「何がしたいと?」

サファイアは率直に、思った事を口にした。

あの時、ユキは少し悲しげな顔をして、唇を噛んでいた。

何がしたいのか、自分でも分かっていないのは傍(ハタ)から見ていても明確だった。

悩ませてしまったかな、と思ってサファイアはもう良いと言おうとした。

しかし、その時、パッと顔を上げたのだ。

「僕、いや……私は、何が出来るか、なんて今は分からない」

何がしたいのか、では無くて、何が出来るのかがユキにとっては大事な事だった。

バトルもコンテストも中途半端で、自分には、もう出来なかった。

でも、



「でも、出来る事が出来たのなら、それをやりたいと思ってる」



それは些細な事でも良い。

今自分にとって出来る事は、ポケモン達を精一杯愛してあげる事。

監督も言っていた。バトルもコンテストも止めてしまっても、ポケモン達を愛す事を止める事だけはするな、と。

だから、ずっとポケモンを愛する事だけは、止めないでいた。

例え一瞬でもいまいちだと思ったって、そのポケモンのどこか良い所を探して、愛を育んできた。

「よか! 充分な意志ったい!」
「そうかな?」
「うん! きっとユキちゃんに出来る事なんて山ほどあるったい!」
「じゃあ、その出来る事を見付けたら、一生懸命頑張るよ」


† † †




「僕は、ホウエン地方を救う!!」

今出来る事は  大切な記憶を作る事が出来たホウエンを救う為に、危機に立ち向かう事。

ユキは、そう判断したのだ。

「ユキ……!」

望んでいた答えを聞き、サファイアは感極まってユキに抱き着く。

「そうと決まれば、バトルするったい!!」
「うん、そうだね」

ちょっと急な気もしたが、確かに危機に立ち向かうには力を蓄えなければいけない。

互いにバトルをして己の力を追究し、鍛えなければいけないだろう。

「ちゃも!」
「チャビィ!」

バシャーモが飛び出してきたので、ユキはタマザラシのチャビィを出した。

明らかに体格が違い、大きさでは負けている。

けれど、根性では負けてない  

「水の波動!!」
「ちゃも、かわすったい!」

サファイアの言葉に、バシャーモは地を蹴り、水の波動≠かわした。

と、思った。だが、水の波動≠ヘバシャーモの背中へと勢い良く放たれた。

可笑しい、ちゃんと避けたと思ったのに。

サファイアの疑問は顔に出ていたのか、ユキがふっと微笑んだ。

「チャビィの水の波動≠ヘ、軌道を変えられるんだ」
「そんな事が出来るとね〜。やっぱりユキは強か! 今のだけで分かったと!
 でも、ちゃもだって負けてなかとよ!」

バシャーモがまた地を強く蹴り、タマザラシに向かっていく。

勿論何かする気だと分かり、タマザラシは構えた。

バシャーモは足をタマザラシに向かって突き出し、その突き出した瞬間に、炎を纏った。

そしてそのまま、小さなタマザラシのお腹に降り下ろされた。

「ブレイズキック≠ゥ……」
「そうたい!」
「サファイア。タマザラシの特性、知ってるかい?」
「タマザラシの特性? ……あっ!!」

大声を出した時にはもう遅い。

そう、タマザラシの特性は  厚い脂肪=B

炎と氷に強い、逞(タクマ)しい脂肪だ。

「そして  チャビィは大きさでも負ける事は無い。
 なぜなら!」

ブレイズキック≠降り下ろしていたバシャーモが、その瞬間に放たれた光に圧倒された。

これはトレーナーなら誰しも見た事のある光。

「チャビィ!
 絶対零度!!」

タマザラシ、いや、トドクラーはその纏った光を増幅させ、周りを一瞬にして凍り付かせた。

周りの木々や、植物、それからバシャーモを。

「finale(フィナーレ)!!」

ユキの  完全勝利だった。

気が抜けてしまったのか、サファイアはその場に倒れ込んでしまった。

「たはーっ。負けたったい!」

派手に負けてしまったなぁ、とついつい笑ってしまう。

側では自分を心配そうに見つめながら、ブースターの炎で凍り付いてしまったバシャーモを溶かしてくれていた。

やっぱりルビーに負けず劣らず強い。

そう思ったらなぜだか寂しい気持ちになってしまった。

もっと、もっと、強くならなければいけない。

「ユキ!!」
「ん? なんだい?」
「今日はとことん、あたしに付き合って欲しか!!」

真剣な眼差しを向けられる。

サファイアに付き合うという事は、バトルをずっとやるという事だ。

今までなら、バトルをするのは嫌がっていた。

人前でする事自体が嫌だった事もあるし、自分には必要の無い事だと思っていた。

だけど、もう、迷わない。

「勿論!」

ユキは彼女の手を取り、引っ張りあげて起こした。

休んでいる暇も無いだろう。

「よし! やるよ、サファイア!!」
「うん!!」


檻の中の金糸雀
(今、羽ばたこうとしている)


20140224



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