直接的で鋭利な恋
バトルの勝者は、やはりレッドだった。
最後のポケモンであるドードリオが倒れた瞬間、レッドは沸き立つ歓喜を露にした。
勿論、イエローは悔しくて堪らないという顔で唇を噛んでいた。
レッドがハクアの下に行こうとした時、イエローは最後の手段に出た。
「まさか、これで終わりとか思ってませんか?」
それは第二回戦を示す合図。
しかし、レッドはそれを許すはずが無く、
「何言ってんだ、決着はバトルでって話だろ」
目を細めてそう言い返すと、イエローはハンッと鼻で笑った。
「レッドさん、ボクはバトルは苦手ですが貴方の得意分野であるバトルで戦ってあげたんですよ。貴方が他の種目で勝てるとは思わないので」
「なっ……!」
「だから、今度はボクの得意分野で戦うのが筋ってもんなんじゃないですか?」
「……っ」
イエローの言葉に、レッドは言い返す言葉も無く、黙った。
もう一押し。心中、ニヤリと笑う。
「
まぁ、バトル以外脳が無いですもんね!」
そして満面の笑みを浮かべ
フィナーレ!
「くっ……やってやるぜ!」
乗った。
この男なら乗ると思った。なぜなら負けず嫌いで挑発されると乗るような低脳だからだ。
「じゃあ二回戦はまた明日、ですね」
「ああ!」
「やーっと、終わったみたいっスね」
「うん……」
観戦している方が大変だった。
「明日、か。明日も二人の対決みたいっスけど部活があるからな……」
「そっか……」
「ええと……頑張ってください」
「そんなに哀れみの目で見ないでよ……」
ぐったりと疲れたような顔をしているハクアに、ゴールドは同情するしか無かった。
それもそうだ。明日もまたこの二人の対決をずっと見ていなくてはならないのだ。
「で、結局私は誰と帰れば……」
「じゃあオレと
」
「死ね爆発頭」「調子乗んな屑」
「おっと言葉のデッドボールだ! 心が骨折だ!」
ゴールドがハクアと帰ろうとしただけで遠慮の無い罵声を浴びせられる。
何この先輩達。怖い。
「み、みんなで帰ろう? ね?」
そこで現る正しく天使の声。
上目使いで遠慮がちに言われ、二人も黙る他無いようで。
「わかったよ……」
「みんなで帰りましょう……」
(コロッと変わったな……)
*
次の日。
ハクアは二人の前でちょこんと椅子に座っていた。
美術部の部室内では鉛筆を紙に滑らせる音が絶え間無く続いている。
「えと……これって美術対決なんだよね?」
「はい」
「私がモデルって事だよね?」
「はい」
「……なんでメイド服?」
「趣味です」
「あ、ああ」
目線をこちらに向けずにイエローからサラリと放たれる言葉。
ああ、趣味か。でも恥ずかしいよどうしよう。
その気持ちでいっぱいだった。
イエローは黙々と描いているが、レッドはどうだろう。
滅茶苦茶混乱している。
描いては消し。描いては消し。
その繰り返しだった。
(レッド大丈夫かな……)
ちらちらとそちらに視線を向けていると、イエローからムッとされる。
「先輩、こっち向いて下さい」
「あ、はい……」
美術だからか、いつもより真剣で鋭い視線を向けられる。
思わずドキリとしてしまう。
それに気付いてか、レッドは焦ったように紙に絵を描いては破り捨てた。
(う……気まずいなぁ)
そこへ舞い降りるは天使様。
「先輩
」
ガラリと開かれたドア。
「……」
「ちょっと待ってクリスちゃん! 無言で閉めないで!」
一瞬間が空いてから閉まるドアを、慌てて止めるハクア。
それに対して、ここに来た事にちょっと後悔するクリスタルことクリス。
「何をされてるんですか?」
「えと、美術大会……かな」
「はい……?」
強いて言ったら、クリスに不思議そうな顔をされた。
「で、何? クリスちゃん」
「あー……勉強を……教えてもらおうと……でもやっぱり帰ります」
「待って! 激しく待って!」
涙目で後輩の裾を掴む先輩。
しかし後輩は先輩二人の痛い視線を浴びてまでここにいたくなかった。
「ハクア先輩。描けないので席に座って下さい」
「……はい」
「じゃあ帰りま
」
「待ってええええ!!」
にっこりと圧力をかけてくる美術部後輩。
描けなくて苛々している幼馴染み。
その中にいたくない真面目な後輩。
それを止めるこの闘いの元凶。
改めて思う。どうしてこうなった。
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