空を眺めていた二人、否、三人の目が互いに合う。

ユキは話しかけるべきだろうか、と思っていると、サファイアがてこてこと近付いてきた。

「どうとね? 元気やったと?」
「ああ、…うん、まあね」
「それはなによりたい。ユキは?」
「うん、私も元気だったよ」
「良かったと!」

元気かを気にかけてくれるなんて、優しい少女なんだ。

そう思って笑顔を向けると、自然な笑みを見せてくれる。

  あれ、この笑顔、どこかで……。

古ぼけてしまった記憶が浮かびあがろうとした時、ルビーの背後からサファイアへとポワルンのPOPOが飛び出してくる。

いきなりなんだと思っていると、ポワルンもサファイアも、互いに顔見知りだったようで、笑い合っている。

「あんたあのときのポワルン!」
「ん? POPOを知ってるの?」
「104番道路で会ったったい! 久しぶりったいねー!! かわいかー!」

ぎゅーっ、とサファイアが可愛らしい八重歯を見せながらポワルンを抱き締める。

「そうだろうそうだろう! まあ見てごらんよ!! このへんがさ」

ルビーも笑顔を見せて、ポワルンを指差しながら近付く。

そしてもう少しで互いの頬がくっつきそうな位に近付き、ユキの真っ直ぐな視線を受けた時、一瞬二人は固まった。

固まった後に、二人がささっと離れる。ルビーは目が飛び出さんばかりに驚き、サファイアは頬を染めている。

突然離れる物だから、ポワルンも、ユキも不思議そうに二人を交互に見る。

ユキなんかは、もう少しくっついて仲良くすれば良いのにとさえ思ってしまう。

「な、なんだよ! 今日はケンカをしかけてこないのかい?」
「な、なんね! いつもあたしからふっかけてるって言いたいがか?」
「そうさ! ボクは基本的に何かされなければ何もしないんだから!」

サファイアは一瞬、いつものように眉を潜めた、が、ふと無表情になって考えに耽(フケ)るように何も言わずに地面を見つめる。

「……」

いつもなら、「あんたなぁ!!」と喧嘩腰になっている所なのだが、サファイアの中で何かが変化していた。

「そう…たいね。これまで最初にヤなこと言いはじめたんはあたしやったかもしれん。
 ゴメン…」
「ど、どうしたんだよ? 今日はバカに素直だなぁ」

サファイアが礼儀正しく両手を合わせて腰を曲げて、ぺこりと頭を下げた。

そんな、らしくないと思ってしまう行動に、ルビーは少したじろぐ。

「ま、やっとキミが女の子に見えたよ」
「な…! 失礼なこと言わんで!!」
「そうだよ。サファイアは私よりも女の子らしいんだよ?」

そこまで密接な付き合いでも無いが、ほんの短時間で、その可愛さを目の当たりにしてきた。

一生懸命な性格で、人の為に何かをしようとするような良い子だという事も知っている。

八重歯を出して笑う顔は、そこらの花よりも可憐で、なにより元気をくれる。

いつだってサファイアに自分は、勇気と、元気を貰っていた。

そんな女の子が、女の子に見えない訳が無い。

「そうたい、あたしだって女の子ったい!! かわいかものも大好きだし、いいなーと思う人に憧れたりする気持ちもあるとよ!
 現に今だって…」

サファイアが胸を叩きながら言った言葉が、突然ぶつりと切れる。

先程から地鳴りがしているからだ。

なんの音だろうか、と思っていると、とんでもなく激しい揺れが三人を襲う。

「地震だ!! トウカのときより…大きい!!」

トウカの時、というとミツルと捕獲をしに行って、二人が津波に巻き込まれた時の地震である。

津波を引き起こすような凄い揺れよりも今の方が大きいというと、並大抵の揺れでは無い。

実際、三人は立つ事すらままならない。

「バネブーたちが驚いてとびはね≠トいきよう!」

しかし、次の瞬間には、バネブーでは無く、その進化型であるブーピッグが大樹の方からドタドタとやってきた。

「ブーピッグたい! パニックで我ば忘れてる!! 早くこっちへ!」

ルビーに手を伸ばそうとした時、揺れの際に変な方向に倒れてしまった為に、足を痛めたユキにブーピッグが襲い掛かってしまう。

急いでサファイアがユキを抱き締める。

すると、サファイアはユキを抱き締めたまま、ブーピッグに撥(ハ)ね飛ばされてしまう。

二人が一緒に地へと落下し、その上をブーピッグが通ろうとする。

このままでは巨大なブーピッグに、二人が踏み潰されてしまう。

「あぶない!!」

  ルビーの体は、自然と動いていた。

「NANA!!
 とっしん!!」

グラエナが、俊敏に12匹もの大量のブーピッグに突進≠キる。

こんな事、バトルを熟(コナ)れていなければ、出来るはずが、無い。

サファイアは、目を疑った。

ブーピッグが12匹全員戦闘不能になり、静寂が場を包む。

ユキの耳に聞こえてくるのは、ルビーの荒くなった息と、自分のドクドクとなる心臓だけだった。

「…今の、
 どういう…こと?」

震えたサファイアの声で、ルビーはやっと、自分が何をしてしまったかに気が付いた。

「あんた…、
 そげに強かったと?」

サファイアに  バトルの力が露呈(ロテイ)してしまった。

冷や汗が、一筋流れ落ちた。


暗雲が立ちこめる
(どうか、)
(降りだしませんように)


20140222



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