三人は昼間と同じ場所、トウカシティ郊外の草むらの中に入っていた。

見えない所に看板があり、そこにはキケンというデカデカとした文字で書いてあり、『頻発する地震の為、崖崩れや津波に巻き込まれる危険があります。ここに入る事を禁じます』とあるが、三人は知らない  

「よし! 昼間の場所に着いたぞ、ミツルくん!
 さっそくキミのはじめての手持ちになる一匹(ポケモン)を捕獲しようじゃないか!」
「ハァ、ハァ…うん! …でも大丈夫かな、こんな夜中に出てきて…」
「今さら、何言ってんだよ」
「そうだよ。私達がいるんだから、大船に乗ったつもりでいていいんだ!」

流石兄弟。本当にそっくりだ。

この、ちょっと自信満々な所とか、特に。

表情はまるで瓜二つの双子のようだった。

「夜には夜の美しさがあるじゃないか。
 ほら」

ルビーが指差す方向を見てみると、蛍火がポツポツと見えてくる。

それは、まるで雪のようで、ミツルは目を奪われた。

よく見てみると、それはホウエン地方に生息するポケモン、バルビートとイルミーゼだった。

「わあ!!」

無意識に感嘆の声が漏れていた。

「美しいなあ」

ルビーがバルビートとイルミーゼが寄り添うのを見て、溢す。

「ほかにもほら! こっちにはかわいいのが」

今度は水の上を滑るように移動するアメタマに。

「こっちはかしこそうだ!」

キリリとした透明な蒼の瞳のマッスグマに。

ごちゃごちゃ横で言うルビーに、ユキは溜め息が漏れた。

完全にルビーの好みだ。捕まえるのはミツルだというのに。

「う〜ん、迷うなあ…」
「ルビーが迷ってどうするんだよ……」
「普通は迷うだろう?
 どれを狙うんだい、ミツルくん。そうだ。空のボールは持ってきたよね」

だが、そのルビーの言葉をミツルは聞かずに、がさがさと動く草むらを見つめていた。

……なんというか、この二人は気が合わないというか、正反対というか。

「ねえ!! ちょっと見て! ルビーくん、ユキちゃん!!!」

病弱なミツルにしては大声に、ルビーとユキはそちらを見る。

「な、なにこれ? へんなギザギザが宙に浮いて移動してる!!」

その言葉通り、ギザギザは草むらの中をふよふよと漂わせていた。

ポルターガイスト?

と思いもしたが、ユキはそういう物を一切信じていなかった。

幽霊ね、霊体が服着る訳無いでしょ、といった感じでちょっとひねくれた信じなさだ。

「き、気持ちが悪いな。ポケモンなのか?」
「それ以外何があるんだよ」
「ポルターガイスト?」
「(やっぱり同じ思考なんだな……)へぇ、ルビーはお化けなんて信じてるんだ?」
「そういえばキミはそういう云々信じて無かったね……」
「………あ! ルビーの後ろに女の人が!」
「や、止めてくれよ!」
「二人共……」

ミツルが兄弟の掛け合いに、少し呆れた顔で見ていた。

そんな中、ミズゴロウとイーブイがその不思議なジグザグに近付いていた。

すると  ジグザグが、見えない何かでミズゴロウとイーブイを弾き飛ばした。

「見えない何かが攻撃してきたぞ!!
 ミツルくん、下がって!!」
「危ないからね!!」

言われた通りに、ミツルは下がり、ジグザグを食い入るように見詰めた。

「やめろ、ZUZU!! 深追いするな!!」

大人しい性格のイーブイは、ユキの元へ戻って来たが、ミズゴロウは好戦的なのか、ジグザグに積極的に向かって行った。

そして、ミズゴロウはジグザグに、地の泥を蹴ってかける。

  泥かけ≠セ。

その泥のお陰で、ジグザグの姿形がハッキリと見えるようになった。

『!!』

ジグザグの正体は、体の泥を払い、その舌を槍のように素早く突き出した。

「こいつは…!
 いろへんげポケモン、カクレオン!!」

カクレオンは舌をミズゴロウに巻き付けた。

「そうか! さっきの見えない攻撃はこの長いベロだったのか!!」
「リージュ、糸を吐く≠ナZUZUを助けるんだ!!」

そう言うと、カラサリスは糸を使って巻き付けられたベロを緩める。

すると、隙間が開いたのを利用し、ミズゴロウはベロを掴んで叩き付けた。

叩き付けられたカクレオンは、草むらに飛び込んで逃げてしまった。

「あ…、ま、待って!!」
「あ、ミツルくん!」
「追うのかい?」

走り出したミツルの後を追い、二人な走り出す。

「あわてなくてもいいよ! ほかにもいっぱいポケモンはいるんだから」
「うんうん、焦ったら捕まる物も捕まらないよ」
「ハァ、ハァ。ルビーくん。ユキちゃん。
 ぼく、あのポケモンがいい…と思って…」
「え?」

ルビーの表情が明らかにひきつる。

それはいつもの、美しく無い物を見るような、そんな口のひきつり方。

「正気か!? 正気なのか!? ミツルくん!!
 あれじゃあコンテストの美しさ部門でもかっこよさ部門でも勝てそうにないよ!!」
「そ、それはキミの好みだろ?」
「そうだよ、ルビーの好みを押し付けるのはどうかと思うよ。それに、ミツルくんはコンテストに出る為に捕まえる訳じゃないだろう……」
「じゃあ聞くけどさ! ユキはあのポケモンを欲しいと思うかい!?」
「そりゃあ、勿論……」

ピタリと止まる。足では無い。表情がだ。

「…………………………………………………………………欲しい、よ?
「凄い間があったんだけど!? しかも声ちっちゃ!」
「ミツルくんはどうしてあのポケモンが欲しいんだい?」
「おーい、話を逸らさないでくれよ……」

兄弟がそうな言い合いをしてるのを見て、あはは、とミツルは苦笑いする。

やはり兄弟だ。ユキもあのポケモンが微妙だと思うのだろう。

「おもしろいと思ったんだよ、姿の消せるポケモンだなんてさ」
「…まあ、キミがそう言うのなら止めないけど…」

そう言葉では言う物の、まだ理解に苦しむような顔をして駆けていた。

まぁ、他人と思想やらが少し食い違うと、人間というのはモヤモヤとする物だ。ルビーだけには留まらないだろう。

ユキだって、愛でる対象は何でもOKとは言ったが、あのヘンテコな未知の生物は少し抵抗があった。

慣れれば可愛がれるだろう、多分。……多分。

そんな事を考えながら真っ直ぐ走っていると、ルビーが短く「あ」と言葉を紡いだ。

はっとして顔をあげると、目の前には美しい景色が広がっていた。

木々から覗く海は、満月に照らされて、キラキラと光っていた。

まるで、海の水面に映る、もう一つの満月のようだった  

その美麗な景色に、三人の心は奪われていた。

「very beautiful!!」
「すごい眺めだなあ! トウカのこっち側は海だったんだ!!」
「うん…105番水道だよ。でも、たまに大きな津波が来たりして…みんなあまり来ない場所なんだ」
「そうなのかい? へえ、もったいないなァ、こんなにbeautifulなのに!」

ユキはずっとこの夜景に食い入って、目を輝かせていた。

「あ! いたぞ! さっきのカクレオンだ!!」

案外近くに、カクレオンはいた。

間抜けにも見えるし、ぽけーっとしているようにも見える無表情を浮かべていた。

「さあ、ミツルくん!
 貸してあげたRURUを出して!」
「ルビーのポケモンだけど、今は指示を聞いてくれるからね!」
「技を出しながら、少しずつ近付いて行くんだ!」
「うん!」

やはりポケモンの力を借りながら、自分で捕まえるのは初めての試みなのか、緊張したように冷や汗を流しながら、ゆっくり頷いた。

そんなミツルを支えるかのように、ルビーとユキがその貧弱な背中に手を添える。

「行け! RURU!!」

肩に力が入っているような様子でボールを思いきり投げると、賢そうなラルトスが出てくる。

そして、技の命令が無くとも、ラルトスは全てを任せて置けとばかりに技を出した。

「いいぞ、ミツルくん! それはRURUの得意技ねんりき≠セ!!」

ハァ、ハァ、と息を荒くしながら、ミツルが二匹の相貌(ソウボウ)を真剣な顔付きで見ていた。

「下がらないで! 技を出し続けて!!」
「捕獲は倒さないように、でも捕まえやすくする為に、地道に、ね!!」
「う、うん!」

二人の言葉を一音一音、なんとか噛み締めながら、頷く。

一音でも、聞き流してはいけない。これも、大切な  思い出!!

「よし、ミツルくん!! ボールを投げて!!」

目の前のカクレオンは、もう結構なダメージを負っているのか、ぴくぴくと震えていた。

「えい!!」

野球少年のような投げ方で放たれたボールは、病弱少年が投げているとは思えない位のスピードで飛んで行った。

だが、そのボールを長い舌で受け止められてしまう。

そして一度口の中に入れ、ぺっと吐き出した。

「う…」
「む、むかつく態度だな…。美しくないくせに」
「このカクレオン、生意気≠ネ性格だ……」

紅眼兄弟がこめかみを浮き出させ、ミツルがタラリと汗を垂らしながら唖然とした。

「ひるんじゃダメだ! もう一度!!」
「何度でも挑戦するんだ!!」
「うん!」



[ back ]
×