分かってるよ。

キミがバトルを人前でしたくない事は。

だけど、キミが人前を避けてバトルをする度に、そんな事になったのは自分のせいだ、といつも思ってしまうんだ。

そんな事言っても、きっとキミは少し困った顔をして、「そんな訳無いじゃないか」って優しい言葉を投げ掛けてくるのだと思う。



ごめんなさい、

その優しい言葉に、甘えて  






「ん……」

今度の起きて早々見た物は、心配そうな顔を見せるイーブイとカラサリスだった。

「フラッフィ、リージュ……。
 心配かけたね……」

きっと心配させてしまったのは、単に目を覚まさなかった事では無くて、軽く魘(ウナ)されていたからだという事は見ていればなんとなく分かった。

二匹の頭を撫でれば、少し安心したような顔をして手に擦りよった。

そんな二匹の可愛さに心が安らぎながら、微笑んだ。

「あ、起きたかい?」

顔を青くしながら、ルビーが甲板から姿を現した。



そう  何事も無かったかのように。



今回のようになった時には、いつも御互いに何事も無かったかのように、何も言わないのだ。

ユキにとってはもはや、普通の事だった。

だが、今一瞬だけ、その何事も無かったかのような態度が、凄く気に入らなかった。

「ルビー……」
「ん? なんだい、キミらしくないなぁ」

ふー、と息を吐きながら、隣に腰を下ろしてきた。

「……私に出来る事って、なんだろう」
「ユキに出来る事?」
「ルビーはコンテストだろう?
 でも、私には、何も無い」

確かに、こんなにうじうじしているのは、自分らしくは無かった。

でも、ずっと考えていた。

家を出た物の、自分はなんの為に旅を続けていくのか。

バトルも嫌。コンテストも嫌。

ポケモンを愛でる事は家にいたって出来る事だ。

自分は……このまま旅を続けていて良いのか。

「それを探しにいけば良いんじゃないかな」
「……え?」
「つまりは旅をする意味が欲しいんだろう? なら、それを探す為に旅をすれば良いよ。
 ……結果として、ボクがキミを巻き込んだみたいな物だからさ、ボクも手伝うし」

「ね?」と言って、自分と同じ紅い瞳を細め、柔らかく微笑まれる。

いつから自分の兄は、こんなにも優しくなったのだろうか。

「……うん」

少しだけだけれど、『本当の自分』に戻れたような気がした。


† † †



ようやく降りる事が出来そうな陸地が迫ってきた。

この酷い船酔いから解放されるのか、と思うと凄く肩の荷が降りた。

ルビーも同じなようで、早く陸に降りたがった。

「ピーコちゃん、元気で」
「悪いな。ピーコちゃんの手当てしてくれて」
「いえ。ピーコちゃん、とてもprettyでした」
「そうだろうそうだろう!」

キャモメの事になると、本当に目付きが変わるなぁ、と唖然としてしまう。

「あ、あれですか!?」
「ああ。ムロ島だ。ここで降りるといい」

なんだか長かった気がする。眠っていた時間もあるからだろうか。

とにもかくにも、早く舟から降りたかった。




「さあ、降りな」
『ハーイ。…オエ』

返事のタイミングから、吐きそうになるタイミングまで、生き写しのようで、最後の最後まで驚かされる。

「ふう〜〜、酔ったぁ〜。
 …ん?」
「ぶッ!! ちょっとルビー、いきなり止まらないでくれよ! ……ルビー?」

ルビーが降りる直前に、いきなり一点を見つめたまま止まってしまい、ルビーの背中に鼻をぶつけてしまう。

文句を言うが、目の前の少女しか眼中に見えていないようだ。

紅い瞳の兄と、蒼い瞳の少女は、互いに顔を指差して大声を出した。

  !!


暗黙の了解
(分かってる、)
(分かってるさ)


『約束の日まであと70日!』


20140206



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