「キミは!!」
「あんたは!!」

紅い瞳の兄と、藍い瞳の少女は御互いに指を差し、驚いていた。

見知らぬ少女に、ユキは首を傾げた。

いつの間にこんな可愛い少女に会っていたんだ、と。

「オ、オイ。坊主、知り合いなのか?」

大声に驚いてか、ハギ老人が少し戸惑ったように問うた。

すると、ルビーはこちらに困ったような顔を見せるだけで、答えなかった。

代わりに元気な蒼色の少女がボールからアチャモを出し、八重歯を見せた。

「ああ、そうったい!! 知り合いも知り合い!!
 あたしはこん人の競争相手やけんね!!」
『競争…相手?』

ハギ老人とユキの言葉が重なる。

因みに、ハギ老人は視線を合わせるように少しかがみ、ユキはその後ろからひょこっと顔を出している。

「あたしの名前はサファイア!
 ホウエン地方全ジム制覇の旅ばしとっとう!!」

  サファイア。

どこかで聞いた事がある。どこでだろう。

サファイア……訛り全開……。

確かあれは、家を出て間もない事だ。

(……ああ、『どげんこつか言うてみいよ』の人か……)

受話器から聞こえてくる位の大声を出した少女。

だが、声は酷く可愛いから、可愛い少女だとは思っていたが、こんなに八重歯が似合う可愛らしい少女だとは。

「で、こん人ルビーは同じくホウエンの、ぷぷっ、全コンテスト制覇の旅ばしとっとよ」
「なにがおかしいんだ!!」

サファイアが手を口で覆い、可笑しくて堪らないというように、肩を震わせた。

どうやらルビーと正反対に、コンテストは嫌いなようだ。

「目標はちがえど、それば成し遂げたい気持ちは同じったい!!
 だから決めたと! 期限は80日!!

どうして80日なのだろう、という疑問が付いて回ったが、まぁ関係無いので気にはしない。

「その間にそれぞれの目標ば達成すると!
 そして80日後! 旅立ちの場所に戻って成長した姿ば相手に見せる…と!!」
「ううむ、そうだったのか!」

ハギ老人はこう言った熱い競争が好きだからか、関心するように頷いた。

しかし、ルビーはハギ老人の頷きなんて目も呉れず、サファイアの着ている服に目が行った。

「お〜〜、そういえば服、着たんだね! なかなか似合うじゃないか! これで文明人の仲間入りだ」
「ちょっと気安くさわらんで!!」

サファイアはルビーの手を触るまいと腕を大袈裟に引いた。

兄の言葉を聞いた妹は、それじゃあまるで彼女が服を着ずに今まで原始人のように過ごしていたみたいじゃないか、なんて思ったが……その通りだった。

「それより、調子はどげんね?
 出発してから一週間以上たったけ、コンテスト、ちょっとは勝ちよったと?」
「…う、まだ…だ」
「えへへ! あたしはすでにひとつのジムで勝利したとよ!」
「あ!!」

得意気に振り返って、腰のポーチに付いているバッジを見せた。

「フ、フン! ボクだってコンテストが開催されている町に着きさえすれば…」
「そうったいね〜。
 でもあんたみたいな弱腰で、このホウエンの旅、のりきれるとはや〜っぱりあたしには思えんと」

いつのまにか、ハギ老人とユキを放ったらかしにして言い合いを始めてしまった。

確かに、正反対な目標を持っていて、競争相手ともなれば、言い合いにもだろう。

だからといって放って置くのはどうかとも思うが。

「『ポケモンはかわいく美しく』『戦わせるなんてイヤだ!』
 あいかわらずそげんこつ言うとっとやろ?」
「だからどうだっていうんだ? ボクにはボクのポリシーがある!!
 美しさの追求! コンテストはすばらしいよ!! 山奥で裸同然に暮らしていたキミに言っても、わからないだろうけどね!!」
「なんね!!」
「なんだよ!!」

御互いに「う〜〜〜〜〜!!」「ぬ〜〜〜〜〜!!」と言って睨み合う二人。

すっかりハギ老人は困ってしまっていた。

やれやれ仕方無い、とユキがハギ老人の背から二人の元へ歩み寄った。

「まぁまぁ、そこら辺で……」
「!! な、なななななな」
「え?」
「なんねこの可愛か子は!! 小さか〜!!」

いきなりサファイアがユキに抱き付いた。

撫でながら然り気無く気にしている事を言われてしまった。

しかし身長ならまだ……まぁ、良い。身体的特徴(はっきり言えば胸部)を言われるよりは。

「ちょっと! ユキにべたべたしないでくれるかい!? ユキにキミの野蛮さが移るじゃないか!!」
「野蛮とはなんね!! あんたこそその手を離すったい!! この子が可哀想やろ!?」
「私を挟んで喧嘩しないでくれよ……」

止めるつもりが、二人に腕を掴まれ、また喧嘩を始めてしまった。

二人の大声が両の耳にガンガン響く。

「まあいいったい! こんなところでゆっくりしてるヒマはなか!」
「ボクだってないさ!」

やっと離してくれたと思えば、二人は互いにそっぽを向いてしまった。

「ハギ老人、本当にありがとうございました」
「お、おう」
「ユキ、行くよ」
「う、うん」

すぐにハギ老人にペコリと御辞儀をして、ユキの手を引くルビーに、唖然とさせられてしまう。

早足で歩くルビーの横を、サファイアが同じく早足で歩く。

同じ速度で隣り合い、互いに睨み合う。

「む!」
「ムッ!」
「なんでついてくるったい!?」
「ボクが行く方向にキミが歩いているんじゃないか!!」

この二人は、どうやったって喧嘩を始めるようだ。

思わず溜め息を吐いてしまう。


† † †



ムロ島にある洞窟の前で、まだ二人は意地を張り合い、早足を続けていた。

後に続くアチャモとミズゴロウが着いていくのに必至なようだった。

また、ユキも二人の後ろでやれやれと着いていっていた。

「ちょっと! まだついてくると!?」
「ボクはこの洞窟に用があるんだ!!」
「あんたがこんな洞窟になんの用ったい!」
「キミに言う必要ないさ」

まさか、行き先が同じだとは思わなかった。

似てる似てるとは思っていたが、この二人は本当に似た者同士だ。

「だったらちょうどよかね! ここで洞窟はふたてに分かれとう!
 あたしは右に行くったい!」
「だったらボクはこっちだ!」
ふん!!

ずかずかと怒り任せに歩きながら、二人が二手に別れる。

ユキは慌てて兄の進んだ方に歩を進めた。

……少し、サファイアの方も気になったが。



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