トウカシティというのは、シティというだけあり、ミシロタウンやコトキタウンよりも大きい街であった。

自然と人が触れ合う街、という煽り文句があり、確かに人で溢れていた。

そんな中、疾風の如く、通行人のカツラを外したり、女の子のスカートを捲ったりする風が吹く。

その風は自然に吹いた物では無く、人工的に吹いた物だった。

風を起こした者は、靴の中のボタンを押し、ブレーキをかけた。

すると正に車のように止まり、少年は靴を整えるように、トントンと軽く地にぶつける。

「うん! 使いなれたらなかなかいいじゃない。このデボン社製加速機能付きランニングシューズ。
 ね? ZUZU」

少年  ルビーは、愛用の眼鏡をかけながら、すっかり肩が定一になったポケモン、ミズゴロウに話し掛ける。

「おっと。オレンの実とモモンの実発見! これは取っとかなきゃ!!」

頭上にある南国でなければ生えないような木に、青い果実のオレンの実と桃色でハートのような形をしたモモンの実を見付ける。

眼鏡をかけているから分かった、というよりはうじゅうじゃ生(ナ)っているからであるが。

「ZUZU!!」

ミズゴロウが口から水鉄砲≠、その名の通り鉄砲のように吐き出した。

すると、オレンの実とモモンの実がもぎ取れる。

その二つの実が落ちる場所に駆けていく。背中ではミズゴロウがリュックを開けてスタンバイしている。

くるりくるりと回り、上手に実をリュックに入れた。凄く得意気な笑みを浮かべながら。

そして眼鏡を取り、ミズゴロウにウインクをして笑みを浮かべる。

「wonderful!!」
「な〜にが、wonderfulだよ……」

ドキッ、といるはずの無い声がして、ささっと後ろを向く。

やっぱり後ろには妹であるユキが呆れた顔でカラのようなポケモンを抱きながら立っていた。

相変わらず自分より小さくて、でも自分とそっくりな顔だから中性的な顔をしている。

まぁ、胸がストンとしているから、髪が長くなきゃ分からな  おや、殺気を感じる。

「ユキ……なんでこんな所に」
「今、絶対に余計な事考えてただろ……なんでじゃないよ! なんで家出する事言わなかったんだよ!」
「大事な妹なんだから、巻き込む訳にはいかないだろう?」
「巻き込まれてるよ! 私、あのまま家にいたら、きっと怒られてたよ!」

何が「大事な妹」だ。大事だと思うなら、こんなに危険な目に遭わせないで欲しい。

きっと今頃、母親が父に電話をして、電話を手で握り潰されているに違いない。

もはやいつもの事で、きっと驚きもしないだろうが。

「そんな事より、どうしてボクが作った服じゃないのさ!」
「(話逸らしたな……)どうしてって、ルビーの服なんて着たくないからだよ」
「キミってどうしていつのまにか反抗期になっていたんだい? 昔はお兄ちゃんお兄ちゃんって言ってくれたじゃないか」
「絶賛反抗期で家出中のルビーに言われたくは無いけどね……」
「ほら、またお兄ちゃんって言ってごらん!」
「イヤだ」

ユキは……今のルビーを、どこか突き放していた。

ルビーが言うように、昔はべったりでお兄ちゃんお兄ちゃんと言いながら甘えていた。

でも、昔の事なんて、二人の間ではもう禁断事項じゃないか。

「さて…と、とにかく今夜のホテルを探しに行こう?」
「……しょうがないなァ」
「でもこの町では、あまりおおっぴらに動けないな」

そう言われれば、ユキの口許はひきつる。

「なんたってあの人がいる町だもの。表通りはさけて…」
「うん……絶対会わないようにしなきゃね」

二人は人の家の塀の影に隠れて、周りの様子を窺う。

そんな時、草むらがザワザワと動く。

『ん?』

そちらの方を向くと、野生のポケモンが草むらから飛び出してきた。

『うわあ!!』

全く同じ反応をする二人はやはり切っても切れない兄弟である。

「リージュ!」

カラサリスは、ユキに抱かれながら、糸を吐く≠ナ蓮(ハス)のようなポケモン、ハスボーの動きを止めた。

隣では、ミズゴロウが鼻の長いポケモン、コノハナに向かって水鉄砲≠放ったが、全く聞いていなかった。

なぜならコノハナは草タイプなのだから。

「え、フラッフィ!?」

イーブイは、ミズゴロウの好戦的な態度に影響されたのか、大人しい$ォ格なのにも関わらず、タネボーに向かっていった。

タネボーに向かって噛みつく<Cーブイ。

急所に当たったのか、タネボーはいそいそと逃げ帰った。

ミズゴロウの方は、コノハナの鼻を掴んだ事によってコノハナが跳ね飛びながら逃げていった。

「ととと。大丈夫かい? ZUZU」

ルビーがミズゴロウを受け止める。

振り回されていたからか、酷く目を回していた。

「今のはたしか…コノハナか」
「? なんだい、それ?」
「ポケモンのデータが見れる機械だよ」
「なんでそんなもの持ってるんだい?」
「え。そ、それは〜……あ、ほら、ZUZU! 今、キミは落ちまいとして相手の鼻を掴んだんだろうけど、見てごらん」

なんだかまた話を逸らされてしまった。

まさか盗んだんじゃ、と考えて、ルビーがそんな事をやる必要も、根性も無いじゃないかと思い直した。

「結果的にそこが一番相手のいやがる場所だったみたいだ。
 Nice!!」

ルビーがミズゴロウに微笑みかけると、ミズゴロウは照れたように笑った。

「ZUZUって……」
「え、な、なんだい」
「pretty〜!!」
「あ、ああ……って、え!?」

一瞬、ミズゴロウが博士からうっかり貰っただなんて格好悪い事に気付かれてしまったのかと思えば、違ったようだ。



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