目が合った。 そのネイビーの瞳を見た瞬間に、全てを理解した。 これはヤバい、と。 それは残念ながら的中してしまい、ルビーはカガリに、ユキはユウキに拐われてしまった。 まるでRPGのお姫さまのように。 遠くでは、ダイとマリが兄弟の名前を呼んでいるのが聞こえた。 勿論、その手から逃れようともがいた。 だがその抵抗も虚しく、ユウキの手から逃れられる兆しは無い。 「……無駄。オレの手袋からザロクとネコブの汁を混ぜ合わせた液体が出てるから」 「ザロクと、ネコブ?」 「……粘性の高い天然の接着剤。まぁ、姐さん発案だけど」 という事は、ちょっとやそっとでは少年の手からは逃れられないという事か。 「キミ……あの捨てられ船とカイナの時のマグマ団か……!」 「……御名答」 口数が少ないのか、酷く淡々と話す奴だと思いながら睨み付ける。 やはりあの時の鳥肌が出るような発言をした奴か。 「……姐さんとの距離はこの位かな」 ダイやマリの姿が見えなければ、前の方に行ったルビーの姿も見えない。 そんな地点で、ふいに着陸される。 すぐさまユキはユウキの手袋ごと、距離を置いた。 「キミは、誰なんだ……!」 「……オレはマグマ団四頭火の一人、ユウキ」 無機質なネイビーの瞳が、自分を迷わず捉える。 そしてその瞬間に、何かが自分の脇を掠めた。 「うわっ」 すぐに避ける。おざなりに見えて、正確に避けていた。 脇を掠めたのは、ユウキのキュウコンだったらしい。しかも色違い。 オオスバメもそうだったが、珍しいはずの色違いがこうも簡単に目の前にいられると感覚が狂いそうだ。 そんな事を思っていると、またキュウコンが自分に向かって跳んでくる。 ああ、もう、どうして自分が狙われなきゃいけないのだ。 「……どうして戦わないの」 無機質な目に、ほんの少しの失望の色が浮かんでいた。 「……ここは誰もいないよ」 ハッ、とする。 まさか自分を本気で戦わせる為に、ここまで拐って来たというのか。 わざわざそんな事をするなんて、余程自分と戦いたい事が窺える。 瞬間、ユキの纏う空気が 「……!」 そして、父譲りの紅い瞳が、鋭くなって鈍く光る。 誰が見ても分かる位の、戦闘態勢だった。 思わず口許に弧を描く。期待通り、否、期待以上だ。 「フラッフィ、リージュ、トゥインクル、チャビィ、グレース!!」 ブースター、アゲハント、ピチュー、タマザラシ、チルットが一斉に出てくる。 指示をしなくても阿吽の呼吸が出来るのは、ブースター。 「リージュ、グレース風起こし≠ナフラッフィの火炎放射≠フ加勢!! チャビィ、水の波動!!」 てきぱきと指示をして、キュウコンを段々と押していく。 ユウキはそれに対し、何も言わずに、ただ立ってユキを見つめるばかりだった。 「トゥインクル!!」 いつものようにピョコタンッ、と飛び上がるピチュー。 その体からバチバチと電流を流し始めた時、その身から美しい光が放たれる。 「……まさか」 「ああ、そのまさかさ!! トゥインクルはピチューから ピチューの体は大きく変化し、体から出す電流も、次第に強力性を増す。 桃色の電気を溜める頬袋は、情熱の赤へと変色した。 「 バリバリバリバリィィィッッ!!!! 凄まじい流電音がし、その青白い稲妻はキュウコンへと一直線に向かった。 キュウコンは、というと、ブースターの炎とタマザラシの水によって上手く誘導されてしまった為に、その稲妻を避ける事が出来なかった。 小さな断末魔と共に煙がたち、周囲が見えなくなる。 そして、チルットに風を起こしてもらい、煙を晴らす。 するとそこにはキュウコンが倒れていた。 「……お見事」 パチパチ、と本当にささやかな拍手が送られた。 それに対してユキは細めた目を、更に細める。不快ったらありゃしない。 「……実はね、オレはマグマ団だけど、炎部隊よりこの子の方が強いの」 ポンッ、とボールから出されたのは、見た事のあるポケモン。 「クチート……。 というか、またなんで色違いなんだよ!! ムカつくなァッ!!」 こいつは色違いしか持っていないのか、なんなんだこいつは。 「……オレは物心つく頃から、ポケモンと生きてきた。だからかな」 だからきっと色違いが寄ってくると言いたいらしい。 しかし色々と突っ込みたい事はあるが、あえて突っ込まないでおこう。 「……コウガク (ッ……速い!?) 綺麗な身のこなしでブースターに近付き、瞬時に噛み砕い≠ス。 「噛み砕く¢Oに、鉄壁≠ナ自分の体を硬くしたんだな!!」 「……うん(なんかちょっと説明口調だなぁ)」 相変わらずの無機質な瞳だが、なんとなくその瞳は生き生きと光っているように思えた。 否、そんな事を考えている場合では無い。 「皆、距離を だが時は既に遅かった。 その大きな顎で、五匹もろとも叩きつけられてしまっていた。 尋常じゃ無い位に速かった。 「フラッフィ、リージュ、トゥインクル、チャビィ、グレース!!」 ポケモン達に向かって声を張り上げた時、ユウキがこちらの側まで近寄ってくる。 しまった、と身構えていると、手を引かれて自分の顔がユウキの顔にぶつかりそうな位に近付いた。 そのおかげで、ユウキの顔がよく見えた。嫌という位に。 黒い髪に白のメッシュ、長く伸びた髪の毛、左耳のピアス。完全に完璧に全壁にチャラく見える。 だけれども、ネイビーの無機質な瞳によって何かが違うと思わされる。 それにしても整った顔をしている。格好良い、とも言えるし、綺麗だとも言えるかもしれない。 ふと、自分と相手の極限まで近付いた事に気付く。 その途端に、自分の顔が真っ赤になるのを感じた。 そんな時、ユウキの桜色の唇が動いた。 「……オレ達の仲間になってよ」 至近距離のまま、ユウキがそんな事を言い出した物だから耳を疑うしか無い。 「……は?」 「……オレさ」 ぐいっ、と腰に手を当てられ、パニックになっている内に耳元に唇を持っていかれる。 なんだか相手の息が耳を擽(クスグ)ってこそばゆい。 それから、妙に甘ったるい声で言ったのである。 「キミに一目惚れしたみたい」 ………………間。 今、この野郎はなんて言った? 一目……なんだって? 一目惚れ? ………………間。 「はぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあ!!!??」 文字にしたら、「あ」のゲシュタルト崩壊を起こしそうな位に叫んだ。 きっと当然の反応だ。なぜなら敵であるマグマ団の四頭火とやらの一人のユウキが、自分を拐ったと思ったら、いきなり攻撃するように仕向けてきて、仲間になれなんて言い出して、挙げ句に自分に一目惚れしたなんて告白を 告白というのは通常、景色の良い、海や夕日の見える場所なんかに連れ出して「ユキさん……好きです! 付き合ってください!」なんて互いに緊張してしまう青春の一ページだ。 それを、こんな薄暗いトンネルで、二人っきりの状態で、告白だなんて もうこれは正気の沙汰では無かった。 というかどちらかと言うと犯罪チックだ。まぁ、実際色々な意味で犯罪だが。 とにもかくにも、こんな事は認めない。自分に告白だなんて。 ←|→ [ back ] ×
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