「何か妙だな…。さっきから別の気配を感じる」

マズイ、と兄弟は一緒に、というか同時に岩影に息を潜めた。

「ケッキング!!」

ボールからは休日のお父さんのように寝そべるポケモン、ケッキングが現れた。

そして、ボールに入っていたはずなのにも関わらず、なんの指示も受けずに草むらへウォッホンと声をあげた。

その声は文字となり、形となり、口から出ていった。

「隠れているヤツ、出てこい!
 ケッキングのいばる≠フ威力で『こんらん』し、その場でじっとしてはおれまい!」

確信したような声で言えば、草むらの風へ歩いていった。

「……」

だが、誰もいなかった  と思っているセンリの下にある岩影で、ルビーはユキの頭を押さえながら膝を抱えていた。

側には可愛らしいエネコ。

(気のせいか…)

何も無いと思い、センリはなんとか去ってくれた。

(助かった…)
(ルビ、いた、い)
(ああ、ゴメンゴメン)

無理矢理押さえていた頭を離し、立ち上がった。

「もういない?」
「いないよ。
 それにしても、COCOが『こんらん』におちいらない技しんぴのまもり≠使えてよかった。よいしょっと」
「そうだね……よ、いしょっと」

岩を登り、草むらの方に出る。

付いてしまった泥を払うと、一瞬、なにか忘れているような、という考えが過る。

「あ! そうだ、ミツルくんは?」
「ああ、そうだったね……と」

草むらから出ると、視界に入る緑と白のコントラスト。

『ミツルくん!!』

ミツルは、荒い息をしながら、地に倒れていた。


† † †



トウカシティの、ある大きな家に、ミツルの家はあった。

一回、救急車を呼ぶことも考えたのだが、救急車が来たせいで人だかりが出来てしまえば、この町にいるセンリに見つかってしまうのでやめた。

だから、ユキがミツルの家を捜索をし、ルビーが運んだのだ。

ミツルの家を探すのだけで、どっぷりと陽が沈んでしまった。

「どなたか存じ上げませんが…」
「ありがとうございました」

ミツルと同じ髪色を持っている両親が、深々と頭を下げた。

なんだか、余計なお世話だろうが、色々と苦労してそうな両親だ。

「ミツルは小さいころから体が弱くて…。
 もうこんな時間ですので、今晩は泊まっていってください」
「はあ…じゃ、お言葉に甘えて…」
「そうさせて頂きます……」

そりゃあ部屋に備え付けの輸血があったら、誰でも昔から体が弱いだなんてわかるわ、とか思いながら頭を下げる。

バタン、と扉が閉まる音がしてしばらくすると、ルビーが肩を落とした。

「ふ〜〜、早くこの町行き過ぎたいんだけどな〜〜」
「まァ、でも、ミツルくんも心配だし……しょうがないさ」

その時、ふー、ふー、と聞こえていた音が消えた。

「ユキちゃん、と、…ルビーくん、だったっけ。ゴメンね…」
「起きてたの!?」
「大丈夫かい、ミツルくん!?」

空気ボンベを取り、ミツルがこちらを向く。

それはいいが、なんだかルビーがついでという感じがするのだが、ルビーは気づいていない。

「うん、大丈夫……。
 きっとぼくの両親が、センリさんに頼んだんだな…。ぼくがポケモンを持たないようにしてくれって…。
 …このまま、ぼくは知らない町へ引っ越すんだ…。なんの思い出もないまま…」

ミツルは、顔にびっしょり汗をかきながら、手を戦慄(ワナナ)かせていた。

それを、二人は同じ紅の目で見詰めていた。

突然、ルビーはミツルに背を向けた。

「ミツルくん、ボクの目標はすべてのコンテスト優勝だと言ったよね」

コンテストの話なのに、どういう事をしようとしているか分かるのか、嫌な顔をしないユキ。

兄の後ろを、ただ着いていっていた。

「でも父さんは『そんなくだらないことを目標にせず、自分と同じポケモンバトルを極めろ』と強制してくる!
 だからボクは家を出たんだ!」
「それで…」
「親ってすぐ心配するんだよ。子どもが何かを始めようとするとさ!」
「そうそう。子供の夢や希望を壊してるのは、結局親達なんだよね!」

ガラ、と窓を開ける。

そこからは夜独特の、冷たい風が入って来て凄く涼しかった。

白銀の鋭い月の光が、二人の兄弟を照らした。

「行こう、ミツルくん! 昼間と同じ場所へ!!」
「あの、草むらへ!!」
『行って大人たちを見返してやるんだ!!』
「ボクのポケモンラルトス、名前はRURU! 今夜だけはキミに貸すよ!!」

二人は各々逆の方の片目を瞑る。

月夜が、紅の二つの瞳を照らし出し、美しく光らせた。

まるで希望が  光を放っているかのようだった。

「うん!!」

凄く嬉しくなって、頷いた。





「ただし、汚さないでくれよ」

少し、光が弱くなった気がした。


を追い求める
(それが幻でも構わない)


20140203



[ back ]
×