「どこが可愛いのさ!」
「可愛いだろう!? この口許とか!」
「どこがだよ……最初なんて鼻水垂らしてポケーッとしてたんだぞ! しかも歩き(ウォーキング)をさせても酷いし……」
「それはまだ右も左も分かって無いからだろう? きっと磨けば光るよ!! まッ、まぁ、別にコンテストなんかに興味は無いけどね!」

そう言うと、ルビーは「そうかなぁ〜?」と言いつつ、ユキがほんの少しコンテストの熱情を見せた事に嬉しさを感じた。

もう少しコンテストの話をしてやれば、コンテストにやる気を出すかもしれない。

「ところで、あのコノハナっていうポケモン臆病≠ネのに、なんであんなに気を荒くして飛び出してきたんだろ?」
「こっちに何かあるのか?」

二人は、コノハナ達が飛び出してきた草むらを掻き分けて、辺りを見渡す。

『!!』
「うう…」

そこには、お腹辺りを抑えて踞(ウズクマ)る、緑髪の少年がいた。

足元には、バラバラになったモンスターボール。

「大丈夫かい!?」
「どうしたんだい!? もしかして今のポケモンたちに!?」
「は…はは、また失敗しちゃった…」

「失敗?」とユキが無意識に問いかけると、少年は顔をあげた。

少年は、酷く真っ青な顔を、これでもかという位に歪めていた。

「どうしても一度でいいからポケモンってものを手にしてみたくて、
 たくさん出るって聞いたこの場所で何度も挑戦しているんだけど、
 ハァ…ハァ…逆にこんなことになっちゃって…」

なんとなく見てれば理解出来る気がする。

「でも、ありがとう。キミたちの強さに恐れをなして逃げ出したんだね。
 …たくましいポケモンだ、うらやましいよ」

その言葉に、ルビーとミズゴロウが驚いたように目を丸くする。

それから紅の目をキラァァン、と輝かせた。

「今、なんて言ったかな? もしかしてボクのポケモンがたくましいって?」
(ゲッ、調子乗るぞ〜……)
「見る目があるね!! 今日から友だちだ!!」

がばっ、と少年に感極まって抱き締める。

それにはユキ、そしてミズゴロウまで呆れたような目で見詰めた。

「や〜、やっぱりポケモンは、
 たくましく、
 かっこよく、
 かわいく、
 かしこく、
 美しく育てたいもんだよねえ」

いや、その自分の思想を少年に押し付けるのはどうかと思うが。

「ボクの名はルビー!! このポケモンはミズゴロウ、名前はZUZU!!
 いっしょにこのホウエン地方を旅してる!! 目標はすべてのポケモンコンテスト優勝だ!!」

なんだかルビーと一緒にいたら、自分までコンテストなんて夢見てる奴みたいに見えるので、然り気無く離れる。

「あ、ちなみにこのちっちゃい女の子はボクの妹の  
「この自信過剰な人とはなんの関わりも無いけど、私の名はユキ。このポケモンはリージュ。宜しくね」

すっ、と手を出す。側ではルビーが何か言っているが聞こえないフリだ。

少年はおずおずと頬を染めながら握手をする。異性とは母親以外関わった事が無いのだ。

(可愛い感じもするし、綺麗って感じもする子だなぁ)
「キミはいいヤツだ。よし、ボクもつき合おう! もう一度挑戦だ!!」
「ありがとう」

対して、そのユキの兄(勿論見れば分かる)は格好良い顔をしているのに、不思議なテンションの少年だった。

思わず汗を垂らして唖然としてしまう。

「いやいや、そのかわりもしコンテストで審査員をやることがあったら、か・な・ら・ず、このボクに投票してくれよ!」

手を握られ、より一層唖然としてしまう。

「う、うん。あ、でもせっかくなんだけど…。
 これからここに来るんだ。ボクに捕獲のコツを教えてくれる人だ」

反射的に、二人はゾクッと冷たい物が背中を這った。

(ユキ、イヤな予感がしないかい……?)
(偶然だなァ、私もだよ……)

汗をたら〜、と垂らしながら兄弟同士、アイコンタクトだけで会話する。

これぞ兄弟だけがなせる技だ。

「あー、来たみたいだ」

ザッ、ザッ、ザッ、と聞こえてくる足音。

この大袈裟な足音は聞き慣れた物だった。

極めつけは、そろ〜と見たシルエット。

嗚呼、やっぱりだ。頭を抱えたくなった。

「いい人なんだよ。キミたちにも紹介…わ!!」
『隠れろ!!』

ルビーとユキは二人がかりで少年を草むらに引き摺り込んだ。

「オーイ! ミツルくーん!」

その人は、少年  ミツルの名前を呼んでこちらに近付いてくる。

ルビーとユキは体育座りで小さくなって、気配を殺した。

「なに? どうして隠れるの? あの人のこと知ってるの」
「ああ、よ  く、知ってますよ。あの恐ろしい男のことはね」

コクンコクンとユキが頷く。

「トウカジムジムリーダーセンリ! 別名、強さを追い求める男! そして…」

ルビーは暫くの溜めの後に、ゆっくりと、こう言った。








「ボクと…ユキの、父さんだ!!」



逃亡者
(肩身が狭くて)
(仕方が無いや)


20140203



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