『コスモパワー!!』

二人がそう言った瞬間に、ルナトーンとソルロックは分かっていたかのような早さで不思議な力に包まれた。

コスモパワー  この技は、その名の通り宇宙の力を取り込んで、防御と特防を上げる技だ。

ルナトーンは月、ソルロックは太陽の力で自身のパワーを上げる事が出来る。

実際、今二匹は同じ技を使ったにも関わらず、それぞれ纏う雰囲気が違っていた。ルナトーンは銀色で、ソルロックは金色。

(この二匹が使うコスモパワー≠ゥ……)
「ふふ、ユキちゃんは気付いたようね!」
「!? どういうこつ!?」
「……その反応。やっぱり僕の思った通りですか……」

嘆息する。正直、こちらとしてはデメリット過ぎて溜め息しか出ない。

「そう! この二匹が使うコスモパワー≠ヘヤジロンなんかが使うコスモパワー≠ニは訳が違うんだから!」

ポケモンと技の相性の合致。ユキはそういう物があると思っている。

自分のタイプと技のタイプの合致とは違う。

例えば。基本技の一つに尻尾を振る≠ニいう技がある。

これは『敵に尻尾を振って油断させ、防御を下げる』技だというのは皆さんも御存知かと思う。

しかし、考えてもみて欲しい。

確かにピカチュウやエネコのような尻尾が長いポケモンであれば可愛さもプラスされて防御も下がるという物だ。

ところがどっこいしょ。サイホーンが尻尾を振る≠ニいうのは如何な物か。

サイホーンが鋭い目で真顔を装いつつ、あの短い尻尾を振った所で果たしてなんの効果が得られるのだろうか。

尻尾を振った事にすら気付かないに違いない。

だから、技とポケモンの相性というのも大事なんでは無いかと前々から思っていた。

「いくわよ!」
「!!」

  ランが宣言した刹那、二匹の纏う光が眩く弾け、ソルロックはトロピウスに、ルナトーンはトドゼルガに向けて光を放った。

あまりの光の眩さと激しさに、ユキとサファイアは目を瞑ってしまう。

次の瞬間鳴り響いた轟音。

ユキはマズイと思って目を開けるが、巻き起こった煙で目の前がはっきり見えなかった。

「な、何が起こったと?」

同じく嫌な予感を感じたのか、サファイアも顔を上げて冷や汗をかいていた。

「この熱気と寒気は……」

真夏日と真冬日が一緒に訪れたような、不思議な感じだ。一瞬にして寒くなって身が震え、また、一瞬にして暑くなって汗が溢れる。

なんだか体調の崩しそうな空間だ。

「チャビィ!!」

トドゼルガの安否を確認しようと、愛称を叫ぶ。

すると、わずかだが、小さく呻く声が聞こえた。途端に安堵して息を漏らすが、呻いている事に不安も抱く。

「どう? ルナトーンの冷凍ビーム≠ニソルロックの火炎放射≠ヘ!」
「 おまけにコスモパワー≠ナタイプ不一致をカバー済みさ
!」 「!」

なるほど、と小さく呟く。

コスモパワー≠使ったのは、二匹の力を上昇させてタイプの不一致による威力の低下を無くす為。

二人にとって最も邪魔なのが、岩タイプと相性の良い草タイプ  つまり、トロピウス。

だから、トロピウスが苦手とする炎タイプと氷タイプの技をどうしても使いたかったのに違いない。

流石ジムリーダー。苦手とするタイプの対処がナチュラルで気付かなかった。

だが、

「……」

ユキがフッと息を漏らして、本当に薄く笑う。

「……ユキ?」

笑ったのを見て、不思議そうに首を傾げるサファイア。

それに対してユキは自分の唇に指を当てて「しーっ」と可愛らしくウインクをして、



  空を指差した。



「!」

それだけで理解したのか、サファイアはニッコリ笑って頷いた。

運の良い事に、まだ煙が自分達を隠してくれていて、ジムリーダー様には見えていない。

さぁ……あっと言わせてやろう。

「チャビィ」

ぴくり、と煙の向こうで揺らぐのを感じた。いや ミた≠ニ言うべきか。

「さぁ! トドメを刺してあげる!」

何かを言った訳でも無いのに、ルナトーンとソルロックが コスモパワー≠放つ。

けれど、得意気に笑うのはフウとランだけでは無かった。

「 霰(アラレ)!!」
「な!?」

キラリと光る空が、途端に雲で覆われた。

ランが慌てて空を仰ぐと、その柔らかい頬に冷たい氷粒が張り付いた。

「そのまま   吹雪!!」
「とろろ! 流れに沿って 吹雪≠ 吹き飛ばす≠チたい!」

トロピウスが 吹雪≠ 吹き飛ば≠オた事により、緩やかに降り注いでいた 吹雪≠ェ 猛吹雪≠ニなる。

流石のルナトーンとソルロックも、元々威力が高い 吹雪≠ェその威力を何倍にも高めた 猛吹雪≠ノは耐えられなかったのか、その体を地に落とした。

つまりは、戦闘不能状態。

「や……」
『やった(ったい)!!』

サファイアとユキは、ジムリーダー様に勝利した事を喜び、ハイタッチを交わす。

その姿は正に親友同士のようだった。

「悔しいわねー……本気の本気だったんだけどなー」
「まさかボクら双子ジムリーダーに勝つとはね」

しかし流石はジムリーダー。潔く負けを認めて対戦相手と握手をする。

「貴方達強いわねー。特にユキは着目点が良い線いってるんじゃない? 将来ジムリーダーになれるんじゃない?」
「No!! それは嫌だね!!」
「ユキがジムリーダー……! 絶対になれるとよ!」
「いや、なりたくないからね!?」

ブンブンと首も手も全力で振るユキ。

通常、そのあからさまに嫌そうな顔に、本気でジムリーダーにはなりたくない事が窺(ウカガ)えそうな物だが、二人は本当に分からないのか彼女がジムリーダーになる事をとにかく推(オ)していた。

唯一フウだけが、可哀想に……、と思いながらも関わらない方が良いと思って遠くの空を眺めていた。

「いや、助けろよぉぉお!!」



† † †




「すまんち……上手く援護出来なくて……」

フウとランの双子ジムリーダーと別れて、もう少しダブルバトルの組み合わせ技を増やそうという事になり、丁度良さそうなばしょを探し歩いている時に、突然サファイアがそんな事を呟くように言った。

突然の言葉に、ユキは瞬時に理解出来ず目を点にした。

少し考え込むようにサファイアを見つめる。そのサファイアは、珍しくしょんぼりとしていて、頭(コウベ)を垂れていた。

その様子がまるで小動物で、思わず心の中でクスリと笑い、表面では爽やかな笑みを浮かべる。

「何言ってるんだい、サファイアがいなかったら勝てなかったよ。……ありがとう、サファイア」

きゅっ、と優しくサファイアの手を握るユキ。

珍しいユキの行動に、サファイアは目を丸くし、そしてその瞬間嬉しくなって飛び付いた。

「ユキ、だーいすき!!」
「わわっ!」

自分よりも背の高いサファイアに飛び付かれ、必然的によろけてしまう。

そのまま、思い切り後ろに倒れる。

「いた………く、ない?」

てっきり、かなりの強い衝撃が襲うのかと思って固く瞑った瞳をそろそろと開けると、見覚えのある紅が視界に広がった。

「……重いんだけど、そろそろどいてくれるかい……?」

  見覚えがあるどころか、兄だった。

「丁度良い所に!」
「ルビーも一緒に組み合わせ技の練習するったい!」
「いや、だから、その前に……どいて……重、い」
「ルビー。レディに『重い』は失礼じゃないかい?」
「ならなんて言えば  ぐあっ……!」

口答えするルビーにより一層かけられる重心。

「な、なにす……るんだよ」
「可愛い女の子二人の下敷きになってるなんて、ルビーは幸せ者だよ」
「ユキの言う通りとよ?」

へへへ、とわらいながらサファイアもルビーに重心をかける(依然としてユキに抱き着きながら)。

それを見て、ルビーはキョトンとしてしまう。

「……なんかキミ達、前より仲良くなってない?」
「そう?」
「あたしとユキは前も今もすっごい仲良しったい!!」
「うんうん」
「ふーん……」

二人はそう言う物の、第三者から見れば、二人の心の距離がより近付いた事は一目瞭然だった。

兄としては、妹に絶対の信頼をおける存在が出来た事に嬉しい気持ちを隠しきれない。

しかし、

「いつどいてくれるんだろう……」



天に輝く星
(それを消し去る程の)
(冷たく白い雪が降る)


20141127




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