そのストレートな言葉に、しばらくして何か返した気もするが、今になってはもう思い出せやしない。 気分を振り切るように、カイナシティを歩いた。 まぁ、カイナシティにはコンテストがあるから、兄はそこにいるであろう。 というかそこしか考えられない。 (えーとコンテスト会場は、と) 辺りを見渡していると、ふと、河川敷に目が行く。 カイナシティは海が近いから、結構な広さであった。 それなのに一点に目が言ったのは、きっと鳴き声がしたからだろう。 なんだろうと近付いて見れば、そこではタマザラシがキャモメを複数虐めている場面であった。 可愛い顔してなんてことするんだ。 脳裏に、捨てられ船で会った二匹のポケモンを思い出す。 可愛い顔している程、可愛がられているだろうから生意気なのかな、なんて思うが偏見以外の何者でも無かった。 「こら、虐めはいけないよ」 ソフトに言ってあげれば「あぁん?」みたいな凶悪な顔をされた。 小さい癖にド迫力である。 「しょうがない……」 止めるには捕獲しか無いか、とボールを構えた。 「リージュ!」 アゲハントがボールから出てきて、その美しい羽を羽ばたかせる。 相変わらずbeautifulで目が奪われてしまう。 「リージュ、風起こし=I」 羽をばたつかせ、強い風を巻き起こす。 だが、タマザラシは屁でも無いという顔で嘲笑って見せた。 挙げ句にその短い手をパンパンと叩き、「おい、やれるもんならやってみろよ、へっへー」みたいな余裕の笑みである。 調子乗ってやがる、コイツ。 しかし相手はプリティでキュアキュアで、どうにも頭ごなしに怒ろうという気がしない。 「糸を吐く=I」 アゲハントから純白の糸が吐き出され(どこからかは伏せておこう)、タマザラシを縛った。 タマザラシは一瞬驚きの表情を見せたが、なんなく糸はぶち切られてしまった。 「え、思ったより強いなァ」 よくミ≠ト見ると、30レベルという、野生では驚きの数値だった。 そして安定の生意気≠ネ性格。これはもう疑う余地も無い。 特性は熱い脂肪=B炎、氷タイプは効かないらしい。 ブースターを出さなくて良かったと思う。 「仕方無い、リージュ。交代」 そう言いと、アゲハントなパタパタとこちらに戻ってくる。 さて、秘密兵器のご登場だ。 「トゥインクル!」 毎度お馴染み、ピョコタンッという効果音と共に出てくるカワイコちゃん。 反してタマザラシの方は酷く怪訝な表情だ。 言葉にするならば「こんなチビが俺様に敵うと思ってんのか、あぁん?」という感じだ。 おい玉さんや(名前不明)、もう少し可愛い顔を引き立たせようぜ。それじゃただのヤンキーだ。 まぁ、そんな事は置いておいて。 逆に油断している今がチャンスという物だ。 「電光石火=I」 小さな体が風を纏い、寧ろ風になったように駆け抜ける。 油断していた玉さんは驚きを隠し切れないようだ。 「電磁波=I」 そうして為す術(ナススベ)も無く、麻痺に陥った。 すかさず、ユキはそこで何の変哲(ヘンテツ)も無い赤と白のモンスターボールを投げた。 すると意外にも数回揺れた後に、すんなり入ってしまった。 本当にすんなりで、拍子抜けという感じだ。 「はは〜ん、実は私にゲットして欲しかっ 途端にガタガタガタガタと揺れて否定的な態度を示してきた。 やはりただ単に麻痺状態が酷くて抗えなかったようだ。 「とはいえ、今のままじゃ苦しいだろうからポケモンセンターに向かわないとね」 わざわざタマザラシをボールから出して、抱き上げる。 しかしそこは反抗期。暴れない訳が無かった。 「はいはい、じっとしててね。麻痺で苦しみたくないだろう?」 麻痺に陥らせた張本人の癖に、何を戯けた事を言っているのだとタマザラシは睨みを一層強い物とした。 そんなタマザラシにも、涼しい顔をして、抱き締める腕をキツくする。 勿論また暴れようとした、が、かなり強い力で抱き締められて暴れようにも暴れられない。 え、こんな細い腕からどうやってこんな力出してんの、という疑問が生まれた。 「chubby」 その流暢(リュウチョウ)な単語が理解出来ず「は?」という顔で見上げる。 「チャビィ。キミの名前だよ。 丸々とした、って意味なんだ」 可愛い、というより美形な顔が自分を見下ろした。 その瞳は紅いようだが、光の加減で桃色にも紫にも見える。 タマザラシはそんな瞳を嫌いじゃないと思いながら、当人は大嫌いだと深く思った。 人間という生き物は馴れ馴れしくてしょうがない。 「あ、ほら、あそこがポケモンセンターだよ」 紅い目が自分からは見えなくなり、見えたのは赤と白の建物。 あれがポケモンセンターらしい。当然だが、野生のポケモンだから初めて見た。 中に入ると、薬臭い匂いと様々なポケモン達の鳴き声が周りから嫌でも聞こえてくる。 そしてタマザラシは抱き上げられたまま、受付に向かわれた。 そこには営業スマイルを顔に張り付けた看護婦。 「この子と、この子達をお願いします」 最初にタマザラシに目を向け、その後に後ろに控えるブースターとアゲハント、リュックに顔を覗かせるピチューに目を向けた。 ユキというトレーナーは、どうやらあまりボールに入れない質(タチ)らしい。 「お預かりします」 初めてで何も知らないタマザラシは、これから自分は買収されるのかと内心ひやひやしていた。 † † † 「お待ちどうさま。貴方のポケモンは元気になりましたよ」 「有り難う御座います」 にこり、と爽やかに笑えば、看護婦は(あら、イケメン)と心をときめかせた。 「あ、一つお尋ねしたい事が」 「はい、なんでしょう?」 周りに客がいないか確認した後に、ユキは看護婦に話し掛けた。 看護婦というと、相も変わらず営業スマイルを顔に張り付けながらも、カウンターの相手に見えない位置でガッツポーズをしていた。 「コンテスト会場って、どこにありますか?」 「それならこのポケモンセンターを出たらすぐに右に曲がって頂き、真っ直ぐ道を進んだ後に、右に曲がって頂くと目の前にありますよ」 「Thank You」 流暢な英語を口にして、柔らかく微笑む。 看護婦的には彼女が男だったら食事に即効で誘うのに、と唇を尖らせたい気分であった。 「コンテストに出場なさるんですか?」 「え。あー……いえ、兄が」 「お兄様でしたか」 今日は早く仕事を終わらせてコンテスト会場に行かねばならないな、と思う看護婦だった。 † † † 看護婦の言葉通り道を進むと、本当にそこにコンテスト会場はあった。否、無ければ困るのだが。 ルビーの迎えとはいえ、コンテスト会場に行くのは脇腹が痛かった。 とか思っていたら本当に脇腹に蹴りが入れられた。……タマザラシだ。 「チャビィ……もう少し手加減を……」 しかしタマザラシは胸の中で「ふんっ!」という風にそっぽを向くのみである。 反抗期真っ最中だからしょうがないか、と思って気にしない事にする。 それに、タマザラシは何だかんだで蹴りは入れるが、暴れる事は無くなった。 これはほんのちょこっとなついたんだな、とツンデレのようなタマザラシを可愛く思った。 思った瞬間に、こんな所で立ち尽くしては邪魔じゃないか、と中へ重い足取りで入っていく。 だが、入った瞬間に煙が立ち込めて周りが見えなくなった。 (な、なんだ!?) すぐに口と鼻を覆い、目も守る為に眼鏡をかけた。 ちなみに視力は悪くも無ければ良くも無い。普通だ。 その時、聞き覚えのある声が聞こえた。 「連れていケ!」 煙の合間から見えたのは、カガリ、ホムラ、ホカゲ、ユウキだった。 つまり 手のひらの温もり (最初で最後だろうなァ) 20140111 ←|→ [ back ] ×
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