「…石の洞窟、なんでボクがここへ来たのか知りたがってたな」
「まァ、ルビーがこんな洞窟に来るなんて、凄く珍しい事だからね」
「そうだね、いつもなら、ね。今は……フフフ、これがある!」
(気味が悪いなァ)

笑いを隠しきれない、というようにルビーがにやけると、ユキが心中で毒づく。

そんな事は気付かずにルビーは一冊の冊子を取り出し、ぱらぱらと捲り、眺めた。

それは、船内でハギ老人に見せてもらった物だった。

自分の手持ちを美しくない、と言っていたからだ。

ハギ老人は、何ページか捲ると、あるポケモンの写真を二人に見せた。

その写真は、ルビーは勿論、ユキにまで衝撃を与えた。

「生息地不明、進化の有無不明。
 超貴重な一種、ミロカロス!」

そう、それこそがそのポケモンの名だった。

残念ながら、写真云々を見ても、ユキはポケモンの生態をミ≠骼魔ヘ出来ないのだ。

「こんな美しいポケモンがいたなんて!
 絶対にほしい!!」
「うんうん!!」
「ミロカロスがいればコンテストのうつくしさ部門は完璧じゃないか。
 だから決めたんだ!! これからの旅の当座の目標! それはズバリ、このポケモンを手にいれること!!」
「おお!!」

ユキも、ミロカロスには一目惚れしてしまったからか、いつもはルビーの言葉をはいはいと右から左に流すのだが、よく聞き入っていた。

ルビーが手にいれられれば、自分も間近で見る事が出来る。

自分はコンテストに出る訳では無いから、別に捕獲しなくたって良い。側で見られれば良いのだ。

「ユキの目標もそれにしたら?」
「……あわよくば自分に、って思ってるんだろう?
 私も探しては見るけど、目標にはちょっと違う気がする」
「そうかい?」

ゆっくり探そうとか言った割に、随分急かすような事を言うな、と苦笑する。

あの時の感動を返せ。

「ということで〜〜」

コロリと表情を変えると、二つのボールから残りのポケモンを外へ出した。

「さっそく今日から行く場所ごとに捜索開始だ!!
 たのむよ! ZUZU! NANA! COCO!」
「フラッフィ! リージュ! キミたちもたのむ!」

ポケモン達が匂いを嗅いだり、周囲を見渡したりと捜索してくれる。

「ボクのカンだけど…、このポケモンは水タイプといいつつ海のような塩辛い水じゃなく、すんだ泉のような場所にいるんじゃないか?
 …そう…」

ルビーは洞窟内の泉の前に駆けていく。

その泉は、島の洞窟の中というだけあり、凄く透き通っていて、美しかった。

「たとえばこんな…」

ユキとポケモン達も後から近付き、泉を感動した面持ちで眺めていた。

水本来の良い香りが鼻をくすぐり、安らぎを与えてくれる。

今まで外になんて出ていなくて、先程の舟の時点で、旅を後悔していたが今は外に出るのも悪く無いと思った。

「ここを見てるとこの洞窟全体もホラ、いかにもかわいく美しいポケモンたちが出てきそうな場所に思えてくるじゃないか」
「そうだ  ね!?」

そうだね、と相槌を打とうとした瞬間に、ズバットゴルバット達が目の前をバサバサと通り過ぎていく。

いきなりの事に心臓が口から出てくるかと思った。

「あれ? おかしいな、えっと…」

つい先刻言った事と違っていて、焦ったように視線をさ迷わせる。

すると今度は、イシツブテとゴローンがゾロゾロと通過していく。

「お、おおおオイ!!」
「どこが可愛く美しいポケモン達だよ……」
「……」

うんざりとしたように溢したユキの言葉に、ルビーが何も言えなくなった。

それからルビー達に近寄ってくる団体。

今度はなんだと顔をひきつらせて後ろを向く。

『!!』

だが、今度こそは可愛らしいポケモン達の団体で、ルビーはほっとする。

「ホッ…よかったァ。やっぱりかわいいのもいたァ」
「うん、本当安心したよ」

腰をかがませ、可愛らしい黒と黄色のポケモン  クチートを見つめる。

見つめていると、クチートは綺麗な身のこなしで背中を向ける。

二人がクエスチョンマークを浮かべていると、クチートの頭の部分が開き、口となって襲い掛かってくる。

ルビーの前にいたポチエナはクチートの頭の部分に挟まれ、ユキに抱かれていたカラサリスは、ユキを守るようにクチートに飛び込み、挟まれてしまった。

「NANA!!」
「リージュ!!」

しかも、ゾロゾロといるので、挟んだまま遠くへ行かれてしまい、手が届かない。

しかし手を伸ばしていると、突然大勢のクチートがルビー達を噛もうとする。

なんとか後退して避けるが、数が圧倒的に多い。

クチートはこちらに牙を見せてきた。

ルビーが咄嗟にユキを守ろうと抱き締めた。

だが、それがユキに過去を思い出させる。

あの時のように、ルビーが怪我をするなんて、そんなの、そんなの  




「あぶない!!」




寸での所で、二人を誰かが抱えて安全な所へ連れ出してくれた。

「大丈夫か?」

その人は、水色の髪で、瞳を金色に輝かせた青年だった。

右手に指輪を二つも付けていて、なんだか御曹司という風格までする。

「ハァ、ハァ…ありがとうございます」
「…これは…あざむきポケモンクチートの群れだ」
「鋼のツノが変形した大きなアゴで突然振り向き、かみつく…! 本当だ!!」
「特性は怪力バサミ=c…!」

ユキがクチートをよくミ≠トいると、クチートに挟まれた二匹に変化が見られた。

「NANA!!」
「リージュ!!」
『これは…!!』

確かあの光は、ケムッソがカラサリスになった時に見た光と同じだった。

そんな事を考え込んでいると、エネコとイーブイの尾が青年の腰に付いている物に触れた。

「ム…! 腰の石に…!?」

その瞬間に、エネコとイーブイまでポチエナとカラサリスと同じ光に包まれた。

「COCOまで!!」
「フラッフィ!!」
「今、キミたちの手持ち4匹が成長し、その姿を変える瞬間を迎えようとしている!
 予定外のことかもしれないが、今はこの狂暴なクチートの群れを退けることを考えなければならない」

それもそうだ、と思い相槌として軽く頷く。

ただ、この青年の雰囲気が、物凄くただ者じゃないように感じて、良い感じはしなかった。

「僕の名はダイゴ。
 協力してくれるね?」
『ハ、ハイ!!』

紅眼兄弟は、少し動揺しながらも、ダイゴの言葉に返答する。

「COCO!!」
「フラッフィ!!」

未だに光を放ち、新たな姿になった二人のポケモンが、クチートの群れに飛び込んでいく。



(私も、キミも)


20140206



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