プラスル&マイナンvsルビー&ユキ。

両者一斉に走り出した物の、プラスル&マイナンのちょろちょろとした素早い動きにより、ルビー&ユキが押されている模様。

プラスル&マイナンが動いた。どうやら木の実をぶつけようとしているようだ。

だが、ユキにそんな事はお見通しだ。直ぐ様兄に伝え、避ける。

べちゃっ。

  しかし、それはなんとフェイクだったようで、避けた両名の背に木の実が投げつけられた。





プッツン。





「え?」

思わずルビーが振り向く位に、音は伝わっていた。

見てみると、ユキはふるふると震えており、「はははははは」という世にも恐ろしい笑い声が彼女の口から漏れてくる。

あ、ヤバい。これは、アレだ。

「殺るぞ、ルビー」
「お願いだから落ち着いてくれ!!」

  ユキがぶちギレた。

いつもなら、背中に木の実をぶつけられたからと言って、怒りはしない。

だが、先刻に軽くキレた事により、キレやすくなっていたのだ。

ルビーは悟った。これは本格的にヤバいぞ、と。

アレだ。有名な文学にあった文のような。

『メロスは激怒した。必ず、かの邪知暴虐の王を除かなければならぬと決意した』

という感じの気迫。これに今の状況を当て嵌めてみると、

『ユキは激怒した。必ず、かの邪知暴虐の電気兎を除かなければならぬと決意した』

という感じだろうか。何が言いたいかと言えば、とにかくヤバいのだ。

「あれをやろう」

アレ、とはなんだろうか。

いつもなら妹の思考など筒抜けで、お見通しな訳だが、今の妹はただの暴走列車だ。

何をしだすか分かった物じゃない。

なんて思っていると、ユキは自分の服に手をかける。

ええ!? 脱ぐの!?

そう脳裏に過らせた次の瞬間には、ようやく妹が何をしたいのか分かった。

ユキは服をバサッと脱げば、瞬(マバタ)きもしない内にルビーの格好へと早変わりする。

……いつも思うのだが、

「それってどうやってるんだい?」
「……それって手品師(マジシャン)にタネを聞くのと同じだから」

要するに、決して突っ込んではいけないのだ。

ただ兄としてはこの真似っ子作戦は気が乗らなかった。

なぜなら、

『ねぇ、ユキ』

……お分かりだろうか。

今、ユキは自分と『全く同じ事を全く同じ声で全く同じタイミング』で言ったのである。

たまに気が合う、という軽い物では無い。全てのタイミングが鏡のように同じなのだ。

勿論、他人として見るのなら凄いと思うし、面白いとも思う。

だがしかし、自分とまるっきり同じ事をされるというのは、少しの薄気味悪さも感じる。

当然可愛い可愛い妹のしている事というのは重々承知だが。

まぁ、目が本気と書いてマジなので、何も言わないが。

ルビーは息を吸った。同時に隣から同じ位の大きさで息を吸った音がした。


所謂これは  同調(シンクロ)。


『待てえええ!!』

「ルビー二人」がプラマイを追う為に駆け出す。

一瞬、プラマイは驚いたように身を引いたが、流石はポケモン。

そんな摩訶不思議な事は慣れているのか、すぐに順応したようだ。

プラスルがターザンをして逃げながらマイナンが木の実を投げる。

その木の実はルビーの左の方へ投げられた。

かと思えば、ユキの顔にも投げられる。

挙げ句の果てにプラスルがターザンに使っていた蔦を足に引っ掻けられ、二人は抗う間も無く派手にスッ転んだ。

顔や服が凄まじい位に泥だらけになってしまう。

それをプラスルマイナンが、二匹して爆笑している。

二人は、怒るかと思いきや、「フフフフフ」と一緒に気持ちの悪い笑いを溢した。

そして、ゆっくりと同じタイミングで、同じ表情で眼鏡をかけた。勿論同じ、だ。

『わかったぞ〜。
 キミたちの動きには法則性がある!!』

プラスルマイナンはギクゥ、という心情が顔に書いてあった。

この法則性は、同調(シンクロ)した事により、二人の洞察力は合わさり、それにより分かったのだ。これぞ正にフュージョン。

『図星だな』

得意気な顔で、二人は同じ右足を出してプラスルとマイナンに一歩近付いた。

『あちこち逃げ回ると見せかけて、そのドアにボクが近づくのをさりげな〜く拒んでいただろう?
 そのドアの向こうには何か良いものがあるんだね?』

どんどんプラスルとマイナンの顔が曇っていき、焦りを少なからず感じているようだ。

「ボクの推理ではそれはきっとチョ〜珍しい木の実!
 この船が捨てられてから何十年もの間に育った珍しい木の実だ」

手を組んでキラキラとした瞳で言うルビー。いつのまにか同調(シンクロ)は終わっていた。

それどころか、冷ややかな目でルビーを見ているユキ。

そんな妹の視線に気付かずに、ルビーはハーハーと息を荒くしてプラスルマイナンに一歩また一歩とにじり寄った。

「さ、そのドアの向こうにあるいいもの!!
 そいつをボクに…」

その時  自分の足元に影が忍び寄るのを見て、ユキは勢い良く振り返る。

ガンッ!!!!

目の中で星が一瞬ちかちかとした瞬間に、ユキは兄と共にドッと倒れた。

脳裏には、赤い、色が  

「教えてくれてありがとヨ、ボウズ!」

それにしても双子みたいな奴等だとか思いながら、関係無い事だと思い、プラスルとマイナンが守っている扉にずかずかと近寄る。

プラスルとマイナンが体を張るが、コータスによって吹き飛ばされてしまう。

そして、日記に探知機の事が綴られているのを見て、男はニヤッと笑った後にドアを蹴破って入っていった。

そこに二人取り残された訳だが、誰かの細い腕が延びてくる。

(ほら! しっかりするったい!!)

それは、藍色の少女だった。

ルビーを引き上げた後に、ユキを引き上げる。

10歳という割にはかなりの力持ちだ。まぁ、そんな事を言ったらルビーやユキもそうだが。

「う〜ん」
「う……」

木の上に引き上げられた事により、二人はゆっくりと目を覚ます。

「う、うわっ」
(しーっ!)

ルビーはいきなり目を覚ましたらサファイアがいて、しかも木の上な物だから、酷く驚いたようだった。

対してユキはハッとして、何かを考え込むように口許に指を持っていっていた。

(いつつ…、なんだ?
 あー!! ボクをうしろからなぐったのはキミか!?)
(なんば言うとるか!!
 よく状況ば見いや!!)
(そうだよ。僕達を殴ったのは赤い奴だ)
(あ、あれ? あんた……)
(ユキだよ)

一瞬、聞き分けがつかなかった。

ユキの声は平生ルビーと似た声だが、今の声は本当にルビーそのままだった。

それに今  おっと、こんな事を考えている場合では無いのだとサファイアは今考えていた事を追い払った。

ルビーは扉にいる赤装束の男に目が行った。

(あいつは?)
(この船にかくされた何かば盗りに来たらしい悪人ったい!
 あたしももう2人にいきなり襲われたとよ!)
(しっ、誰か来る!)

静かにするように言うと、確かに木の下から誰かの声が聞こえてきた。

「ホムラ、ここか?」
「……ホムホムー」

一人は凛とした声の女性、一人は静かな声の少年の声だった。

下を見てみると、扉の所にいる男と同じ赤装束を来たショートカットの女性と、目が虚ろな感じで右耳にピアスを付けて髪が長めの少年が立っていた。

女性の方はともかく、少年の方は自分と同じ位なのに、髪が長くてピアスを付けていて髪の毛が白のメッシュとはこれいかに。

正直、見ただけで苛々した。

「なんだァ、カガリにユウキ? やっぱり来たのカ?
 もう見つけてやったゼ」

扉から姿を表し、左手になにやら持っていた。

「探知機はヨォ!!」

その手に持つのは、男の手のひらサイズの白い箱だった。

一瞬探知機に見えなかったが、成る程確かにそれっぽい気もする。

「ところで子供…、女の子供がここにまぎれこんでいないか?」
「……バンダナで、亜麻色の髪でオレ位」
「女の子ォ? ユウキ位ィ?
 ボウズ二人ならいたがナ…」

ユウキという少年がカガリという女性の言葉に、髪の毛のジェスチャーをしながら言う。

だが、ホムラという男は見ていないのだから首を傾げるしか無い。

ボウズ二人ならそこに転がっているはずだと目を向けるが、そこには誰もいなくて目を疑うばかりである。

(今度見つかったらただではすまんとよ!)
(ど、どうする?)
(もちろん戦うったい!)

当然だと言うように、サファイアは言い切ってみせる。

だが、一つ気になる声がある。サファイアが先程から目を開けないのだ。

(けど…、あたしは今目があけられん、今度はあんたにも、ユキにもしっかりしてもらわんと)
『!!』

目を固く瞑るサファイアに、自然と二人の体が強張る。

そして外の様子を見て、兄はゴクリと息を飲むのだ。妹も勿論、柳眉(リュウビ)を潜めながら軽く唇を噛んだ。

確かにバトルを避けて来ていたが、今はそんな流暢(リュウチョウ)な事を言っている場合では無い。

だが  

(でもどうする?
 ボクの手持ちは3匹とも「こんらん」してるんだぞ)
(私の手持ちも、同じだ)
(マズかね…。うちの2匹も大ヤケドを負ってるとよ)

三人共、その危機とした状況を噛み締め、額に冷や汗を滲ませる。

だったらどうするのだ、と。

と。サファイアの野生で培った聴覚に、小さなポケモンの鳴き声を聞き取った。

(ほかにもまだポケモンがおると?)
(ああ、手に負えないイタズラモノ2匹がね)

そのポケモンというのが、悪戯電気兎のプラスルとマイナンだ。

先程までホムラのコータスに突き飛ばされて気を失っていたが、もう目が覚めたらしい。

守っていた扉が容易に破られたからか、心無しか耳を垂らして今度は本気で悔しがっているように見える。

(よか、あの2匹に協力してもらうったい!)
(え〜〜!? 無理だ!!)
(ムリでもやらんとどのみち無事ではすまんけんね)
(……でも)

すっ、と目付きを鋭くしたユキが、サファイアの蒼の目を見つめた。

(でも、相手は3人。
 あの2匹でだなんて分が明らかに悪い)
(それでも……!)
(少しだけ待って。
 結論は急いじゃ駄目だ。もたもたしてる暇は無いけど、わたわたしてる場合でもない)
(……!)

言い終わると同時に、ユキは周りを良く観察し始めた。

だが、サファイアは彼女の言い分も分かるのだが、やっぱり逸る気持ちはどうにもならなかった。

(あの電気兎2匹で3人に向かい打つか……いや、あのチャラ男は確実にこちらに気付きそうだ……)

ユキは奥歯をキツく噛みながら、考え込んでしまう。

どうする。どうすれば良い  

その瞬間に、頭にある事が閃く。

(そうだ!
 もう一匹いたじゃないか!!)
(ユキ!? まさかそれって)
(ああ、トゥインクル!)

ルビーもサファイアも、リュックの中から、生まれて来た時のようにピョコタンッと出てくるピチューの姿に目を疑った。

サファイアの場合視力が奪われている為に、疑う目すら持っていないが。

(生まれたばかりだろう!?)
(この際力量(レベル)は関係無いよ。
 要するに、目を眩ませられれば良いんだ)

淡々とした声に、驚きを感じつつ、サファイアは頷いた。

(……さぁ、行くよ!!)

ユキの声を合図に、目の見えないサファイアはルビーとユキに掴まり  木の上から飛び降りた。

ザッ、という砂を蹴る音と共に、プラスルとマイナンの後ろに着地する。

(いいかい? ヒソヒソヒソ)

ルビーがプラスルとマイナンに耳打ちすれば、2匹は頷いた。

そして、赤装束の三人が振り返る間に、声を揃えて三人は三匹の電気ポケモンに指示をする。

『かげぶんしん!!』

赤装束の三人を囲むように走り出した三匹が、分身を増量させて三人の目を欺(アザム)く。

案の定、赤装束の三人は突然の事に焦りを見せた。



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