人を成長させる恋とやら
「はぁ」
一体どうしてこんな事になってしまったのだろう。
「フッシー、蔓の鞭!!」
「ゴロすけ受け止めて!!」
目の前で壮絶な戦いが繰り広げられていた。
誰の目から見ても明らかな凄い試合だった。
そんな戦いの理由がまさかの自分という所に引っ掛かりを感じるが。
「うわっ、何してんスか、先輩達」
そこに見知った後輩が通りかかる。
「ゴールド君!」
「ハクア先輩?」
爆発したような黒髪に、綺麗な金色の瞳を持つ二つ年下の後輩、ゴールドはハクアとバトル真っ最中の二人を交互に見ると納得したように苦笑いした。
つまりはハクア先輩争奪戦なのだ、と。
「ハクア先輩も大変っスね」
「あ、あはは……」
「あそこにオレ入ったら絶対勝てねぇ……」
「え?」
「何でも無いっス」
誤魔化すように目を逸らすゴールド。
ハクアは首を傾げるが、それ以上問い詰める気は無かった。
「んで、どっちが勝ちそうっスか?」
「わかんない……レッド、かな?」
「あー、まぁ、そうっスよね」
その会話が地獄耳(ハクアの声限定)で聞こえたイエローは小さく舌打ちする。
確かに押されているが、ハクア先輩に言われると流石に落ち込む。
「チュチュ!」
「!」
「10万ボルトォォォォ!!」
イエローお得意の電気技で攻める。
相手はニョロボンだ。効果は抜群で倒す事が出来る。
思惑通り、レッドのニョロボンは目を回して戦闘不能になった。
「また並んだ……」
「本気のイエロー先輩凄ぇ……」
同感だ。
いつものイエローは、戦いを好まず平和主義。
バトルが好きじゃないからか、あまり強いとは言えなかった。
「こうして見ると、イエローって男前だよね……」
今度はレッドが小さく舌打ちする番だった。
(ハクア先輩、自分の声があっちに届いてるとか考えねぇのかな……滅茶苦茶レッド先輩睨んでるっスけど)
呆れながらゴールドが内心思う。
勿論、睨んでるのはハクアに対してでは無く、隣に寄り添っているゴールドだったりするが。
「そういやブルー先輩は?」
「『それじゃ、頑張ってね〜』だって……」
詰まる所、逃げたのだ。
ゴールドが悟ると、ハクアは深い、シンジ湖よりも深い溜め息を吐いた。
「ブルーとかテレビがさ、恋は良い物だとか、恋は人を成長させるとか言うけど、よくわかんない」
「え、ハクア先輩って恋とかした事無いんスか?」
「うん。そうだよ?」
ゴールドは驚いて疑問を投げ掛けるが、ハクアから逆に不思議そうな顔をされた。
さりげなく上目遣いで、ゴールドの心にキュンと来たのは内緒だ。
しかしそれを感知して睨んでくる赤と黄の先輩マジなんなのよ。なにもん。
(まさか自分のモテっぷりまで無自覚とはな……)
そう思ったのは、ハクアの言葉がさも当然かのように紡がれたからだ。
しかし、実際は違う。
中身は勿論、見た目は凄く可愛い。時折、真面目になった時は綺麗だとすら思う。
笑顔が凄く眩しくて、男女問わずときめいてしまう。
頭も良く、スポーツも上手いとは言えないが、なかなかに器用にこなす。
最早彼女の能力なのだろうか、と思わせる位の人気振りだ。
だがそうなって当然と思わせる所があるから尚更凄い。
(ま、でもレッド先輩がそういう系の奴等蹴散らしてんだから気付かなくて当然か)
手を顎に添えながら、レッドとイエローのバトルを見て思う。
「ねぇ、ゴールド君」
「ん? なんスか?」
「恋って怖いのかもね」
prev /
next