ルビーとユキに向かって降り下ろされるザングースの両方の爪、ハブネークの牙と尻尾。 二人が身構えた時、ガキン、という音がした。 そろそろと目を開けてみると、目の前には自分達を覆う位の大きさの壁。 その壁へ二匹の攻撃が決まっていた。 すぐに分かった。この壁が、ヒンバスによって作られた物だという事を。 「ひ…ひかりのかべ=c!! ヒンバスが!?」 「す、凄い……」 三人の視線の先はルビーの手の中にいるヒンバスにいく。 ヒンバスは光を放っていて、相変わらずの無表情だった。 ザングースとハブネークが壁に向かって、力を込めた。 その時、ヒンバスの体が一層光りを増す。 すると光の壁≠ェ、不思議な輝きを含み始めた。 一瞬、二匹の動きが止まった。 かと思えば、二匹が壁に突き立てていた部分にヒビが入ったのだ。 「こ、今度はミラーコート!!」 海パン野郎がその壁の正体を述べた。 なるほど、攻撃が自分に返ってくる壁になったのか、と納得する。 という事は パキィン!!!! そのおかげで、三人のポケモンが戻ってきた。 「NANA、COCO、ZUZU!!」 「フラッフィ、リージュ、チャビィ!!」 「ひ〜とォ〜ん」 ユキは三匹に抱き付くが、今はそんな事をしている場合では無い。 「今だ! 逃げましょう!!」 片手にヒンバスが持って来てくれたポケナビを持ってルビーがそう言う。 そんなルビーの後を着いていくと、かなり道なき道へと進んでいく。 「逃げましょうって、オイ、道なんかねえじゃねぇか!!」 「いいからこっちへ!!」 「海パンさん、黙らないとチャビィのアイスボール≠ェ炸裂しますよ」 「は? チャビィ? ユキを見た瞬間、その腕の中にいるタマザラシがこちらにガンを飛ばしてくるので、すぐに前を向いて走る事に専念した。 タマザラシは今、先程危ない目にあったので御機嫌がナナメ45度なのだ。 後ろではしつこく追いかけてくるザングースとハブネーク。 ザングースは欠けた爪を降り下ろし、ハブネークは尻尾で巻き付けようとする。 だが、それは標的には当たらなかった。 二匹は荒い息を吐きながら、周囲を見渡して気配を探した。 しかし聞こえるのは互いの荒い息のみ。 後は静寂のみで、怒りながらもプイッと背を向けて去っていった。 「ふ〜」 「たたた助かったあ〜」 三人はというと、道なき道の先にあった建物に身を潜めていた。 なんとか二匹が去っていったので、三人は安堵する。 「おまえ、この建物があるのがわかってて、こっちへ逃げてきたんだな」 「ええ、ポケナビの地図画面のおかげです」 「ナ、ナビの…おかげだァ?」 「何か?」 途端に海パン野郎が口許をひきつらせ、ルビーをガン見する。 これにはルビーだけでは無く、ユキも首を傾げた。 「バッカヤロオ!! みんな、そのヒンバスのおかげだろーが!!」 海パン野郎が、ビシィッと指差すと、ルビーは無意識に持っていたヒンバスに顔をひきつらせた。 「きっとそのヒンバス、おまえが川に落としたポケナビを届けに来たんだよ!! おまえのことが好きなんだ!!」 そう言い切る海パン野郎の言葉に、正直ユキは感動した。 こんなにまともな事を言うのか、という事では無く(少しあるが)、純粋に慕ってくれるポケモンはなんて素晴らしい事だと思い直されたからだ。 ちょっと期待を込めてタマザラシを見ると、「ケッ」という顔をされた。 ……かなり落ち込む。 「ナビのことだけじゃねえ! さっきのあの技、思い出してみろ!! ひかりのかべ≠ナ攻撃を受け止め、ミラーコート≠ナ倍返しにしたあの強さ!! 常識レベルじゃねえ!!」 確かに先程のあの威力は凄いと素直に思った。 やられたらやり返す。 100倍返しだ!!!! という位の迫力があった(大袈裟)。 そのまま戦っていたら、あの二匹に土下座をさせる事が出来るかもしれない。 なかなか膝を着けず、屈辱に顔を歪めて、なかなか土下座をしない二匹が土下座をした時はきっと爽快な気分だろう。 ユキの頭の中が酷く脱線していた。 「しかもそれはオレたちを助けるためにやったんだぞ!! 今ここにオレたちが生きていられるのは、このヒンバスのおかげだ!!」 唾を飛ばさんばかりの勢いで(実際飛びまくっている)、ルビーに詰め寄る海パン野郎。 流石のルビーも押されてしまう。 「それはそうだと思いますけど…。で、ボクにどうしろと?」 「決まってるじゃねえか。 おまえ、そのヒンバス連れていけ!」 「ええええっ!? イ、イヤだ!!」 「イヤだじゃねえよ!!」 「だってこんな美くしくないポケモンを…。 そうだ! あなたにあげます!! そもそもあなたが欲しがってたんだから、あなたが持っていけばいいんだ!!」 憤慨する海パン野郎に、ルビーはヒンバスを押し付けようとする。 ……我が兄ながら最悪な奴だ、と思う。 ←|→ [ back ] ×
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