時折、灰袋を持って火山灰を集めるルビーにすれ違ったり、その大量の火山灰を持ってどこかに行くルビーにすれ違ったが……きっと人違いに違いない(本人です)。

その後に、着いたのはソライシラボという所だった。

ミクリとルビーが入って行くのを確認した後、アブソルをボールにしまい、中に入って行った。

「ユキちゃんも来たのかい!?」
「ええ……ダイさん、この馬鹿なんとかしてくださいよ〜」

ルビーを指差して言えば、ダイはキョトンとしてルビーとユキを見比べた。

「馬鹿とはなんだよ……」
「馬鹿じゃないか。会って間も無い人にコンテスト師匠だなんて言ってストーカーして……」
「キミには関係無いじゃないか!」

とは言え、ユキの言葉にはミクリの連れであるチアガールの皆様は激しく頷いていた。

ふと、ルビーが扉の付近にある水槽にポケモンが入っているのを見つける。

「うわっ、すごいこわそうなポケモン!」
「なに言ってんだい、ジムリーダーの息子だろ?」
「関係ないですよ! ボクは美しいポケモンが…」
「ハイハイ」

ダイは最早既知の事なので、適当に返事をしてルビーの言葉を遮った。

「それには私も同意するよ。
 ジョウトにいた時なんて、私達が住んでた所のジムリーダーが『ダイナマイトプリティーギャル』なんて名前で、可愛いポケモンを一杯持ってましたよ?」
「ああ、いたね〜……」
「ダ、ダイナマイト?」

なんて物騒な名前なのだ、とダイの頭の中ではセーラー服に機関銃を携えた少女が、16bit戦争(ウォーズ)のように果敢に戦っている姿を想像してしまい、カオスであった。

しかしそれを遮るかのように、周囲が騒然とし始める。

「水槽のリリーラとアノプスが!!」

先程まで間近で見ていた二匹が、水槽から逃げ出したようだ。

うわわわ!!
 なんでハッチが開いたんだ!?」

二匹に追いかけられたせいで、ソライシラボの研究者の一人が、本棚にぶつかってしまい『ドンガラガッシャン!』と倒れてきた本棚の下敷きになってしまう。

しかも、本棚が倒れ、埃(ホコリ)や塵(チリ)が煙のようになって舞う。

そんな中で、ルビーはキョロキョロと見渡し、誰もいないか確認した後に、リリーラとアノプスに近付いた。

そして、二匹に向かって目付きを鋭くさせ、怖い位にその紅い瞳を光らせた。

リリーラとアノプスは、それだけで相手の実力を分からされたのか、恐怖に戦慄(センリツ)した。

それを見たミクリは、ほう……と興味深そうに口許に笑みを浮かべた。

更にそれを見たユキは、ミクリを睨み付けた。

怪しいと思っていたのだ。突然ハッチが開くなんて不自然だ。

だから犯人がいると思ったのだ。

まずラボにいる研究者は違う。本当に驚いて逃げ惑っていたから。

そして、マリとダイ。マリはそんな事をするのを逆に毛嫌いそうだし、ダイはそんな度胸無さそうだ。

ルビー。まぁ、有り得ないな。態々二匹を出して、それを止めるなんて面倒な事はしない。

チアガール達。ミクリだけを眼中に入れていて、二匹がいる事すら知らなかった。

だったらミクリは?

先程、ダイがルビーにジムリーダーの息子だろという話をしていた時に、視線を感じた。

だから、もしかしたらルビーの試そうとしたのでは無かろうか。

そう思ってずっと見ていたのだ。

ユキはミクリの行動が気に入らなかった。

研究者三人が本棚の下敷きになったのだ。この犠牲をどうしてくれよう。

ユキがミクリを警戒している中、ルビーはコロッと笑顔を浮かべ、ダイに向き直った。

「ダイさ〜ん、おとなしくなったみたいですよ〜!
 暴れてみたはいいけど、疲れたのかな?」

何も知らないダイは、何故か畏縮している二匹を水槽に放り投げた。

それを見て安心したように息を吐いたルビーの肩に触れる人が一人。

「気が変わった」

  言わずもがな、ミクリだ。

「ついてきたいならついてきたまえ。
 何かを教えてあげられるかは、わからないがね」

それから、さっきルビーに運んだ火山灰が、ガラス細工(ビードロ)になるのに一晩かかり、明日の朝にここを発つから残りのリボンをとってくるといい、と言ってからチアガール達に視線を移した。

えるな、おうな、う゛ぃな、いいな、各々の名前を言ってから、収集の席には彼、ルビーとそしてユキを連れていくからここに残ってルネのデータ解析を手伝うように言う。

当然、チアガール達はショックを受けたように固まっていた。

ユキも、自分まで連れていくと言うなんてなんて奴だと睨みをきかせる。

だが、ルビーは酷く嬉しそうに飛び上がった。

「やった〜!
 wonderful!!

相当嬉しかったのか、ルビーはユキの手を取ってしばらくクルクルと回っていた。

どうせすぐに目が回って止めると思って付き合った物の、先に目が回ってゴロゴロ転がったのはユキの方であった……。


† † †



翌朝。

ルビーがコンテストに出ている間、ずっとミクリを睨み付けていた。

随分長い間睨み付けていると、ふと、ミクリがこちらを向く。

「可愛らしいレディに睨まれるなんて、私はYouに何かしたかい?」

輝く歯を見せながら笑っている時点で、それは自分を不快にしているのと同然だ。

「……ルビーを弟子にしたのは、ジムリーダーの息子だからですよね」

いきなり本題を言えば、ミクリはフッと笑うだけだった。

なんなんだコイツは、と思っていると、ラブカスが例のラブカス形(ハート)を吐き出した。

それは自分の周りを回り、悔しいがやっぱり大人しくさせられてしまった。

憎らしいったらありゃしない。

「師匠  !!」

コンテスト会場からルビーが戻ってくる。

勿論、リボンを持って、ヒンバスに笑いかけながら。

……やっぱり、ヒンバスはルビーに笑いかけて貰った時が一番幸せそうだ。

「ホラ、このとおりスーパーランク『うつくしさ部門』!! 勝ってきました!!」
「よし、では出発するとしよう」

何故か助手席に座らされる。

理由を聞くと、「レディだからに決まっているじゃないか」と言ってきた。

なんだと、昨日はチアガール達は後ろに座ってたじゃないか。

見え透いた嘘になんか騙されるもんか、と腕を組んで息を思いっきり吐いた。

ミクリがエンジンをかけると、フィィィィンという音が耳に木霊する。

何だろうと思っていると、車が浮き始めた。

おおおぉ!!

ルビーが下を覗きながら、子供らしく興奮したような声を漏らした。

確かに車が空高く浮き上がるなんて、滅多に体験する事は無いだろう。

ユキだって流石にこれにはワクワクという興奮が沸き上がる。

「師匠、このマシンはどこへ向かっているんですか?」
「フフフ、この先、山を越えた向こうだ。そう。
 木の家(ツリーハウス)の町、ホウエンで最も美しいと言われる所さ」
Wow!! 本当ですか   !?

前屈みになり、より一層興奮したように大きな声を出した。

「ふっ、ルビー。興奮なんかしちゃってみっとも無いよ」
「ユキの手にある双眼鏡はなんだい」

無意識だったのか、自分が手に双眼鏡を持って前のめりになっていた事実に、衝撃を受ける。

ミクリはそんな二人を見て可笑しそうに笑った。

と。向こうの方から風を切るような音が聞こえてくる。

「なんだろう?」

不思議に思って後ろを見てみれば、凄い速さで雲の下を通り過ぎるポケモンの姿が。

「師匠!!」
「うむ。何かが雲の下、私たちを追い越していったな」
「かなりのスピードだったね……」

唖然としてる間に、車は雲のほとんど無い所まで進んで行った。

段々と木の数が増えていき、やがてそれは家となって立ち並んでいた。

『Wow! beautiful!』

先程までミクリの隣だったからか、テンションが低かったユキも、木の家(ツリーハウス)は珍しくて身を乗り出した。

「美しいログハウスが並んでるじゃないですか」
「あんまり身を乗り出したら危ないじゃないか」
「キミだって結構身を乗り出してるじゃないか」

互いに同じ位身を乗り出しながら、言い合うが、結局はどんぐりの背比べだという事を理解して木の家(ツリーハウス)にまた目を向けた。

「へぇ〜〜、こんな場所があったなんて。…ん?」
「ん?」

ルビーが何かを見つけたように声を出すので、ユキもそちらに目を向けると、見た事のある姿を発見した。

『んん!?』

紅眼兄弟と声を合わせたのは、蒼い少女だった。

亜麻色の髪に、八重歯、蒼い宝石のような綺麗な眼  

あぁ!!!


切ない温度
(キミは私の事も)
(あの子の事も、)
(本当の意味では)
(見てはくれない)


『約束の日まであと…30日!!』

20140220



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