(キミたちのお父さん…!? キミたちはジムリーダーの子供だったの!?)
(し  っ!!)
(声を抑えてくれよ!!)

父のすぐ側で、息子と娘はミツルに口許に人指し指を持っていき、静かにするように促した。

相当父親に見つかりたく無いようだ。

しかし、センリの子供でも無いミツルに、二人の胸中は分からなかった。

(ど、どうして自分のお父さんなのに隠れるの?)
(これにはふか〜いワケがあるんだよ)
(そうそう、海よりも深い、ね)

ルビーとユキはコソコソと物陰に隠れようとする。

草むらの向こうでは、センリの側でヤルキモノがやる気満々で(何にかはさっぱりだが)パンチを繰り返していた。

(と、とにかくボクはセンリさんに会うよ、約束だもの)
(やめてくれぇ)
(私達まで見つかる……!)

ミツルが立ち上がって向かおうとした瞬間、隣からポケモン  キノガッサがセンリの元へ飛び出していった。

「む!?」

当然、センリは飛び出したキノガッサの方を振り向いた。

そのせいでミツル達には気付かなかったようだ。

「野生ポケモンか…!」

キノガッサとヤルキモノは、にらみ合い、トントンと軽いフットワークで弾んでいた。

そして、キノガッサは腕を伸ばし、鋭い爪を突き出す。

「ヤルキモノ…」

すぐに素早くヤルキモノが飛び出していき、

つばめがえし!!

残像が残る位に一瞬で爪を使って腹を攻撃し、それと同時にキノガッサの爪を弾く。

腹を攻撃されたキノガッサは、ゆっくりと、倒れた。

39.2kgの体が倒れた為に、重たい音が鳴り響いた。

「フゥッ、キノガッサか。軽やかなフットワークと伸び縮みするパンチが特徴のポケモンだ」

「だが」ビシッ、と右手を掲げて口許に笑みを浮かべる。

「私のヤルキモノの敵ではないな。
 今使った、出せば必ずヒットする技つばめがえし≠P発で十分だ!」

一体、父は誰に話し掛けているんだ、とちょっと娘は心配になってしまう。

「さぁ、なぜ隠れているのかわからないが、出てきたまえ」

背を向けながらも、ちゃんと位置が分かっているのか、横目でこちらをしっかり見つめる。

まさか、気づかれたか、と息を飲んだ。

「でないと今のように、野生ポケモンが攻撃してくるかもしれないぞ。
 ミツルくん」
「ハ、ハイ!!」

気付いていたのはどうやら、ミツル一人のようだ。

ミツルはセンリの威圧感のある声に、すぐさま立ち上がって草むらが出た。

だが、困った、なんて言い訳をしよう。

どんどんミツルの顔が真っ青になっていく。ミツルは、嘘を吐けない性格だった。

その時  



『すみませんでした、センリさん。少し気分が悪くて…』



自分の、声だった。

明らかに自分の声だ。だけど、自分は口を開いていない。

聞こえてきた方向を見ると、ユキが指を口にやりながら、片目を瞑っていた。

どういう事だかは分からないが、どうやら助けて貰ったようだ。

丁度、センリは背を向けている。

ミツルは嘘では無い事で、本当に言いたい事を、先程の言葉に繋げて言った。

「でも、来ていただいてありがとうございました。さっそく捕獲のコツを教えてくださいますか?」

ずっとずっと楽しみで、サンタを待っている子供のように夜眠れなかった、初めてのポケモン捕獲。

センリは、一言だけ発した。





「ダメだ」





「え?」ミツルは目を疑い、ルビーとユキは眉根を寄せてなんだと、と思った。

「ど、どうしてですか!? 約束したのに…」

一向にこちらを向いてくれないセンリの前に回り、詰め寄る。

「ミツルくん、キミは私に『捕獲のコツを教えてほしい』と頼みに来た時、
 …自分の病気のことを隠していたね?」
「…う、…それは…」

確かにミツルは病気の事は隠していた。

だがそれは、今のように、捕獲のコツを教えてもらえなくならない為だった。

「キミのご両親に確かめたら、キミの病気は重く、
 療養のため、明日遠くの町へ引っ越す予定だというじゃないか」

明日引っ越すからこそ、どうしても今日教えて貰いたかった。

だが、その言葉は喉から出る事は無かった。

「キミも見たろう? 私のヤルキモノと野生のキノガッサがやり合うところを。
 ポケモンを扱うという事は、思った以上に危険なことだ。健康な(トレーナー)にだって何が起こるかわからない」

あのキノガッサが、もし自分に襲いかかってきたら。

ミツルは想像しただけで、体を青くしていった。

それでも、ボクはッ……!

「一度もポケモンを手にしたことのないキミに対して…、
 私は責任を持てない…、これが理由だ」
『くっ…』

ルビーとユキは、草むらの影でセンリの言葉を聞きながら、ぎりっと歯を噛み締めた。

あんなに楽しみにしていた、ミツルの喜びを奪うのか、と。

センリはふと、トウカジムに戻る為に進めていた歩を、止めた。



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