「ダメだ…。完全にわからなくなった…。
 一度は手にしたヒンバスが…」

海パン野郎はどよ〜んとした様子で岩に座り、燃え尽きたぜ……真っ白にな、という感じに真っ白になっていた。

流石にそんな様子を見てしまったルビーとユキは、酷く申し訳無いと思ってしまう。

「しかたねぇ…また気を取り直して探してみっか…」
「す、すみません……」
「気にすんな。べつにおまえらのせいじゃねぇよ」

目元をキラリと光らせる海パン野郎に、尚更二人の肩身は狭さを増した。

「あの…」
「なんだ?」
「ボクは、ポケモンコンテスト全制覇をめざして旅をしています。
 だから、可愛かったり美しかったりするポケモンが好きで…まさかあんなポケモンを狙ってるとは思わなくて…」
「…へへ、コンテストか…、そういや、やけに小綺麗な坊主だと思った。
 連れてるポケモンも輝いてらァ!」
「ハハハ〜」

ん? 待てよ?

今、海パン野郎は自分のポケモンも見ながら言わなかったか。

という事はユキもコンテスト全制覇を目指して旅をしていると勘違いをされたという事だ。

……最悪だ。なぜ兄と一緒にされなくてはならないのだ。

「たしかにオレの狙ってたヒンバスは、外見だけでいったら、なんでこんなのって思っても無理はねえ。
 別にオレもヒンバスそのものに恋い焦がれてるわけじゃねぇのよ。
 ものすげえ珍しくて欲しがってる人間が多いって聞いたんでな、金になるかもしんねぇって…」

先程まで何度も釣れていたから、あまり珍しい感じはしないが、今とんと見付からなくなった事を考えると事実だろう。

「へへへ、欲の皮つっぱらせてやってたから、うまくいかなかったんだろうな」

少し寂しげに微笑む彼は、先程思っていたよりはまともな人という事が分かった。

分かってしまったからには、どうにか手伝ってあげたいというのが人情という物だ。

ルビーはリュックから一冊の本を取り出した。件(クダン)のハギ老人から貰った海のポケモン図鑑だ。

「ボクも今、どうしても会いたくてずっと探してるポケモンがいます。そのポケモンに出会ったらスゴクスゴクHappyだと思います。
 逆にこのポケモンを手に入れる寸前で逃がしてしまったら、今のあなたのように本当にがっかりすると思います。
 だから…」

ルビーは竿に手をかけ、海パン野郎の隣に座った。

「もう一回手伝いますよ!
 このままじゃ夢見が悪いですからね」

海パン野郎に微笑みかけてから、ルビーは立ち尽くしているユキに目線を送る。

きっとキミはどうするんだ、という意味だろう。

フッ、と笑って竿を手に取り、ルビーの隣にストンと腰をおろす。

「しょうがないから手伝ってあげるよ」


† † †



それからという物、ユキが長靴空き缶タイヤ等の所謂(イワユル)ゴミを釣りまくり、勿論そんな恥ずかしい事を認めるはずが無く「HAHAHA! ヒンバスを釣るついでに海の掃除をしようと思ってね!」と明るく言いながらも目が死んでいた事を二人は知っている。

しかしあまりにも綺麗に釣る物だから、そういう才能でもあるのかと思った位だ。そんな才能はいらないだろうが。

そんなこんなで今は陽が完全に落ちきった夜である。

当然、三人の釣竿は静まり返り、ゴミすらも釣れなくなった。

「ふぁ〜、やっぱ釣れないな〜。もう夜だぜ」
「そうですね〜」
「辺りも静まり返ってるし」

と。ユキが言った瞬間に、草むらがガササと音を鳴らす。

「ん? なんだ?」

そちらを見てみると、獣型のポケモンのシルエットが見え、その目は怪しく光っていた。

これは危ない、とルビーは海パン野郎に声をかけた。

(草かげに何かいます! 伏せてください!!)
(多分ここらに住み付くポケモンだと思います)

二人の言葉に、海パン野郎は言われた通りに伏せた。

すると、草むらから出てきたのは、白いネコイタチポケモンだった。

うおおおお!!
 あれはザングース!! こぇぇぇ!!)
(さわがないでください!!
 たぶんボクたちには気づいていません!!)
(本当か!? じゃあなんで出てきたんだよ!?)
(それは…)
(あれだと思います! 見てください!)
(あ!!)

ユキが指差した方向には、ザングースと対面するように出てきたポケモンのシルエット。

その姿は、まさにキバへびポケモンだった。

(対岸(アッチ)にはハブネークが!!)

ザングースとハブネークは睨み合った。

その迫力は相当な物であった。

(そうか!! ザングースとハブネーク、
 これはライバル同士の夜の決闘!!)

ルビーの手にある図鑑を見ると、ハブネークには、

先祖代々ザングースと戦ってきた。体のキズは激しい戦いの印。鋭い切れ味の尻尾で攻撃するぞ。

と表記してあり、ザングースには、

宿敵ハブネークとの戦いの記憶が身体中の細胞に刻み込まれている。敏捷(ビンショウ)な身のこなしで攻撃をかわす。

と表記されていた。

想像を絶する宿敵関係に、思わず息を飲んでしまう。

生半可な好敵手(ライバル)関係では無い。

そんなユキの存在には気付かずに、ハブネークはその鋭い切れ味の尻尾をザングースに向かって叩き付けようとした。

勿論長い宿敵関係だ。簡単に攻撃は受けない。ザングースは爪で受け止めた。

それどころか、尻尾に腕を絡めて、引っ張った。

そして引っ張られた頭を狙って、ハブネークの尻尾に負けない位に鋭い爪を突き出した。

それをぎりぎりの所で避ける。

正に一進一退の戦いだった。

(ひぇぇぇ)
(2匹は戦いに夢中だ。今のうちにやりすごしましょう!!)
(ほら、早く行きますよ!!)
(あだ!!)

ユキが海パン野郎の尻を叩き、早く来るように鉄拳制裁する。

三人は伏せたまま、コソコソと逃げ出す。

そんな時に、ルビーの竿に反応が。

「おい! おまえの竿にアタリだぞ!!」
(やめてください、こんなときに!! 見つかります!!)
(海パンさん、空気って読めますか!? カラケって読むんじゃないですよ、クウキですよ、ク・ウ・キ!!)

ふと、三人は嫌な予感がして、後ろを振り向く。

そこにはこちらを見つめる四つの目。……ザングースとハブネークだ。

『あっ』



さあ  逃走開始だ。



「見つかった!!」
「逃げるぞ!!」
「うおおお!!」

二匹のポケモンが追いかけてくるので、三人は全速力で逃げ出した。

「2匹の決闘でしょ!? ボクたちはほっといて勝手にやっててくださいよォ!!」
「ダメだ!! オレたちが神聖な決闘をじゃましに来たと思ってるぞ」
「何もしないので見逃してくださいよォ!! って、聞く耳持ちませんよねェ!!」

ダメだ、こりゃ。と走りながらに思った。

「ええと…どっちに逃げたら良いんだよォ! ええと…地図、地図…。あれ!? ポケナビがない!!」
「ええ!? ルビーって馬鹿!?」
「オイ! おまえらの自慢のポケモンたちで蹴ちらしてくれ!!」
「イヤです! あなたがやってください!」
「ちょっと触らないでくださいよ! セクハラですって!」

ドタバタドタバタと、三人で暴れていると、その弾みでボールが飛んでいった。

飛んでいったボールは、ハブネークの牙と尾、ザングースの両方の爪へ刺さってしまう。

「NANA!! COCO!! ZUZU!!」
「フラッフィ!! リージュ!! チャビィ!!」
「ひーとん〜!」

ボールの中にいるポケモン達は、なんとか牙や尻尾、爪に刺さらないように避けてはいたが、ボールがあんな状態じゃどうしようもない。

「どどどどど〜するんだよォ」
「どうするって言われても…そうだ! ユキにはトゥインクルがいるじゃないか!」
「おねんねしてる」
「起こせよ!!」
「何言ってるんですか、可哀想でしょう!?」

海パン野郎とユキが言い争っていると、ルビーの竿に反応がくる。

そちらを見ると、ブクブクブクという気泡の後に、あのヒンバスがポケナビをくわえて飛び出して来た。

「あれは!!」
「ヒンバスだ!
 それにボクのポケナビも!!」
「オレともみ合った時、川に落としたんだ!! それをあのヒンバスが助けに来たんだよ!!」
「えええ!?」
「前、前!!」

すっかり話し込んでいる二人に、ザングースとハブネークが向かってくる。

「うわわ!!」
「来たあ!!」
「やばい!!」

身構えた時、バシャ、という水の跳ねる音がした後に、ルビーの腕の中にポケナビをくわえたヒンバスが飛び込んでくる。

その時、ヒンバスの体が光り  


醜いアヒルの子
(いつかは白鳥に)


20140213



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