「ねえ、ダイ。この先起こる最大の『災い』って何かしら? これ以上の悪い事態ってなんだと思う?」

マリに話しかけられ、ハッとする。

ダイの中で、パズルのピースがパチパチと音をたててはまっていく。

「……!! 太古の伝説のようにカイオーガとグラードンが出会い、ぶつかり合ったら…、
 …きっとホウエン全体が滅びるような状況になる…!!」
「そう!! それこそが最大の『災い』!!」

アブソルに飛び乗りながら、勢いよく言った言葉は、ダイだけでなくユキの体をも強張らせた。

ふと、マリが心配そうにユキに目を向ける。

どうやらユキがアブソルに乗らずに立っている事に対して不思議に思ったらしい。

それを理解したユキは、にこっと優しく微笑んだ。

「僕はグレースがいますから」
「え、でも……」
「マリさんはグレースが小さいから心配なんですよね。だったら大丈夫です」

そっとユキがチルットを抱き締めると、チルットが仄(ホノ)かに光りだす。

幻想的な光景に、二人は目を奪われる。

しばらく見ていると、チルットの姿が小さな体から大きな体へと変わった。

  進化だ。

二人は、インタビュアーとカメラマンというTVに関わる職業であり、色々な場面で進化を見てきた。

だが、たった今見た進化は、今まで見た進化の中で一番あっさりしていて、それでいて美しくかった。

「さぁ……『災い』が起こる場所に向かいましょう!」

その言葉を合図に、アブソルがマリを乗せて駆け出した。

チルタリスとなったグレースが、それを追うように背後で大きく羽ばたく。

慌ててダイがその後を追って走り出す。

「待って、マリさん!! ボクも行きます!!」

それでも、アブソルのスピードが速く、人間であるダイの全力疾走では到底追い付かなかった。

やれやれと息を吐きながら、チルタリスに足でダイを掴んで貰い、アブソルの背に乗っけた。

「痛っ……あ、ありがとう」

打った尻を撫でながら、ユキにお礼を言うが、違う違うと首を振ってチルタリスを指差した。

「貴方も、ポケモンに目を向けてあげてください」
「あ、ああ、わかったよ。
 ……ありがとう、チルタリス」

ユキの言葉に戸惑いながらも、素直にチルタリスへとお礼を述べる。

すると、なぜか「ビクゥッ」としたチルタリスだったが、微かに嬉しそうに笑った。

「それから、アブソルにも」
「アブソルにも?」
「謝罪ですよ。被害者に対して謝罪を述べるのは当然の事です」

もっともな事だが、僅(ワズ)か10歳に言われてしまうと、本当に自分が情けなく感じてしまう。

ダイはなんとか謝ろうと、身を乗り出しながら申し訳無さそうに眉根を寄せた。

「ごめん……アブソル。
 ボクは思い違いをしてたみたいだ……」

初めてポケモンに対して謝ったな、と神妙な気持ちになっていると、アブソルがこちらに目を向け、フッと笑いかけてきた。

なんだか、不思議と嬉しい気持ちになっていると、背後から笑い声が聞こえて途端に恥ずかしくなってしまう。

挙げ句にマリまでもが微笑ましく笑う物だから、穴があればダイブしたい気持ちだ。

「ところで、凄いスピードね!! わき目もふらず一直線に進んでいくわ!!
 ユキちゃん、アブソルは一体どこへ向かっているの!?」

必死にアブソルに掴まりながら、マリは風の風圧で自分の声すらまともに聞こえず、とにかく大きな声で言う。

後ろでチルタリスに乗り、風の刺激を和らげる為に眼鏡をかけたユキは、口許に手を当てていた。

「さあ?」

真顔で首を傾げる彼女に、二人はアブソルの上から転げ落ちる所だった。

「……ダイ、アブソルがどこへ向かっているのか予測できる?」
「……今やってます」

どうして二人はそんなに諦めの目をして、こちらから目を逸らしているんだ。

ユキにとっては不思議で堪らなかった。

その時、

自分達のいる海の向こう側から、二つの光が海の中から飛び出してきた。

『あれは…!?』

眼鏡の向こうに見える光景に、ユキは驚きが隠せなかった。

「ルビー、サファイア……!?」

二人は各々、団の首領に首を掴まれて、苦しげな顔をしていた。

その二つの光が向かうのは、アブソルが見つめる方向と紙一重だった。

という事は  

「マリさん、わかりました!!
 アブソルの目指す場所、それは…」

丁度向かう場所の分析が終わったらしいダイが、ノートパソコンを持って口を開く。

「火山の火口にある…、
 歴史が眠る神秘の町」

そこで、ユキはハッとして、瞳を揺らす。

そうか……そうだったんだ、

どうして思い出せ無かったんだろう、と自分を責める。

しかし、今は責めている場合じゃない。

ユキはチルタリスに加速するように言って、あの町へと猛スピードで向かう。

ルネシティです!!

  過去にハギ老人の言っていた、震源地だった。


鋭い光を宿し
(紅き瞳は輝いた)


20140308



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