いつかの時代。どこかの場所。

新たな物語が始まる   




サボネアを先頭に、ヨマワル、バルビート、キャモメ、アゲハント達野生ポケモンが、ある影に向かって各々攻撃をする為に駆け出す。

だが、その野生ポケモン達は、ある影が一つのボールを右手に置いて左手を翳すように構えた事により、一瞬で攻撃をされてしまった。

影の持っているボールに、何かが収まるが、その姿は少しも見えはしなかった。

そしてその影  否、その人は野生ポケモン達に勝ち誇った顔で、背を向けた。

「ありがとうございました!!」

突然側にいた女性が立ち上がり、興奮したようにそう言う。

どうやら、マイクを持っている事や、周りにカメラがある事によりレポーターのようだ。

「テレビの前のみなさん! ご覧いただきましたでしょうか!!」

そして、これもテレビの収録だったようだ。

「わがホウエン地方トウカシティのジムリーダー、センリさんの自主練習のようすです!!」

先程、一瞬で野生ポケモンを倒したのは、収録の為の物では無く、本当にいつもやっている事らしい。

確かにテレビが食い付くのも無理は無い。

「それにしても複数のポケモンを一瞬で…。いつもこのように激しい練習をされているんですか?」
「ハイ」
「そうそう! ジム就任を機会に遠くに住んでらっしゃる奥さんと息子さん、娘さんを、このホウエンにお呼びになったとうかがいましたが?」

そうレポーターが言うと、センリは途端に父親の顔になり、遠い空を見つめた。

「ええ! 引っ越してきますよ。今日…。ジョウト地方からね…」


† † †



『では次にセンリさんが得意とされているポケモンのタイプを』
「フフフ、あなた、なかなかハンサムに映ってるわよ」

センリの奥さんが、センリが映っているテレビを見ながら微笑み、車を運転していた。

そう、センリの言葉通り、今日引っ越して来たのだ。

「それにしても…やっと家族で暮らせるのね。うれしい!」

相当嬉しいのか、思わず笑みを溢しながら、車を凸凹道の上に走らせる。

「そうだ!」

センリの奥さんは、後ろの荷台の方を向き、息を吸った。

「ちょっとー! お父さんがテレビに出てるわよ〜!」

だが、荷台からは、うんともすんとも言わない。

相変わらずの無反応に思わず眉を下げ、溜め息を吐く。

(…って、あの子達が素直に見るわけないか)

しかしそうは思っても、これから家族団らんでホウエンに住むのだ。

これでは先が思いやられる。

センリの奥さんは、また荷台へと声を張り上げた。

「ねえ〜、前に来ていっしょに見ましょうよ〜」

その荷台では、というと。

引っ越しのペリッパーと書かれた段ボールに囲まれ、二人の少年少女がいた。

少年の方は不思議な帽子を被りながら、眼鏡を掛け、縫い物をしていた。

形状的には帽子だろうか。

少女の方は少年の向かいに座り、側の幼馴染みポケモンであるイーブイの首をもふもふもふもふと触っていた。

イーブイは慣れっこなのか、鬱陶しそうにする事も無く、うとうとしていた。

「聞こえてるの!?
 ルビー!? ユキ!?

その母の声に反応したのは、息子であるルビーだった。

「フーッ。今、忙しいんだって…。ユキ、ちょっと代わりに行って来てよ」
「嫌だね。私だって、愛でるのに忙しいんだよ」

二人は本当の兄弟だった。

だから、見た目から中身にかけてそっくりな訳である。

「よし! ようやくできたぞ!
 キミたちの帽子だ! かぶってごらん!!」

キミたち、というのはルビーのポケモン達の事だ。

すぐにルビーはそのポケモン達、ポチエナ、エネコ、ラルトスに完成した帽子を着させた。

ワーオ!! Elegant!!
「……」

ユキはこういう飾り物は嫌いではあるが、思わず三匹が可愛く感じてしまう。

「おや? キミはちょっと右側の毛が伸びすぎかな?」

ポチエナは自分の毛をキョロキョロと見る。確かに右側が長い。

成長すると毛の生え方にムラが出来てしまうのは仕方の無い事だ。

ルビーはヒュンヒュンとハサミを回すと、目にも止まらぬ早さでポチエナの毛を切っていく。

相変わらず手先だけは器用な兄に、ユキは関心する。

とはいえ、自分もそれ位出来るが。でもやりはしない。

「すばらしい! サイコー!!
 Beautiful!!」
「ちょっと、あまり騒がしくしないでくれるかい? タマゴに響くだろう?」
「騒がしくなんてしてないさ!」
「騒がしいんだよ!」

同じ紅の瞳がぶつかり合い、にらみ合う。

ユキが抱いているのは黄色と黒のシマシマ模様のタマゴ。

確かに兄の気取りっぷりが鬱陶しくなっただけで、あてつけなのだが。

しばらく睨み合っていた時、車から凄い音がして二人は段ボールに突っ込んでしまう。

その間にも必死にタマゴは死守した。危ない危ない。

外からは自分達の母親の声が聞こえてくる。

「ちょっとルビー、ユキ! ぬかるみにはまっちゃった。出てきて手伝って!!」
イヤだ

母はがくっとこけ、側にいたゴーリキーは呆れてなんとも言えない表情をしている。

「どーして〜〜!?」

中ではルビーがエネコの乱れた毛並みを整え、ユキがタマゴをタオルに巻いて、二人ともぶつくさ言っている。

「だって泥にはまったんでしょ? そんな中に降りたら、
 ポケモンが汚れるじゃない」
「同じく。せっかくの白いもふもふが台無しだからね」

そんな事をさらりと言ってのける子供達に、母は肩を落とし、ゴーリキーがそれを慰めるように肩を叩いた。

「それにもう…、車は泥から出てるよ」

ルビーは眼鏡から、紅い瞳を覗かせながら、言う。

その瞬間にトラックは宙に浮き、その際に跳ねた泥がゴーリキーの顔面に。

「RURUの、ねんりき≠ニ」
「フラッフィの手助け≠ナね!!」

その言葉通り、ルビーのラルトスが目を閉じながら念力≠使い、イーブイの手助け≠ナそれは強い物となっていた。

だから、こんなにも段ボールが積み上げられたトラックを浮かせられる訳だが。

ルビーは浮かせたまま、荷台の扉を開けた。

すると、自然の良い空気が入ってくる。

「へえ! ここがホウエン地方かァ」
「どれどれ。へえ、緑ばかりだね」
「でもなかなかBeautifulなところじゃないか! ボクのポケモンにピッタリだ」

ズゥン、と重たい音をたててトラックが地に落ちる。

母とゴーリキーがトラックに追い付く時には、いつのまにかルビーはトラックの上に乗り、ユキはそれを呆れながら見上げていた。

しかも、双子のように互いを分かっているから、今から何を言うのかも想像出来てしまうから嫌になる。

「そう! ボクのポケモンはつねに、
 かしこく、
 たくましく、
 かわいく、
 かっこよく、
 そして、美しい」

ぱっちりウインクする残念な兄を、ユキは兄だとは認めたく無い瞬間であった。


新たな時代の幕開け
(これから、なんて)
(誰にも分からない)


20140202



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