「おおおお!」
「止まれ、このデカブツ!!」

二人が宝珠を宿した方の腕を二匹に向かって突き出し、轟くような大声を出した。

こればかりは宝珠を持つ者にしか不可能な事だ。

ユキとユウキは、二人を信じて見守るしか無い。

すると宝珠の力なのか、キン!という閃光がグラードンとカイオーガの間に迸(ホトバシ)る。

「..................、止まった」

しん……という静寂が耳を打つ。

ぽつりと呟かれたルビーの言葉が、静寂に波紋を生んで広がっていく。

ユキがずっと瞬きしていなかった瞳を閉じ、そして開ける一瞬の動作の間に二匹が突如ぎょろりとこちらを睨んできた。

「カガリさん!!」
「二匹がこっちに来ます!!」
「まずい!!」

ズンズンと地を踏み鳴らすグラードンと、ザザザザと水を滑るように泳いでくるカイオーガ。

「戦いに水を差すあたし達を、先に始末する気だ!!」

カガリがルビーの腕を引っ張り、ユウキがユキの両肩を掴んで(頼んでない)目覚めの祠に避難する。

しかし、グラードンがその腕を伸ばして、自分達を潰そうとする。

そこへラグラージが四人を守るかのように立ちはだかり、振り下ろされたグラードンの腕を受け止めた。

「いいぞ、ZUZU! そのまま全身の力を込めて……」

1.5mまで大きくなったルビーのラグラージことZUZUは、ミズゴロウの頃とは別人のたくましさで、その腕に力を込めた。

「がむしゃら≠セ!!」

グラードンの腕をカイオーガに向かって投げ飛ばす。

これで一時的に二匹の動きを同時に止める事が出来た。

「カガリさん、大丈夫で...…」

ルビーがカガリの安否を案じて隣を見た瞬間、カガリがルビーの頭上を見てハッとした。

少し遅れてルビーも後ろの気配に気付き、ハッとする。

反応が遅れてしまったルビーを、カガリが身を挺して突き飛ばした。

すると、カイオーガの手によって破壊された祠の上部の断片が、うつ伏せに倒れ込んでいたカガリの背中に落下する。

あまりにも唐突に、そしてかなりの勢いだったものだから痛みすら感じなかったが、肺が暴れ回るような感覚に目の前が霞む。

「はぐぅ」という息だけが苦しげに漏れた。

『カガリさん!!』
「……姐さん!」

三人は慌ててカガリに駆け寄る。

しかし、ルビーに突如襲いかかるグラードンの巨大な前足。

爪と爪の間に体を挟まれ、加えて地に叩きつけられ、呼吸が困難な状況になってしまう。

「──っ、にぃに!!」

カガリに駆け寄ろうとしたユキは、兄の喉から絞りだしたような呻き声に、身を翻した。

「……ぐ……、ボク、は大丈夫だから、カガリさんを……っ」
「う、うん……!」

苦しげに顔を歪めるルビーを心底心配しながらも、言われた通りにカガリの元へと再び駆けた。

「今瓦礫をどかしますからね!!」

カガリにそう言うが、彼女は浮かない顔をして地面を見つめるのみだった。

それが気に掛かりながらも、側にいたトドゼルガに合図を送り、彼女の背中に覆いかぶさる瓦礫をどけさせる。

「一度は静止しかけたのに……、やっぱりあたしじゃ……ダメなの……か。宝珠に選ばれなかった……あたしじゃ」

ぽつりと、悔しそうに嘆くカガリ。

恐らく誰に言った訳でもない、ただの独り言。自分に対する言葉だったであろう。

「カガリさん……」

その言葉を聞いてしまったユキが彼女の名を呼ぶ。

カガリも自分と同じ事を考えていたのだと思うと、心を締めつけられるような息苦しさを感じた。



──刹那、

カガリを下敷きにしていた瓦礫が砕け散り、カガリの背中に一切の負担を掛ける事無く、バラバラと地に零れ落ちた。

それは、トドゼルガがやったものでは無かった。

トドゼルガの前にいつの間にやら立ちはだかっていた、クチートの鋼の顎によるものだった。

カガリとユキは二人で酷く驚いたようにクチートを見詰める。

それもそのはず。

そのクチートは正真正銘の色違いのクチートで、言わずもがなユウキのポケモンだったからだ。

先程まで存在を全く主張していなかった人物が、人知れず素早い動きをしていたら誰だって驚く。

今だって、いつの間にかクチートの後ろから歩み寄ってきたかと思えば、カガリの目の前に手を差し伸べている。

「──『何甘えた事言ってんだい』」

ぴくり。カガリがユウキの口から出た言葉に、眉を動かす。

「……いつもの姐さんなら、そう言う」

腕を組みながら、呆れたような顔をして。

ユウキはいつもそんなカガリに活を入れられてきたのだ。

「……オレは、いつも自信に溢れた姐さんが好きだよ」

滅多に見せない位優しく微笑む弟分に、カガリの口にも思わず笑みが零れる。

「…………生意気なガキだね」

手を伸ばし、その手を取る。

彼の手は年下の癖に大きくて、そして、温かかった。

「……あれは?」

丁度上体を起こした時、カガリの視線の先。何か白く光る物を上空で見つけた。

すると、ユキとユウキだけでなく、カイオーガとグラードンもその光る物体の方を向いた。



「レックウザ!!!」



光る物体──それはポケモンだった。

そしてそのポケモンの名を、カガリは驚愕混じりに呼んだ。

レックウザはこちらに近付いてくるなり、カイオーガとグラードンを強く睨み付けた。

それはカイオーガとグラードンも同じで、今までルビー達四人を標的にしてたのを忘れたかのようにレックウザを睨み付けていた。

「カガリさん、あれは……。天空を裂いて現れた竜(ドラゴン)は……、あのポケモンは……!!」

グラードンが身を起こした事により、解放されたルビーがこちらに駆け寄り、尋ねてくる。

「第3の超古代ポケモン......、天空ポケモン、レックウザだ!!」
「第3の超古代ポケモン!? そんなものがいたんですか!?」
「ああ……、表立って語られる事は無かったらしいがね」

カガリの言葉に、三人はレックウザを食い入るように見詰める。

翠の体に、長い竜の胴体。確かに超古代ポケモンと言われれば納得する風貌だった。

(トクサネ宇宙センターにあった資料通りだ……!! ……だとすれば……)

カガリの見据える先で、レックウザが金切り声をあげていた。

それが合図かのように三匹が取っ組み合う。

三つもの巨体が取っ組み合うと、先程以上に地鳴りや騒音が大きくなり、耳が可笑しくなりそうだった。

「三つ巴の戦い……!!
 海と陸と天空! 三界の頂点に立つ3匹が入り乱れて!!」

また一匹、超古代ポケモンが増えた事によって、一層焦燥感が高まったように三匹の取っ組み合いを見詰めるルビー。

それは、ユキもユウキも同じで、固唾を飲んで三匹の方を見ていた。

そんな三人の背後で、カガリが何かを思い詰めたように、目の前の兄妹と──そして、レックウザの背中に立つ人物を視界に映した。

(……ルビー、ユキ。そのレックウザを駆って、ここまで来たのは……、お前達の……!!)



同じ羽色の鳥、似たもの同士
(僕とカガリさんは)
(同じだったんだね)
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