03
あの時は考えてもみなかった。
あいつの心の傷、笑顔の裏。
涙を拭いたいと思ったのはいつの事だったか
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次の日、オレはいつのまにか足がタマムシへと向かっていた。
特に用も無く、だ。
理由はわかっていたが、認めたくなくて気づかないフリをする。
タマムシに着くと、自然と視線が噴水の所へと移動していた。
昨日あいつの座っていた場所に誰もいない事がわかると、オレは少しの哀愁を感じた。
そんなこと、ブルーやレッドに言ったらまた「恋」だのなんだのと騒がれるだろうから、絶対に言わないが。
(……帰るか)
踵を返す。
その時、男のガキがきゃんきゃんと何か言っている声がして、なぜかオレは嫌な予感がして振り返った。
すると、やはりココロがガキ達に囲まれて何かを言われているようだった。
「お前、いっつもここに座ってるけど友達いねーのかよ〜!」
「そのメモ帳が友達なんじゃね〜?」
「悔しかったらなんか『言って』みろよ!」
ココロは泣かなかった。
俯いて、スカートをぎゅっと握っても、それでも泣いてはいなかった。
それを見て、オレは無意識にガキ達の所に駆け出した。
「オイ、お前ら。……なにしてるんだ」
「なんだよオッサン! 別にいいだろ」
「オッサ……!?」
こいつら「ブラストバーン」で焼いてやろうか。
そう本気で思って、リザードンのボールに手を伸ばした時、ガキの一人が突然顔を真っ青にする。
「おい……このオッサン、確かトキワのジムリーダーだぞ……!」
『ゲ……!?』
「さ……さいならー!!」
ガキ達は途端に顔色を変えて逃げ出してしまった。
一つだけ言っておく。
オレはまだオッサンなんかじゃない。
「……大丈夫か?」
驚いたように目を見開いて、静かにコクリとうなずいた。
もしかしたら怖がらせたか……。
オレはさりげなくココロの隣に座った。
「……いつも、あんな事言われているのか」
「……!」
ココロはすぐに首をブンブンと横に振った。
「……そうか」
「……」
「……だったら、その涙はなんだ」
「!」
そのオレの言葉で自分の頬に涙が伝っているのに気がついたらしく、自分でも驚いているようだった。
そしてその涙を必死に拭った。
拭っても拭っても流れる涙を、必死に何度も何度も拭った。
そんなココロの頭に、オレは優しく手を置いた。
「別に我慢しなくていい。……泣きたい時は、思いっきり泣くと良い」
「……!」
ココロは、そのオレの言葉により一層涙を流し、オレにしがみついて静かに声をあげずに泣いた。
オレは、ココロを守りたいと密かに思いながら、しがみつくココロをそっと優しく抱き締めた。
涙だけは嘘を吐かない
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