カナシダトンネルの落盤事故から数日後、

ルビーとユキを乗せたホウエンテレビのロケバスはカナズミシティを過ぎ、

ハジツゲタウンへと向かっていた。

「あの山を越えたら、すぐ次の町だよ」

ダイが山の方を指差した。

流石大自然の地方、ホウエン。かなり生い茂った山だ。

「事故直後の混乱も、なんとか落ち着いたみたいでよかったわね。
 ミチルさんたちも喜んでたし」

うんうん、と頷く。

今回の事は始まりは酷かったけれど、結果的には良かったとリュウジは言っていた。

なぜなら、岩盤を崩されたことと、バクオング達のハイパーボイス≠ナトンネルが開通したのだから。

後は機械を使わなくても静かに整えていける。ゴニョニョ達を驚かせる事もなくなるという事だ。

ミチルにとっても、これはかなり良い事だったらしい。

今まではリュウジの家がカナズミで、ミチルの家がシダケなので、会うのが大変だった。

しかし、これで会いやすくなったと愛しの人に抱き付きながら、いかにもリア充という感じのいちゃつきっぷりを発揮していた。

実は私情の理由でカナシダトンネルを掘ろうとしていたんじゃないかという感じだ。

……残る問題は、赤い装束の一団の事だけだとミチルはぽつりと漏らした。

それについては、マリは自分達が全力で調べてみる、とミチルを安心させるようにはっきりと言って見せた。

報道に携わる者として、赤装束の奴等がどんな組織で何をしているのか、真実を突き止めたいと、強く思ったからだ。

  と、言ってみたものの、

実際、組織と接触したのは、ルビー、ユキの二人だけ。

取材したいが為に、こうしてロケバスに乗せて張り付いているのだが、協力してくれる気配は一向に無い。

試しにもう一度聞いてみようと、後部座席に身を乗り出す。

「ねえ、ルビーくん、カイナやカナシダでの事件だけど…」
「またその話ですかぁ〜?」

眼鏡をかけ、編み物をしながらルビーがマリにうんざりとした表情を見せた。

「何度も言ったとおり、ボクは何も知りませんよ。巻き込まれて必死に逃げてきた、ただそれだけなんですから。
 今は次のコンテスト、ハジツゲのスーパーランク挑戦のことで頭がいっぱいなんです」

そう素っ気なく言って、編み物に集中してしまった。

マリはそれに対して複雑な顔をしながら、今度はユキに笑顔を努めて見せる。

「ユキちゃんは……」
「マリさん、疲れないですか」

ピカチュウを愛でるように撫でながら、マリに視線もやらずに言った。

何の事だかわからず、マリはキョトンとする。

すると、分かってないと思ったのか、いつもより鋭くなっている紅い瞳をやっと向けた。

「子供相手にそうやって愛想笑い浮かべて、なんとか聞き出そうと気を使って。
 疲れないですか?」

酷くひねくれた考えだと思ったが、否定出来ずに息を飲むばかりだった。

これには流石の兄も驚いた。いきなり何を言い出すのかと。

「何度も言った通り、私はカイナではルビーを夢中で追いかけただけで、カナシダでは迷惑極まり無い奴から逃げて来た、ただそれだけです」

兄と大差無い言葉を発しながら、手にあるボールをコロコロと転がしていた。

その中のポケモンは、フォルテと言って、foretellという単語の略だという事は知ってるが、

その中のポケモンが何なのか、何を思ってその単語の名前を付けたのかは、ダイやマリは勿論、ルビーも知らなかった。

というより、ルビーはそんな事を考えている余裕なんて、どこにも無かったのだ。

そう、余計な事は考えちゃいけない。

ハジツゲでも絶対優勝して5部門のリボンを手にいれなければ。

リボンを……、

  こんなリボンをが美しさの象徴? そんなはずないだろ?

  ……ねぇ、本当の美しさってなんだと思う?

カガリの言葉が嫌でも頭に浮かんできて、ルビーは「はっ!!」と顔をあげた。

そして、考えちゃ駄目だと首を勢い良く振って、その言葉を振り払う。

そんな兄の行動に疑問を抱いたのか、ユキは「大丈夫かい?」と声をかけた。

「大丈夫だよ、キミこそ大丈夫かい?」
「ん? 何が?」
「あ・た・ま」
「……キミはそんなに私を怒らせたいのかい?」
「ハハハ、冗談だよ!」

ルビーもユキも、そのやり取りのおかげで、なんとか楽になった気がした。

ルビーはカガリの事を少しでも振り払う事が出来、ユキはルビーが何かを少しでも振り払う事が出来たと思ったからだ。

恐らく、ルビーは自分と同じようにマグマ団に勧誘された。

だから心を掻き乱されているのだと、すぐに理解した。

自分もまた、ユウキの事が頭に浮かんで仕方が無い。

あの不埒な行為や、告白、勧誘、自分の事をお見通しな口振り。

嫌でも頭にこびりついてしまうのも仕方の無い事だ。

  オレさ、

  キミに一目惚れしたみたい。

「うわぁあぁあぁあ……」
「や、やっぱり大丈夫かい? 頭……」
「うん……駄目みたいだ……」
「そ、そうみたいだね……」

何をそんなに百面相しているのか分からないが、あのユキが真っ赤になるなんて珍しい事だと思った。

なんだか気に食わない。

ルビーは自分がカガリに捕まった時、ユキがマグマ団の男に同じように捕まったのを見ている。

もしかして、と思った事に腹が立つのは、シスコンだからだろうか。



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