ごそごそと二人一緒に船内に入る。……一人ずつ行けば良いものを。

船内の小部屋に入ると、二人と一匹はぐったりとした。

「しかし、休むっていってもこのゆれじゃあな〜。舟乗りってすごいや」
「ホントだよ……舟乗りにだけはなりたくないや」
「COCO、キミもか」
「やっぱりこの揺れだと酔うよね……」

依然として真っ青な顔で話す兄弟の横で、エネコが気持ちが悪そうな顔をして真っ青になっていた。

その頭を優しく撫でてあげると、エネコは少し落ち着くのか擦り寄ってきた。

相変わらずプリティでキュアキュアな仔猫さんだ。

「そして…」

ちらりと、小部屋の中にある大きな水槽に目をやる。

「なんかやっぱりあの人とは趣味が合わなさそうだ」

水槽の中には、強面のハンテール、THE跳ねる魚コイキング、ヌルヌルに定評のあるドジョッチ、あら不思議ドジョウからナマズへ、なナマズン。

美しいとは御世辞にも言えなかった。

そのルビーの声が聞こえてしまったのか、ハギ老人がこちらへ怒鳴ってきた。

「なんか言ったか!?」

慌ててルビーが奥へ引っ込んだ。

「あ、そうだ!!」
「なんだい、いきなり大声なんて出して」
「リュックのタマゴだよ!!」
「! 大丈夫なのかい?」

だから見るんじゃないか、と思いながらすぐにリュックからタマゴを出して様子を見る。

すると、タマゴにはヒビ一つ入っていなくて、思わず息を吐いた。

「うーん、でも生まれるまでまだ少しかかるみたいだ」

それでも家から出る際の状態よりは、ずっと生まれてきそうだった。

「ずっと思ってたんだけど、それってなんのタマゴなんだい?」
「え? あー、引っ越しする前日にコガネシティ郊外の育て屋夫婦に貰ったんだけど、聞いてなかったな〜」

聞いておけば良かった、と心から残念に思いながら眉を下げて言う。

これでコイキングとかだったらふざけんな、という感じだが。

否、流石にタマゴから生まれたのなら愛でに愛でまくるが。

  と、突然ビビビビビという音が鳴り響く。

その発音源は水槽のポケモンであるナマズンだった。

ルビーとユキはそれを伝えに、甲板へ顔を出した。

「ハギ老人、何かビビビビ言ってるのがいますけどォっ!!」

ハギ老人が釣り針が複数付いた縄を海の中に落としている最中、こちらに顔だけが向く。

「おお、またマーコちゃんのヒゲに反応が来たか!!」
(マ、マーコちゃん……?)
「オレのナマズン、マーコちゃんって名前だが、ヒゲで地殻の動きを探る力があってな」

先程から、ピーコちゃんだとかマーコちゃんだとか、この人はポケモンのニックネームが凄い。

その内オスギちゃんとかパーコちゃんとか出てくるんでは無かろうか。

「それによって地震が予知できる。漁に出る前なんかに教えてもらうのよ。
 最近多くてな…地震」
『!!』

ハギ老人の最後の一言に、二人の目は見開かれた。

『もしかしたら地震かもしれない! 最近多いんだ!』

カクレオンを捕まえて、地が揺れる音がした時にミツルが言っていた言葉を思い返す。

二人の目は細められ、先程まで真っ青だった顔が、すっと元通りになる。

「ハギ老人、どうして聞かないのですか?
 なぜボク達が海に投げ出されていたのか…」
「海の男はよけいなせんさくはしねえのよ! 言いたかったら言えばいい! 言いたくなけりゃ、だまってりゃいいさ」

随分と海の男というのはワイルドなんだな、とある種の憧れを感じた。

「地震が多いとおっしゃいましたよね? ボク達も突然の地震にあったんです」
「友人とポケモンを捕獲しに言った際に、その地震のせいで大地が裂けてそのまま海に……」
「そりゃあ、どこでの話だ?」
「トウカの郊外だから……」
「105番水道をのぞむあたりです」

兄弟が変わる変わるそう言うと、ハギ老人は小さな地図を取り出し、鉛筆でバツを書いた。

「震源はやっぱり、
 キナギ・ルネ方面か…」

ハギ老人が呟いた瞬間に、先程垂らした縄が強い力で引かれる。

「ぬううう、来たあ!!」

その縄を勢い良く引っ張ると、球体のポケモン  ホエルコが三匹釣れる。

ハギ老人は腕の血管を浮き立たせながら、バケツに入ったボールに手を伸ばす。

「ネットボール!!」

ネットボールをすぐに連れたホエルコに投げると、ボム、という音が三回した。

縄を引くと、ルビーとユキの目の前にボールが三つ落ちてくる。

「ねらいの得物じゃねえが、上物のホエルコだ」
「す、すごいや……」
「地震にかぎらず、大自然の動きを知っとく事に越したことはねえ。おめえらに言っとく事があるとしたらそんぐらいだぜ」

そう言って、また縄を海に落とした。

「たとえばオレが今、わずかな時間で釣り場を見つけられたのは、あれを目指して移動してたからよ」

ハギ老人の指差した方向には、ピーコちゃんと同じ種類であるキャモメがわんさかいた。

ピーピーという声が無数にも連なり、五月蝿いくらいだった。

「ありゃあ『とりやま』といってな、あの下に得物がいることが多い。漁師は漁をする場所の目安にする。
 自然もポケモンも、人間(オレたち)にいろんなことを教えてくれる。
 おっと…またアタリだ!」

掴んでいた縄に、先程より一段と力強く引かれた。

「今度は動きがちがうぞ!」

ホエルコの時は引っ張られただけの縄が、今度は暴れるように左右へ引っ張られる。

ルビーとユキも興味深そうに身を乗り出した。

先程のホエルコを捕獲した腕を見れば、当然だろう。

その時見えた陰影は、巨大で、ゴツゴツとしていてどこかで見た事がある気がした。

「さっき話してた深海ポケモンじゃないですか!?」
「…似てるな!」

確かに、縄にかかる重量は相当な物で、ホエルコの時より腕の力を込めた。

「漁は得物との根くらべ。
 引き合いが数日間に及ぶことも珍しくねえからな、本番はこれからだ!」

だが、いきなり最初からクライマックスかのように、船を揺らされたかと思えば、舟に赤い何かが姿を現した。

「あ、上がってきただと!?」

驚いている三人の目の前に現れたのは、あの深海ポケモンでは無く、赤いザリガニだった。

頭に星が付いていて、凶悪な顔をしていた。

「こいつは、
 ならずものポケモン、シザリガー!!」

刹那、シザリガーが右のハサミに巻き付いた縄を後ろに振り、それを持っていたハギ老人が海へ飛ばされる。

「ハギ老人!」すぐさまルビーとユキは手を伸ばし、ハギ老人の手を掴んだ。

「川や池にすむシザリガー(こいつ)がなぜ…がはっ」

ハギ老人は、ルビーとユキの手を離さないようにしながら、海水を飲んでしまう。

海の男だからきっと多少は海水を飲む事事態は慣れているだろうが、早く引き上げなければ危なさそうだった。

脇にいるシザリガーを見れば、右のハサミに巻き付いていた縄を左のハサミで切り落としていた。

(この長身で屈強なハギ老人に引き勝つほどのポケモン!!)

紅眼兄弟の額からは、船酔いでは無い汗が滲んだ。

息を飲んだ時、シザリガーの頭の星が光を発して紅眼兄弟を照らした。

これは  

!!!


メランコリー
(なんなんだ)
(この船は、)


20140205



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