ルビーが必死になってヒンバスを探し始めた時、ユキはルビーをミクリに任せて、町の人々を救出しているであろう監督の元へと向かった。 正直な所、まだ兄のやった事に腹を立てずにいられない。 必死になってヒンバスを探しているのは良いけれど、もう遅い。 恐らくヒンバスは、ルビーの元へは帰らないであろう。当たり前だ、あんなに傷付けたんだ。 自分だったら絶対に帰らない。帰ってやるものか。 ユキは、完全に兄に対して御立腹の様子だった。 と。その時、監督のシグレが人命救助に勤(イソ)しんでいる姿を発見する。 「監督!」 「あらぁっ! ユキちゃんじゃないっ! ルビーちゃんとは会えたのっ?」 ぶりっぶりのオカマ状態で話すシグレの言葉に、ユキは一瞬で固まった。 かと思えば、妙に機嫌を損ねたような顔をして目を逸らされる。 「んもぉっ! どうしちゃったのよぉっ?」 聞き出そうとしても、不機嫌な顔で黙り込まれてしまう。 本当にどうしてしまったのだろうか。彼女は悪口めいた事や皮肉を言っても、なんだかんだであんなに兄の事が大好きだったのに。 今は、ただ嫌いな奴の事を聞かれているかのように、苦虫を噛み潰したような顔をしている。 「……ルビーちゃんとなんかあったの?」 「……まぁ、そんなとこ、です」 あらあら、とシグレは困ってしまった。 先程までは自分がルビーの目を覚まさせてやる、という勢いだったのに、今は機嫌を損ねてしまっている。 しかも何があったのか分からないから、かけてやる言葉も上手く出てこない。 だからと言って適当な言葉は言いたくないし、何も言葉をかけてやらないのは監督として失格だ。 「コンテストに行くのが見えたんだけど……コンテストに行った、アナタ?」 しばらく黙り込んでしまったが、大幅な時間差の後にユキは頷いた。 それから、信頼してくれているからなのか、ぽつりぽつりと先程あった事や、それ以前に言われた事を話してくれた。 サファイアという女の子にホウエンの危機を救おうと声をかけてくれたのに、それを無慈悲に断り、おまけにホウエンを馬鹿にした事。 ルビーがユキに対して、嘘を吐いてまで自分に頼ろうとせず、その上、自分はそれが嘘じゃないかもしれないと不安になってきた事。 コンテストを楽しむ事を忘れてしまい、リボンを取る為だけにコンテストに出ていたから、自分が飛び入り参加をしてコンテストへの思いを原点回帰させようとした事。 MIMIというヒンバスが、今まで努力を積み重ねてきた事を全否定するような言葉を放った事。 その後に自分に向かって、自分を理解していないような発言をして、怒鳴ってきた事。 それで自分が無償に腹が立っている事。 等々、今まであった事を簡潔に纏(マト)めて、話してくれた。 確かに大変な事ばかり立て続けに起こっていて、憐れむしかないのだが、一つ気になる事があった。 「今、ルビーちゃんはMIMIちゃんを探してる訳じゃない? ちゃんと反省して。 だったら、こっちよりそっちを優先してあげたら?」 ぴくり、と眉が微かに動いた気がする。 「嫌です」 「どうして? アナタ、ルビーちゃんの妹でしょう?」 「あんな奴、兄なんかじゃな ッパン!! 先程、自分がルビーにやった事を、監督にやられてしまう。 平手打ちをされ、その勢いで横になった首をそのままに、ユキは自分がされた事を把握出来なかった。 まるでさっきのルビーのように。 「お前が一番ルビーを分かってやれる『家族』だろ!! 家族を否定するのか!!」 監督の眼光が鋭すぎて、一瞬だけ顔をしかめた。 本当に、オカマ状態では無い監督は、昔から父親と並ぶくらいに怖い。 思わず「……は」と息が漏れ、強張らせていた体の力が一気に抜けた。 ←|→ [ back ] ×
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