 「僕とした事が……!」 二人は昨日起きたというのに、なぜ自分は今日やっと起きたんだ。 しかも時間が無いという、緊急時に。 「さぁ、早く特訓しよう!」 「ユキがやる気なんて珍しい……」 「でもユキの言う通りったい! 早く特訓するったい!」 ただ単にプライドに触れただけなのだが、それはあえて言わないユキに感化され、サファイアもやる気に満ちた表情で頷く。 「では、交互に二人でタッグバトル、一人でダブルバトル、三人でトリプルバトルというのをやっていく事にしましょう」 『ハイ!!』 こうして、マボロシ島での『最後の特訓』が始まった…… 未来への道標 (それは自分で描く物) 20140403 ←|→ [ back ] ×
|