クチートの群れの上を駆けるは光を発した四匹のポケモン達。 それを見て、ダイゴは呟いた。 「ポケモンが成長により、その姿を変化させている…、 …進化だ!!」 その進化というのは、色々な方法がある。 レベル。石。時間帯。他にもまだまだあると言われている。 内二つが、四匹を進化させた理由だ。 「四匹のうち2匹は僕が腰に下げていた『石』に偶然触れ、 そのエネルギーを受けはじめてしまったようだがね」 言って、気が付く。 いくら話しても、反応が返ってこないのだ。 試しに後ろを向いてみると、そこには誰もいなかった。 少年も、少女も、だ。 これはあれか。大の大人である自分は一人言をぶつぶつと喋っていたのか。それではまるで寂しい人だ。 微かに声がする下の方を除きこんで見ると、そこに二人はいた。 「ハ〜〜イ。COCO、NANAこっち向いて〜。 そう! いい表情!! いいよ〜!」 「ちゃんとフラッフィとリージュも撮っといてくれよ?」 「分かってるって。ユキこそ写真はちゃんと撮っただろうね?」 「勿論! バッチリだよ!!」 「OK!!」 ルビーはビデオ撮影担当、ユキは写真撮影担当だった。 兄のルビーはともかく、ユキがこういう事をしているのは不思議に感じるかもしないが、ポケモンを愛でるのに撮影は必須だ。 特にビデオや写真というのは世の中便利になった象徴だった。 一度見た場面が、撮っただけで何度も見直す事が出来るのだ。これはハイ&テクだ。 いやぁ、やっぱり撮影は良い物だ、とカメラの良さを噛み締めていると、ダイゴから兄の腕と共に自分の腕を掴まれた。 「何をやってる!!」 「ポケモンの成長記録ですよ。トレーナーとして当然でしょ?」 ルビーが当たり前だというような口調で言うと、ユキが同意するように頷く。 「進化の場面なんてめったに撮れないし、ビデオだけでなくもちろん写真も毎日撮ってます」 「そうすれば毎日見返せますからね」 「アルバムがもう36冊目! 見ますか?」 「あ、私のこの23冊目のフラッフィなんて凄くprettyですよ?」 「そんなことをしてる場合か!!」 怒る、というよりかは呆れている感じに怒鳴った。 そしてダイゴが紅眼兄弟の襟首を引っ張り、クチートの群れから掻い潜ってどうにか抜け出す。 三人が走り出すと、ルビーとユキの隣に素早く寄り添って走る四匹。 エネコはエネコロロに、ポチエナはグラエナに、イーブイはブースターに、カラサリスはアゲハントに進化を遂げていた。 「Wao! よりかわいくなったじゃないか、COCO〜!! よりかっこよくなったじゃないか、NANA〜!!」 「beautiful!! 二匹共凄く美しくなったね〜!!」 思わず二人は自分達のポケモンが優美になったのを見て、感嘆の声を漏らした。 「ええと、名前…」 先程ダイゴは名乗ったはずだが、そんな事は進化の瞬間、そして撮影にうずうずしていたので右から左に聞き流していた。 それを十分理解しているので、ダイゴは呆れ返りながら「ダイゴだ」と二度目の自己紹介をする。 今度こそルビーとユキは頭にダイゴの名を頭に入れた。 「ダイゴさん、さっき『石』って言ってましたよね? NANAとリージュはともかく、COCOとフラッフィはあなたの腰に下げた『石』のひとつに触れたことで進化を開始したと」 「ああ。ポケモンの中には特定の『石』のエネルギーを受け、その姿を変化させるものがいる。 キミたちの手持ちの2匹もそうだったわけだ」 よく見れば、ダイゴの腰には手錠のような輪っかがぶら下がっていて、さらにそこに石が嵌(ハ)められていた。 どうでも良いが、重くは無いのだろうか。 「そして僕の職業はそんな珍しい『石』を探し集めること! 石の収集人(ストーン・ゲッター)!!」 「石の収集人(ストーン・ゲッター)! そうかあ! じゃあ、あなたのおかげでCOCOはこんなにかわいくなったんですね!!」 走りながら、エネコロロになったCOCOに目を向ける。 御澄ましポケモンとなった事により、より可愛く、そして上品になった。 ユキもまた、ブースターとなったフラッフィに目を向けた。 元々通常のイーブイよりふわふわだった毛並みは、進化した事により際立った物となった。 「あなたはいい人だ! なんでも言ってください、協力します!」 途端にキリッとして言うものだから、ダイゴはぽかんとしている。 すいません、こういう奴なんです、と言えばダイゴは「あ、ああ」という言葉と共に軽い同情的な目を向けられる。 ……だからルビーの妹は嫌なんだ! と、別に止めれる物でも無いだろうに、心の中で叫んだ。 「ならば、ともかく僕の走る方向へ!! あのクチート群を誘導してくれ!! そうすれば!!」 その後の言葉はダイゴの口から紡がれる事は無かった。 そのままダイゴの後を追って走っていると、やがて道は無くなった。 「あ、あの…、行き止まっちゃいましたけど…!?」 訳が分からなくて、ルビーとユキは周囲を見渡す。 ユキなんかは、上を見た時にぽっかり開いた穴から見える無数の星達を見て、思わずうっとりしてしまった。 ……案外ルビーよりマイペースかも知れない。 「いいんだ! ここに来れば、僕のポケモンたちがいる!!」 「え? ダイゴさんのポケモンが? こんな所に?」 「ああ! 珍しい『石』の反応を感じとったらすぐ知らせてくれるよう待機している。 僕のポケモンたちが!!」 ダイゴが腕をあげ、天に突き出すような形で、指を鳴らす。 すると、その瞬間にルビーとユキが立っていた場所の岩陰から、ぴょこんとポケモンが姿を現した。 どうやらこのポケモン達が、ダイゴのポケモンのようだ。 「いけ、ダンバル!!」 ダイゴの声を聞き入れ、ダンバルと呼ばれたポケモン達は、クチートに向かって突撃していく。 それを見たクチート達が、すぐさま頭に付いたアゴを固くした。 真っ直ぐ突進≠オていったダンバルが、そのアゴに勢い良くぶつかった。 『てっぺき!!』 ルビーが図鑑を見ながら言い、ユキは目でミ≠ネがら言う。 そしてそのまま、ダンバルにアゴを使って噛み付いた。 「かみつかれた!! あの鋼のアゴに!!」 「大丈夫! 相手が鋼というのなら、僕もまた…」 噛みきろうとした瞬間に、噛みきれずに、むしろ頭のアゴ部分が折れてしまった。 「鋼だ!!」 ダンバルは鈍く光っているとは思ったが、鋼タイプだったらしい。 しかも強度としてはクチートのアゴより上、という事になる。 「さあ、ここからがキミたちの協力が必要なところ!! この場からクチート群を動かさないよう、足の速いキミの4匹で封じ込めるんだ」 『わかりました!』 「COCO!! NANA!!」 「フラッフィ!! リージュ!!」 エネコロロ、グラエナ、ブースター、アゲハントがクチートの周りをグルグルと回り、その場から動かせないようにした。 クチートの反応が一匹一匹違う物で、なんだか癒された。 呑気≠ネのか、ぽけーっとしているクチートや、わんぱく≠ネのか怒ったように地団駄を踏んでいるクチート、冷静≠ネのか諦めたように身動き一つしないクチート。 十人十色、もとい、十匹十色な反応に、こっそりクスクスと笑った。 そんな事をしていると、またダイゴが右手を上に挙げ、天に突き出すような形でパチンと指を鳴らした。 と。クチートの群れの下と、ダイゴのいる場所とが、綺麗に別れて宙へと浮いていく。 突然の事で、思わずよろけてしまうと、ダイゴが支えてくれた。 「あ、有り難う御座います……」 「いや」 気にするな、というように大人の笑みを浮かべてみせる。 大人だなぁ。と関心していると、ふと、下を向く。 すると、ダンバルに似た色をしたポケモンが自分達の下と、クチートの下に二匹いた。 クチートの方は、そのポケモンによって撥(ハ)ね飛ばされてしまったが、ダイゴ達の乗っている方は、飛ばされずに安定していた。 そこに、ルビーのポケモンとユキのポケモンが乗ってくる。 二人は4匹がなんとかここまで来れた事に安堵した。 ←|→ [ back ] ×
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