「は……なれろ!!」
「わ」

ドンッ、と突き飛ばしてやれば、ユウキは起伏の無い声を出してよろけた。

すぐに離れると、弾かれていたポケモン達の側に向かう。

ポケモン達はもう復活し、果敢にクチートと向き合っていた。

一体に対して五体で戦っているというのに、なんて強いポケモンなんだ。

よくミ≠ト見れば、70なんて半端じゃない数字が見えた。これはレベルなのか。

「……オレは諦めの悪い男」
「迷惑極まり無い男だな!?」
「……きっと添い遂げてみせる」
「変態だ、変態がここにいる!!」

なんだと言うのだこの男は。セクハラの次はストーカーか。

しかもなんだか生き生きとしているから困り者だ。病院が来い、な状態とは正しくこの事だ。

「……だったら無理にでも」
「な  止めろ……!!」

ボールから出てきた色違い(またかこんちきしょう)のブースターがこちらに迫ってくる。

気絶させて連れていこうという魂胆か。

自分のポケモン達はクチートに夢中で気付いていない。

ヤバい、そう思って目を閉じた。

  ガキッ!!

そんな何かと何かがぶつかるような音が耳に入ってくるが、自分に反動は無い。

それどころか無傷だ。

恐る恐る目を開いてみると、目の前には驚きの姿があった。





  アブソル!!」





なんとアブソルがブースターのアイアンテール≠受け止めていたのだ。

まさかアブソルが、他人同然な自分を助けてくれるとは微塵も想像出来なかった為に、目を見張るばかりだ。

「……吃驚」

そりゃこっちの台詞だ。

情けなく腰を抜かしながらに、ユウキの言葉に心の中でそう返した。

だが、本当にアブソルはなぜ自分を助けてくれたのだろうか。

呆然としていると、アブソルがこちらを振り向いた。

  指示を待っているのか。

「……OK!!」

にっ、と口角を上げると、ユキは立ち上がった。


It's show time!!


その言葉と共に、アブソルが地を蹴り、ブースターの上を跳ぶ。

空中は無防備なのに、何を考えているのだろう。

「……火炎放射=v

淡々と言った分、タイムロスは減る。

ブースターは口から橙を含んだ真っ赤な炎を吐き出した。

その炎に向かってアブソルは、角部分を闇のようなオーラを纏わせ、そこから球体の闇を放った。

その闇は炎を飲み込み、そのままブースターに襲い掛かる。避ける隙は  無い!

「……シャドーボール=v
「That's light!!」

シャドーボール≠ェブースターにぶち当たると、硝煙が辺りを包んだ。

ユキは煙の向こうで二匹はどうなったのか、気にはならなかった。

なぜなら  

「I am winner……!」

  勝利を、確信したから。

煙が晴れる前に、アブソルがこちらに戻ってきて華麗に着地する。

それから、煙の合間から見えたのは、まだ根性で立っていたブースターをボールに納めるユウキだった。

ここしばらく感じていなかった勝った時の喜び、そんな物を感じてしまった。

激しいバトルなんて、もうしないはずだったというのに。

「……コウガク」

五匹の相手をしていたクチートが、ユウキの元に戻ってきて、構えた。

「……」

それに対して、ユキは五匹をボールに戻し、いずれか一つだけを手に乗せて腰につける。

何をしたいのかが分からない。

もしかして誰がくるのか分からなくして、相手が思案している内に、不意を突こうというのか。

まぁ、何にしても、

(……面白い)

バトルが大好きで、バトル狂な自分としては、やはりこの少女との戦いは面白いと思う他無かった。

じっ、と彼女の手元を見ていると、ユキは左手にボールを乗せ、右手を沿えた。

(……カメハメ波?)

まさにそれに近い構えであった。

ユウキは首を捻った。その構えに意味が見出だせない。

彼女の紅い眼が、すっと鋭くなった時、ボールから閃光が放たれる。

否、違う、中から出てきたポケモンが素早すぎて、そう見えるだけだ。

ボールの構えの意味がようやく分かった時、もうそのポケモンはボールへと収まり、クチートが地へと倒れる音だけがこの洞窟内に響いた。

「……まさか」

開いた口が塞がらないとは、正にこの事であった。

ユウキはその場に立ち尽くしながら、この少女を見つめた。

依然として彼女の眼が、紅い光を放っていた。

(……しょうがない、あまりこの子に対してオレの幼馴染みを出したくは無かったけど……勝つにはそれしか  

一つのボールに触れた、その時だった。

向こうの方、ダイやマリがいる方から物凄い音波が発せられてきたのだ。

(……ッ……、バクオングのッ……ハイパーボイス!?)

ハイパーボイス≠フ音波の高さから、ポケモンを導き出したユウキは、耳を塞いだ。

一方で、ユキは先程のゴニョニョの発した音波に近い事から、ゴニョニョの進化型だという事が分かった。

それによって、あっちの方にいたマグマ団の下っぱ達がやられたのでは無いかと思った。

それならば  

「アブソル、私を乗せてくれ!」

強い瞳を宿して言えば、微かだが、こくりと頷いてくれた。

「……待って」
「誰が待つか!! アブソル鎌鼬(カマイタチ)!!」
「……ッ」

鎌鼬(カマイタチ)によって背にあった岩が数ヶ所に渡って傷付けられ、落石となってユウキを襲い掛かる。

その内にも、ユキはアブソルの背に乗り、向こうからやってきた車の上に降り立った。

「bye」

親指と人差し指と中指を立てて、ウインクをして自分の前を車の上に乗りながら通り過ぎていく。

そんな仕草にもドキリとしながら、跡を追いたいと思うが、それは叶わなかった。

岩に手を挟んだのだ。

片手で持っていたボールから幼馴染みを出し、その大きくて立派な幼馴染みに岩を取って貰う。

ゆっくりと彼女が去っていった方向を見つめるが、当然、もう姿は無かった。

ボロボロになった赤装束についた砂埃を手で払い、カガリのいるはずの方向へと歩いていった。

背も胸もちっちゃな紅眼の少女に、より一層の愛しさを抱きながら  


いとしい人
(君は何者にも代え難い)


20140218



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