サファイアとユキの特訓は、夜まで続いた。

やればやる程に、サファイアの勢いは増していき、気迫に満ちていった。

ナギに稽古をつけて貰うのが一番効果的では無いだろうか、と提案すると、サファイアは「それだ!!」と言って一目散にナギの元に行ってしまった。

もしかしたら自分と特訓していたのは間違いだったんじゃないかと思ってしまう。

なぜなら、時折、自分を通してルビーを見ていた気がするから。

先程の気持ちが振り返しては、それを自分にポケモンバトルとしてぶつけていた気がする。

ある意味、戦闘力を上げる事が出来た要因にもなったのかもしれないが。

すぐにナギがいるだろう所に向かうと、サファイアがナギとのポケモンバトルを終えてバッジを貰う所だった。

「おーい、サファイア!」

ぶんぶんと手を振ると、サファイアがこちらに気付き、手を振り返してくれる。

ナギがそれに気付き、こちらを不思議そうに見つめてくる。

「昼間にミクリと一緒にいた……」
「ユキです」

ぺこり、と頭を下げると、面食らったような顔をされた。

随分礼儀正しいんだな、と言いたげな顔である。

「ユキもジムリーダー様達と一緒に、戦ってくれると言ってくれたけんね!」
「そうなのか?」
「はい。子供ながらに不躾かも知れませんが、ホウエンを救いたいと思うのに、子供も大人もありません。
 僕は、出来る限りの事を、精一杯やりたいと思います」

紅い瞳が、真っ直ぐにナギの瞳を見据え、強い意志の感じられる口調でナギは更に面食らってしまう。

同時に、心が少し軽くなる。

他のジムリーダー達が、サファイアに協力を煽ったと聞いて、刺々しい言葉を吐いていたからだ。

ああ、そうだよな。大事な事は、結局は救いたいと思うか、なんだ。

「これからよろしく頼む!」
『はい!』

ナギがサファイアとユキの肩を掴み、微笑んだ。

二人は同じくらい力強い瞳をして、頼もしい返事を返す。

「私は管制塔(コントロールタワー)にいるから…、今夜は隣の宿泊塔で休むといい」
「どうすると? ユキ」
「う〜ん、そうだな。もう少し特訓してから休もうか」
「流石ユキったい! 話が分かるとね!」

ノリノリでトロピウスを出してバトルをする気満々になるサファイア。

サファイアの事だから、黙って休むとは思えなかった。

案の定の反応に、ユキは少し乾いた笑いになりながら、チルットを出す。

すると、飛行ポケモン使いであるナギが反応を示した。

「君は綺麗なチルットを持っているね」
「ああ、はい。……崖の下で、親に置いていかれていたんです」
「そうか……。確かに残念な事に、飛び立ちの際に子供の存在に気付かない事があるからな……」

彼女は飛行ポケモン使いな上に、チルタリスを持っている。

その言葉は当然真(マコト)だろう。

ユキはその事に、改めて悲しく思い、柳眉(リュウビ)の眉間に皺を作り、垂れ下げた。

「そう、なんですか。
 ……家族は、どんな理由があろうと、一番側に居なきゃいけないのに……」
「ユキ……?」

段々と悲しみを帯びていく声音に、サファイアが心配そうに顔を覗き込んだ。

暗闇の中に見える少女の表情は、酷く張り裂けそうな顔をしていた。

まるで、今の自分の一言に自分で、苦しまされたような  

「僕……ちょっと、別の所に行きます」
「ルビーの所ば、行くと?」
「………………」

しばらく黙り込んで、サファイアに背を向けた。その背中は、やっぱり何度見いても小さかった。

ユキは、少し息を吐くと、うなずいた。

「兄弟……だからね」

その言葉には様々な気持ちが含まれていたのは、兄弟である二人を深く理解せずとも、分かった。

「あまり、無理はしないで欲しか」

このまま行かせてしまえば、ユキは一睡もしない事間違い無いだろう。

これ程広い場所でルビーを探そうなんて言い出すのは、つまりはそういう事になる。

「でも、
 気が済むまで行ってくるったい!」

しかし、自分はユキの腕を無理矢理引っ張って、止めるべきではない。

むしろユキのやろうとする事に、その小さな背中を叩いて応援すべきだ。

「あたしはユキの事ば応援すると!」

白い八重歯を見せると、ユキは一気に泣き出しそうになり、それでも泣いてはいけないとキュッと唇を結んだ。

そして、バッと顔を上げて、笑顔を作った。


  ありがとう!!」



† † †



心が完全に沈んでしまえば、きっとルビーはここにはいられないと言って、出ていってしまうだろう。

その前に  ルビーを止めなければ!

しばらくの間、ナギのいる管制塔(コントロールタワー)の周りをうろうろしていた。

なぜなら、ルビーはミクリの所にいるんじゃないだろうか、という願望があったから。

ミクリの居場所さえも分からないが、ナギの元にいれば出会えるのでは無いかと思ったのだ。

その時、小さく水を荒々しく叩いたような音が聞こえてくる。

急いでその方向を見てみれば、誰かがラグラージに乗って海路を渡っていた。

誰か、なんて見覚えのある風貌のラグラージと、感覚で分かる。

  ルビーだ。

『ルビー!!』

声を出せば、誰かと声が被った。

顔を上げると、そこには自分より大きなミクリが驚きの表情をして立っていた。

「ミクリ、さん……」

ミクリは何も言わずに側に置いてあったエアカーに飛び乗る。

自分を無視するなんて、と思っているとミクリがこちらに声を張り上げてきた。

「何をしている!!
 早く乗りたまえ!!」

誰の眼から見ても、ユキはすぐにでも追いかけたいという顔をしていたらしい。

ミクリの事はまだ苦手だが、いつになく真剣な顔に、素直にうなずく。

この町に来た時と同じく助手席に座ると、エアカーは宙に浮いた。

ルビーの姿を見逃さないように、いつもより眼を集中させ、視力を良くさせる。

ミ≠骼魔ノ長けている彼女だからこそ出来る所業だ。

しかし、その内、ジャングルへと入って行ってしまった。

「ジャングルの中に入ってしまった。これ以上の追跡は無理か…」
「無理じゃありません」

きっぱりと、言い切る。

流石に信じられずに、ミクリは怪訝な表情をした。

だが、そんな事を微塵も気にしてはいないのか、口を止める事は無かった。

「考えられる行き先。
 それは一つしかありません」



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