「これは!?」
「メタングと、
 メタグロスだ!!」

ダンバルと色が似ている事から、鋼タイプだという事は分かった。

だが、なぜ浮いているんだ。

「体内には血液のかわりに協力な磁力がめぐっていて、
 その磁力と地球の磁力を反発させ、宙に浮かぶことができる」
(なんか心読まれたみたいだ……)

自分の心中の疑問に答えるように説明したダイゴに、ちょっとドキッとしてしまう。勿論、読まれた気がして、だ。

「ふ〜〜」

先程見上げた夜空に向かって、メタング達が宙に浮かんでいく。

ルビーは寿命が縮まったぜ、という感じの面持ちで腰を抜かしている。

全く根性の無い兄だ、とか思ってふと気付く。自分もそんな物ねぇじゃん、と。

「ん? ダイゴさん。あそこに何か見えましたよ?」

流石観察に関しては長けているユキ。何気無く見た岩陰の光さえも見逃さなかった。

「ナイスだ」

すぐに腕に付いている、丁度腰に下げてある石を嵌めている輪と同じ物を取り、チェーンを向こうの方へ投げた。

その手錠のような物は岩陰にあった物を掴み、こちらに戻ってくる。

「いい『石』だ」
『石の収集人(ストーン・ゲッター)!!』

石の収集人(ストーン・ゲッター)の、石の収集瞬間を見た二人は、声を合わせて言った。

「これは『太陽の石』。ちなみにキミたちのポケモンを進化させたのは『月の石』と『炎の石』だ。
 このホウエンには、こんなエネルギーに満ちたすばらしい『石』が、そこかしこの地に埋もれてるんだよ。大自然の恵みであり、芸術だ!」

ダイゴは、趣味の石の事だからか、先程まで大人びていた顔を緩ませて、子供のように目を爛々と輝かせていた。

その話をしている頃にはメタング達は外へ抜け出した。

夜空を見つめた時も思ったが、もう夜なんだと思うと、ある種の哀愁を感じる。

「昔より、多くの石の収集人(ストーン・ゲッター)がエネルギーを求めて『石』探しをしてきた。
 そして見つけた『石』を磨きこんだもの…それは『宝珠(タマ)』と呼ばれた」
「『石』に『宝珠(タマ)』ですか…」
「ハハハ、興味ありませんって声だな」
「私は頗(スコブ)る興味がありませんね」

ユキが淡々とした声で一刀両断する物だから、ダイゴは勿論、兄であるルビーまでギョッとしてしまう。

「まぁ、ボクも興味はありませんね。あるのはコンテストだけですから」

二人はメタングから降りると、進化したポケモンにかかりっきりになった。

「いや〜、NANAとCOCOがさらにかっこよく、かわいくなって最高に満足だな〜」
「まさかリージュがこんなにbeautifulになるなんて……あ、フラッフィは勿論ね!」
「どこもかしこもwonderful…」
「愛で甲斐があるなァ……」

うっとりした顔でポケモンを見ていると、ダイゴにグッ、と腕を掴まれる。

「わ!! なんですか!?」
「セクハラですよ!?」
「ふむ…十分合格なんだが…」
「な、何が?」

女の子の体を気安く触っておいて、無視だなんて酷いぞ、と思うがダイゴは真面目な顔付きで目を伏せた。

「実は僕は『石』以外にも探しているものがある」

黄金の目を開き、左手の拳を見せた時、まるで舞台効果のように背で水飛沫があがる。



仲間だ。
 その仲間とともにホウエンに巣食うふたつの巨悪を射つ!!




ふたつの、巨悪……。

宝珠(タマ)の時よりは興味が引かれた、というか、妙に気になってしまった。

「キミたちの名前と年齢は?」
「ル、ルビー、11歳です…」
「……ユキ、9歳です」
「ルビーくんとユキちゃんか…フフ…、残念だ。キミたちが16歳以上だったらスカウトしているところだ」

華麗にメタングの上に乗りながら、笑みを浮かべながら言う。

「ええ!? またまたあ。
 ボク、ダメですよ、戦いなんて!!」
「私もですよ!
 バトルはからっきしで〜」

冷や汗を垂らしながらも、へらへらと笑って見せる。

こういう時の紅眼兄弟は、本当にそっくりだった。



「…このダイゴが気づかないとでも?」



その鋭い一声に、ルビーとユキはギクッとして胸を抑えた。

特に、あのなんでも見透かすような黄金の瞳を見せられると、どうも心臓が落ち着かない(念の為言うが、恋の類いでは絶対に無い)。

最初に会った時から嫌な予感はなんとなくしていたのだ。

「また、どこがで会おう。
 ルビーくん、ユキちゃん」

メタングで飛んでいくのを見送りながら、絶対に再会なんて御免だと思った。

「ホウエンに巣食うふたつの巨悪…か。なんのことだろう?」
「さァ……でも絶対に言えるのは、私達には関係は無いって事だよ」
「うん、そうだね……。
 ボクたちもいこう!」


† † †



「何かあったとやろうか? アイツは無事やろか?」

サファイアは今、自分と反対側に行ってしまったルビー、そして妹ちゃんを偉く心配して探していた。

ゴゴゴゴゴ、という音を聞き付けてみれば、それは自分が特訓していた洞窟からする物だと判明したのだ。

ジムに勝ったばかりだったサファイアは、一人でに体が動いていた。

紅い目をした少年が、頭に過って。

今ごろあの男は洞窟で埋もれているんじゃ無かろうか、と。

だからとにかく入り口に向かおうとした時だった。



「あれ? 何してるの?」



酷く、呑気な声だった。

思わずサファイアは呆然として、動く事すら忘れてしまう。

「ははん、わかったぞ。野生児のキミの事だ、ここで朝ごはんにしようとしてるんだな。
 メニューはなんだい? 雑草と小石のスープ?」

いつもの調子で売り言葉をつらつらと並べるルビー。

すると、サファイアが言葉を発せずにルビーを指差しながら、ピョンピョンと跳び跳ねている。

「な〜んてね、冗談だよ、怒るな」

そんなサファイアの様子を見ながら、意地の悪い笑みを浮かべた。

あ、あたしはこの石の洞窟からすごい地響きがしたけん!
 あんたが埋まったかもしれん思って、飛んで来たったい!! それなのに…


予想以上の怒鳴り声で、売り言葉を言ったルビーも軽く萎縮してしまう。

ユキやポケモン達はその大声に、耳を塞いでしまったが。

「な、なんだよ。別に助けてくれなんて頼んでなかったよ。
 そりゃ確かに野生ポケモンの大群に襲われて苦労したさ。でも…」

今までどもっていて小さかった声が、一気にパッと顔を上げた事により、通常に元通り。

「ダイゴさんって人に会ってね、その人とユキとで協力してスマートに危機は乗りきりま・し・た・から」

最後の部分をスタッカートに言うと、サファイアは衝撃を受けたような顔をしていた。

そして、急にルビーに掴みかかった。

「今、なんて言ったと!? 誰と会ったって!?」
「ぐえ…、ダイゴさん…」
「本当にダイゴいう人に会ったとか!? そん人は今どこったい!?」
「も、もう行っちゃったよ。海の向こうに飛んでった」

するとサファイアはルビーを離すが、ガクッという効果音がしそうな位に首(コウベ)を垂らしてしゃがみ込んだ。

その小さな背中はどことなく震えていた。

震えながらに「あ、あたしはそん人ば探してたとに…。なんで…、なんであんたが…」と蚊の鳴くような声で言った為に、聞き取りづらかった。

どうしたんだ、と思う間も無く、ユキはルビーと纏めてサファイアに首根っこを掴まれ、引っ張られる。

ダイゴに続いて、またか、という気持ちが頭に浮かぶ。

今ならまだ追いつけるかもしれんと! 追いかけるったい!!
 あんた、いっしょに来てダイゴさんがどっちへ行ったのか、道案内するったい!!


それは分かったのだが、どうか離しては貰えないだろうか。

というか、海の向こうに言ったというのに、どうやって行くんだ。

そう思った瞬間、サファイアが海の中に向かって飛び込んだ。え、まさかのダイブ?

あわうわ!!

当然紅眼兄弟は恐怖に戦(オノノ)いて、口からは無意識の内に声が出ていた。

落下に備えて目を固く瞑ると、水にダイブする事は無く、代わりに冷たい、それでいて柔らかい何かに落っこちる。

それは超巨大な(14.5m)ポケモンである浮き鯨ポケモン、ホエルオーであった。

行こう、
 えるる!!



ささやかな願い
(お願いだから私を、)
(巻き込まないでくれ)


20140207



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