心は一変した。

  どうするかって? 答えなんか最初っから出てたじゃないか!!

そう、答えなんて最初から出ていた。

みんなが困っている中、事態を打開するただ一つの道を、自分だけが知っている。

困っている人やポケモンを助ける事が出来る力が、自分にはある。


  マグマ団と戦う。


エネコロロに手紙を持たせて、ミクリの元へと行かせた。

それは、三人分の服を作っている為に、自分では行けなかったのだ。

……三人分。

サファイアには直接、ミクリに連れてって貰い、渡そうと思っているが、

問題は妹のユキだ。

今、彼女がどこにいるのか分からない。

カイナの被災者は全員助けられたらしい。

だから、カイナにいる可能性は少なくなってしまった。

けれど絶対に見つけ出し、言いたい事があった。

  今度こそ、一緒に戦おう。

もう兄弟同士すれ違わずに、共に敵と向き合おうと思った。

自分がそう思ったという事は彼女もそう思ったという事だ。

自分達は、兄弟だから  

(兄弟だけど、流石にどこにいるかは分からないなぁ)

さぁ、どうしようか。

そう思った時だった。


「あの子なら、カイナの救護センターで、治療の手伝いをしているよ」


男とも、女ともつかない、中性的な声が自分の背から聞こえてきた。

聞き覚えのある声に、驚きながら振り向くと、案の定知っている人だった。

「シグレさん!!」

ユキの、監督(コーチ)だった。

長い髪を垂らし、穏やかな顔で微笑んでいる。

相変わらず、性別、年齢、色々と見た目じゃ分からない人だ。

「あらやだ、ルビーちゃんったら格好良くなっちゃってぇっ!! ワタシの好みだわっ、なんちゃって!! ふふっ」

……色々と見た目じゃ分からない人だ。本当に。

この人の事を第一印象からオカマだと見抜けた人は、きっと超能力者に違いない。

それ位に彼は端整な顔付きをしているというのに、かなり残念だ。

「……ユキなら、負傷者全員の治療をするまで出てきませんよね」
「ええ、そうね。あの子は一度決めたら止めない子だから」

一度決めた事には頑固というか、決めた事を遂行しなければ、他の事はやらない子だ。

自分も、センリも、同じ括(クク)りに入るのかもしれないが。

「じゃあ……これを、ユキに渡してくれませんか?」
「ええ、いいわよ。……きっとあの子、喜ぶわ」

改めて仕立てた服を、シグレに託す。

旅に出る時は自分の作った服を着てくれなかったけれど、今度はきっと着てくれる。

「何かメッセージ、あるかしら?」

メッセージ。……言いたい事はありすぎて、纏(マト)まりそうにないけど、絶対に言いたい事は、ある。

「ごめん。一緒に、戦おう」

何に対しての「ごめん」なのかは、あえて言わない。

だって、今まで「ごめん」と言うべき所は数えきれない位にあったから。

本当は直接言いたかったんだけれど、残念ながらそれどころじゃないみたいだ。

「伝えておくわね。
 さ、後の事はワタシに任せて、ミクルンの所に行きなさいな」
「はい。ありがとうございます」

深々と頭を下げ、礼を述べる。

それから、ほんの少し躊躇(タメラ)ってから、背を向けて歩いていった。

  あの子の元へと向かう為に。





「良い目をしてるね、君の子供達は。
   なぁ、センリ」

今この場にいない男に話しかけながら、ルビーの大きな背中を見送った。





† † †



「はい、終わりましたよ」

洪水に巻き込まれ、木に掴まっていた為にささくれで手を切ってしまった男性の手に包帯を巻き終え、にっこりと笑顔を見せた。

流石、手先が器用なだけあって、彼女の治療は迅速克つ的確で、治療姿は様になっていた。

救護センターにいた看護師達なんて「貴女ここで働かない?」と誘って来た程だ。

勿論、救護センターに入る気なんてないし、まだ10歳という若さなので働かないが。

何故か相手の方は結構本気だった気がするが、まぁ、気にはしない。

それにしても、短時間いただけで、この救護センターに馴染んでしまったのは如何(イカガ)な物か。

「ありがとねぇ、お嬢ちゃん」
「このお嬢ちゃんは本当に手先が器用だね!」
「助かっちゃったよ〜!!」
「いえ……」

男女共に、ユキの事を愛でるようにちやほやとしてくる。

ユキとしては、心境的には複雑だ。

イケメンな父と綺麗可愛い母に生まれたのだから、必然的に美形家族となるので、ちやほやとされるのは慣れている。

しかし、頭を撫でられると、明らかに子供扱いだ。

ちょっと気に入らなくて頬を膨らませてしまう。

しかも、女性が多いのが不服だ。どちらかといえばセンリ寄りの美形だから仕形無いだろうが。



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