たっ、と目覚めの祠の前に降り立つルビーとカガリ。

ユキとユウキはまだ地上には降りずに、様子見として二人の頭上にいる。

「さあ! 行くよ!!」

喧騒から掻い潜るように聞こえた声に、固唾を呑んでその様子を見守った。

超古代ポケモン、カイオーガ!! グラードン!!
 静止せよ!! 戦いを止め、安らぎの地へ帰れ!!


ルビーとカガリがそれぞれ紅色の宝珠と藍色の宝珠を掲げ、二匹に呼びかける。

……けれど、二匹は戦いを止めるどころか、こちらを見ようともしなかった。

カガリは「ちっ!」と大きく舌打ちを打った。

「まだまだお互いの相手しか見えてない目だね!! こっちの命じる力が足りないのか!?
 ポケモンで攻撃を仕掛けて、こっちに注意を向けさせるよ!!」
「ハイ! カガリさん!!」
「あんたらも加勢しな!!」
「ハイ!」
「……うん」

四人は自分の手持ちの中で一番のパワーヒッターであるポケモンを出した。

カガリはキュウコン、ルビーはラグラージ、ユキはトドゼルガ、ユウキはウィンディ。

「濁流!!!」
「破壊光線!!!」
「冷凍ビーム!!!」
「……大文字!!!」

紅眼兄妹がグラードンに技を撃ち込み、マグマ団二人がカイオーガに技を撃ち込んだ。

「ルビー、ユキ、狙うならどてっ腹だ! 頭や背中は頑丈だから大したダメージは与えられないよ!!」
『わかりました!!』

頷き、すぐに技をどてっ腹に向けるように仕向ける。

二匹のタイプの違う技が交わり、凄まじい力となりグラードンのどてっ腹に命中する。

「いいよ! なかなか強力な攻撃をするようになったじゃないか!! カナシダトンネルの時から格段の進歩だ! マボロシ島で特訓しただけのことはある!!」
「……ユキも、また一段と強くなってる。素敵。結婚しよう」
「ハイハイ。黙ろうね」
「……照れてるユキ可愛い」
照れてねぇよ

自意識過剰かよ、と咎めるような視線を投げるが「……そんなに見つめられると、オレも照れる」だとか、勝手にぽっと頬を赤らめながら言うものだから、本当にイラッとしてしまう。

もう無視だ、無視。

スイッと視線を逸らせば、そこには目覚めの祠を仰ぎ見るルビーの姿があった。

「……ルビー?」

どうして目覚めの祠を仰ぎ見ながら固まってるのかと思いながら自分もまた仰ぎ見れば、恐らく兄と同じ光景が鮮明に思い出された。

そう、グラン・メテオに三人で技を撃ち放った場所だ。

ユキもこんな時だからこそ、少し彼女の事を思い出しただけで気を散らしてしまうが、そんな暇さえ今は無いのだ。

それを言おうとルビーに向き直った瞬間──思い切り彼の左腕の服が手袋ごと破けた。

「むくく……!」

それだけでは無い。

彼の肩から手にかけて、紅い光がまるで血管のように浮かび上がり、脈打っているのだ。

これが宝珠を体内に取り込んでいるという事なのか──?

「気を散らすな! 集中してろって言っただろ!? 宝珠を介してエネルギーが逆流してくるぞ!!」

すぐさまカガリが怒鳴りつける。が、

「あぐっ!!」

カガリも、右腕に纏っていた衣類が弾け飛んでしまう。

『カガリさん!!』
「はんっ! 言ってるあたしがこれじゃあ、ザマァねえな!!」

自嘲するように鼻で笑いながら、血液のように脈打つ宝珠のエネルギーに汗を一筋流した。

なんでもないような顔で。平気なフリをして。

「……姐さん」
「なんだい、眉間に皺なんて作って」

「情けないね」なんて余裕ぶった言葉を吐きながら、ぐりぐりとユウキの眉間の皺を人差し指でなぞる。

「……絶対、無理しないで」

無機質だったはずのその濃紺の瞳が、強い光を宿しながら細められ、強い口調でカガリを諭す。

今までカガリにただ着いてきた、雛鳥のような存在だったのに。

いつの間にかこんなに逞しくなっていたのだ。

それを理解した途端、気を散らしてしまったはずなのにエネルギーの逆流は無く、そのかわり──どうしてか胸が痛かった。

「……言われなくても、しないさ」

くしゃり、ユウキの髪を乱暴に撫でながら、いつものような余裕の笑みを浮かべる。



──もうあんたは、あたしを頼る必要が無いんだね。



「さて。ヤツらに取り込まれないように、気合い入れてもう一発行くよ!!」

胸の痛みを紛らわせるかのように、ルビーに凛とした声をあげる。





[ back ]
×