「ユキちゃんったらぁ、ワタシという人がありながら……」
「何言ってるんですか、監督」

嫉妬オーラ全快にして、オカマさんが降臨なさった。

べたべたとくっついてきたり、ぷにぷにとほっぺたを摘ままれる。

なんなんだ、このオカマは(自称ニューハーフだと言っているが、何が違うのかサッパリだ)。

「いくら監督でも、あんまり度が過ぎたらセクシャルハラスメントで訴えますからね」
「ノンノン。
 セクシュアル・ハラスメントっ!」
「いちいち細けぇんだよ、カマ野郎が」
「素!! 素!! 滅茶苦茶素出てるよ!!」

細かい指摘にイラッとしたらしいユキが、監督に殺気を放ちながら素が出る。

素が出てる、と言ってる監督まで男性に戻ってしまう始末だ。

これではどちらが女で、どちらが男か判断がつかない。

素のユキは男みたいな乱暴な口調だし、シグレの素は大人しい女という感じだ。

なぜかシグレはオカマになると、カマ臭いからか、男性という認識が出来る不思議。

オカマというのは男が女になるという認識が頭に入っているからだろうか。

「あ、それよりねぇ?」
「なんですか?」
「貴女への送り物を預かってるのよん」

いや、それは最初から言って欲しかった事だ。

「送り物」と聞いて思い当たる節は一つだけしか無い。

「ルビーから、ですよね」
「ポンピ〜ン!!」

突飛ばしてやろうかな、とか思ってしまったが、ここは我慢の子だ。

「『ごめん。一緒に戦おう』
 ……ですって、あの子」

きっとルビーからのメッセージだろう。

ユキはその言葉を聞き、十分に心の中に入れれば、思わず笑みが漏れる。

「……当たり前じゃないか。何を今更」

口ではそう言っても、口元のにやつきが止まらない。

ああ、やっぱり元に戻ったんだな。そう思うと口元のにやつきは止まりそうに無かった。

「……行くのかい?」

穏やかで、真面目な顔付きをして、シグレ本来の口調で静かに言う。

あまりにも真剣な顔付きだった物だから、ユキは口を結び、周りにいた人達も蕭然(ショウゼン)とする。

ユキはそのまま何も言わずに、シグレの手にある服を取り、抱き締めながら今着ている服を掴む。

そしてバッと手を引けば、瞬(マバタ)きもしない内に服がルビーの仕立てた物となっていた。

旅の始めから着ていた黒いTシャツの上に着たノースリーブの服の色は紅で、ヘアバンドの色は緑だ。

新しい服なのでパリッとしていて、そして、ルビーの匂いがした。





「僕は、
 行きます!!」





ボボボボンッ、とボールから全てのポケモン達を出し、そうはっきりと告げた。

ユキの瞳は鋭く、ポケモン達の瞳も彼女に同調したかのように、鋭く光っていた。

シグレも負けない位に眼光を鋭くして、背の小さな、たった10歳のユキを見下ろした。

「……絶対、だね」
「はい。絶対です」
「……」

ふぅ、と少し溜め息を吐いてから、シグレは自分のポケットから何かを出し、それをユキの首にかけた。

見てみると、それは石のついたネックレスで、石は虹色に輝いていた。

「……これは?」
「持っていなさい。それはきっと君の役に立つ」
「……有難うございます」
「少し遅めのバースデープレゼントだと思ってくれ」

監督、自分の誕生日を覚えていてくれたんだ、と少し心が熱くなるのを感じた。

しかし、このネックレスは何か違和感があるのだが、気のせいだろうか。

手に持って光に翳(カザ)してみれば、やはり紅や藍や翠などの色に輝いていた。

「急がなければ間に合わないぞ」
「ッ! ……そうですね」

今頃、ルビー、サファイアはどこにいるだろうかと思いながら、頷く。

それから、先程出したポケモンの内の一匹に近付く。

「フォルテ。
 キミなら、『災い』の起きる場所が分かるはずだ」

黒真珠の瞳が、無感情でこちらを見る。

なぜアブソルが、自分のようなトレーナーの手元にいるのだろうかと思っていた。

だが、今なら分かるかも知れない。

きっとこれから起きる『災い』を予知して、それに立ち向かうトレーナーの傍にいてみたかったのだろうと思う。

「連れて行ってくれ」

真っ直ぐ見つめれば、スッと背中を差し出してくる。

ユキは、ぐっと握り拳に力を入れ、アブソルの背中に飛び乗った。

その瞬間に、疾風の如く、救護センターの中から飛び出した。

さぁ、ルビーとサファイアの元へ  


信念を貫く
(絶対、やり遂げる!!)


20140301



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