(あれ、あれは……)

まだカイナシティを出ていない所で、ボートに乗ったマリとダイがいた。

「フォルテはここにいてくれ!
 グレース!」

チルットに掴まり、上手く屋根の上からボートに向かう。

マリとダイもこちらに気付き、驚いたように目を見開いていた。

ボートに着地すると、重量一人分増えたというのに、ユキが軽いからかそこまでボートが揺れる事は無かった。

「マリさん、ダイさん!」
『ユキちゃん!!』

二人が声を合わせて、驚愕の感情を含んだ声で彼女の名を呼ぶ。

「何してるんですか!? 危ないじゃないですか!!」
「それはユキちゃんが言えた事かい……? それに、気になる事があるんだよ」
「気になる事?」

珍しい。ダイの意思で、気になる事があってここにいるなんて。

ユキのイメージだと、いつもダイはマリにとことん引きずられていたから。

だから、今ダイが真剣な顔で見つめてくるのには驚きを隠せない。

「さっき感じたんだよ。アイツの気配が……」
『アイツ?』

これにはマリも、ユキと声を合わせて首を傾げた。

しかし、ダイは二人の問いにはろくに答えず、屋根の上を見やった。

「!! いた!!」
(え。いたって、まさか……)

ダイが見やる屋根には、確か……、

「アブソル!!
 わざわいポケモン、アブソルだわ!!」

  ユキのアブソル、フォルテだった。

あっちゃあ、と頭を抱えた。

今思い出したが、ダイはやけにアブソルに対して警戒心を持っているというか、えらく勘違いをしていたのだ。

アブソルをボールに収めれば良かったと後悔してしまう。

「そうです! カナシダトンネルでの事故のとき、現れてすぐ消えたアイツです!!」

ダイが憎しみ溢れる目をして、アブソルがいる屋根の上まで登っていく。

「あ……」とユキの漏れる声に、マリが不思議そうに顔を向ける。

その間にもダイは止まらずに、アブソルに手を伸ばした。

軽い身のこなしで、アブソルはダイの手を避ける。

しかし、ほんの少しかすめたのか、自分の手のひらを見て目を鋭くした。

「見てください、マリさん!! アイツの体についてたコレ、えんとつ山の火山灰ですよ!!」

なぜこんな時に限って、ダイは目敏いのだ。

最早、ダイの言葉を否定する事を忘れ、頭を抱えてしまう。

「さてはおまえ、えんとつ山の火山停止事件の現場にもいたんだな!?」

  当然だ。

ユキがそこの近くにいたのだから。アブソルに火山灰がついているのは当然だ。

しかも、アブソルは自由奔放にボールから出るポケモンで、ユキの知らない内にえんとつ山に行っていても可笑しくは無い。

そろそろダイに引き下がって貰わなければいけない、と思った時にダイが目を吊り上げてアブソルに詰め寄った。

「事件が起こる場所にたびたびおまえが現れる!! アクア団・マグマ団の暗躍の影にはおまえがいるんじゃないか!?
 いや! そもそもおまえが『災い』を呼び寄せているんじゃないか!?」

ダイが今までずっと微かに思っていた事が、はっきり言葉となって吐き出される。

自分で言えば言う程に、そうなんだという確証が、自分の中で生まれる。

怒りを剥き出しにし、ダイはアブソルに睨みをきかせた。

「ダイさん」

その時、凛とした声が、ダイの後ろからした。

ふわりと黒髪を浮かせながら、こちらに歩いてくる。

それから、アブソルを守るように、目の前に立ちはだかった。

その紅い瞳は、鬼のようにギラギラと光っていて、ダイは気圧されてしまう。



「ポケモンは、
 いつだって被害者だ」



ユキは脳裏に、捨てられ船のプラスルマイナン、カナズミトンネルのゴニョニョ、そして  ヒンバスの顔を思い浮かべた。

いずれのポケモンも、何一つ悪い事なんてしていなかった。

それなのに、人間達の勝手でポケモン達は傷付く事になってしまった。

ポケモンの事をボールに入れられて、命令が出来るからといって、ポケモン達より人間が偉いのか?

それは違う。ポケモン達は人間と平等な存在だ。

ポケモンは、仲間で、友達で、家族で、相棒で、兄弟だ。

本当に大切で、かげがいのない存在。

そんなポケモンが、今ここで疑われ、責められている事が、ユキにとっては許せなかった。

  ……アブソルは、空や大地の変化を敏感に感じ、災害を察知する能力を持ちます」

ユキの言葉に、まだ信じられないという顔で眉根を寄せるダイ。

本当に、彼は疑り深い人間のようだ。

はぁ、と溜め息を吐いたが、マリの方は納得がいったという顔をしていた。

「アブソルは『災い』を事前に察知し、それを人間達に教えようとやってきたのね……」
「そういう事です! さすがマリさん、話が分かりますねぇ!」

嬉しそうにユキがそういえば、ダイが「うっ……」と心が揺らいだようだ。

なんだか自分が話の分からないような人な気がしてきた。

「さぁ、フォルテ  アブソルの背に乗ってください!」

真剣な顔付きで言えば、アブソルはマリの前で腰を屈める。

もう一つ、ダイの中で決定打が、今の言葉の中にあった。

  このアブソルが、フォルテだったのか。

カナシダトンネルの中で捕まえたらしいポケモンの事を、フォルテと言っていた。

という事は、火山灰の降り積もった場所、ハジツゲタウンに行っているのも納得だ。

意外と間近にいたんじゃないか、と凄く恥ずかしい気持ちになる。



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