「いかん!! よけろォォ!!」

そのハギ老人の言葉で、ハッとする。

あの星から発せられる光は、強力な技の前触れである、と。

一段と光り、その光が光線となってこちらへ向く。

とっさに二人はハギ老人の手を離さずに、身を前に寄せて避ける。

二人は無傷だが、舟は負傷してしまった。

「ゴホッ! 野郎、よくもオレの大漁丸を…」

長い間使って来たであろう船を大破されれば、それは怒るだろう。

納得していると、ルビーは片手で図鑑を起動させる。

「今のははかいこうせん!!」
「ということは、しばらくは動けない!」

そのユキの考えを、ハギ老人も分かってか、空を仰いだ。

なぜなら、そこには愛しのポケモンである、キャモメがいるのだから  

「行け! ピーコちゃんッ!」

キャモメは、その声にいち早く反応し、シザリガーに向かって下降してくる。

そしてその勢いそのままに、シザリガーに嘴(クチバシ)を突き立てた。

「どうだ!!でんこうせっか!!
 おとなしくくたばりやが…」
「いえ……良くミ≠ト下さい!」

ユキの言葉に、ハギ老人はよくシザリガーとキャモメを見た。

すると、ヒビが入ったのはシザリガーでは無く、キャモメの方であった。

傷付いたキャモメは地へと落ちた。

それを狡猾とした表情で笑みを浮かべたシザリガー。

そんなシザリガーは、次の瞬間にキャモメを右のハサミで挟んだ。

そしてそれを上に振りかぶり  





  地に叩きつけた。





「ピーコちゃああん!!」

大好きなキャモメが容赦無く攻撃されるのを目にして、ハギ老人は叫んだ。

ユキも、目を覆いたくなる光景だった。

これだから、バトルは、野蛮で嫌なんだ……誰かが傷付かなければ終わらない。

……目を逸らして、逃げ出している自分がいた。

「な、なぜ!
 ピーコちゃんのでんこうせっか≠ェまったく効かない!!」
「ユキ、何かミ≠ヲない? ……ユキ?」
「……ッあ、ちょ、ちょっと待って」

明らかに上擦った声になってしまい、ルビーに怪訝な表情で柳眉(リュウビ)を寄せられてしまった。

そんな様子は見えないようにし、ユキはシザリガーをミ≠ス。

ポケモンの数値等をミ≠驍ノは、よく見なければ駄目なのだ。

すぐ近くで見るのが一番良い方法なのだが、生憎近付いてしまえば自分の首を渡す事になってしまう。

「I see(分かった)!!
 このシザリガーは性格は図太≠ュて、特性はシェルアーマー!! レベルは36!!」
「『シェルアーマー』?」
「相手の攻撃から自分の急所を守る屈強なヨロイだ!!」

ルビーの疑問に、ユキでは無く、ハギ老人が答える。

「…ってことは!?」
「そうだ! こいつは言うなれば急所のないポケモン!!」

その時、大漁丸が大きな波に襲われた。

船が揺れたたけでは無く、海に投げ出されていたハギ老人を襲い、舟に頭を打ち付けた。

「ハギ老人! ハギ老人!!」
「……駄目だ。頭を打って気を失ってる」

そんな時、ルビーがハギ老人に意識が向いている事を良い事に、後ろにはシザリガーが迫っていた。

そして、ハサミが振られる  という時に、ルビーが後ろを振り返った。

「…キミ、
 急所がないんだって?」

いきなりの事に、ハサミの動きを止めてしまうシザリガー。

なんていうか……兄は本当に大物だと思った。

「イヤ、本当は急所はあるんだよね?
 でも、全身、甲羅でおおってるから『攻撃が急所に当たらない』それだけのことだよね?」

顎辺りの模様をツンツンとつつきながら、マイペースに、そして至って冷静に言う。

「さて…と、ユキ。ちょっと手を離して」
「え? あ、ああ、うん」

ハギ老人の手を掴んでいた手を離し、ルビーから少し離れる。

「せえのっ!!」

ルビーは片手だけで、長身で屈強なハギ老人を引き上げて見せた。

……シザリガーと同等に並ぶ位の力だった。

その手を取り、ルビーはハギ老人を船内に続く階段近くに寄せた。

それに合わせてシザリガーがそちらを向く。

「COCO」

側にいたエネコが、ユキの体をよじ登り、肩まで上がった。

  !」

耳を塞ごうと瞬間に、エネコの歌う≠ェ耳に直接響いてくる。

それにより、通常でさえ眠気が早く来るのに、一瞬で微睡(マドロ)みの中に入っていってしまう。





  ごめんね。





その言葉を最後に耳にして、ユキは完全に意識を手離してしまった  



[ back ]
×