01
 
オレが初めてあいつに出会ったのは、タマムシシティだった。

あの時の事はいまでも鮮明に思い出せる。

今にして思えば、あれは初恋だったのかもしれない  


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「なんでオレが……」

誰に言うでも無く、オレは呟いた。

しかし、周りの事等考えず独り言を呟く位に今のオレはやるせない気持ちだった。

原因はあのうるさい女のせいだった。

あいつはレッドとやろうとしていた事を、無理矢理オレを巻き込みやがった。

どうやらあいつらは、負けた方にタマムシのデパートで買い物をするという名目でジャンケンをしていたらしい。

ブルーが「グリーンも巻き添えにしてやりましょ!」なんてアホな事を口にしたせいで、見事にオレはジャンケンに負けてデパートに向かっていた。

……どうしてオレは、ばか正直にデパートに向かっているんだ。

山積みになったジムの仕事やおじいちゃんの手伝いがあるというのに。きっとレッドの影響なんだろうな。

溜め息を吐きつつ、なんだかオレは悪い気はしなかった。

これもあいつのおかげなんてな。


さて、早く買い物を済ませてトキワジムに戻るとするか……っと、

「……?」

いつもは目を向ける事なんて無い、タマムシの真ん中にでかでかと占拠している噴水の所に、誰かが座っているのが目についた。

それは小柄でか弱そうな少女で、悲しげに俯いていた。

明らかに何かあったような雰囲気で、その顔に涙を流した跡が無い事の方が驚きだった。

「……」

これもまたあいつの影響なのか、オレは自然とデパートでは無く、その少女のもとに向かっていた。

「……どうした」

ばっ、と顔を上げた少女はしばらくオレを見て目をぱちぱちさせた。

少女はにぱっと小さな花が咲いたような笑顔を見せた。

……なんだ、普通に明るいじゃないか。

「……名前は」

そう言うと、また少女は悲しそうにしてしまった。

何か言ってはいけない事でも言ったか、オレ。

すると少女はポケットから小さなメモ帳と黒ペンを出して、筆記し始めた。

そしてそのメモ帳をオレに見せた。

『ココロ』
「……喋れない、のか?」

少し驚いて聞くと、ココロはちょっとの間があった後にうなずいた。

オレは「そうか」となんでもないように返すと、今度はココロが少し驚いたようにオレを見た。

ココロは急いで筆記すると、それをオレに見せた。

……どうでもいいが、速記にしては上手いな。

『気味悪がらないの?』
「なんで気味悪がる必要があるんだ」
「……」
「……ん?」

突然、ココロが顔を真っ赤にして俯く。

……あぁ、なるほどな。言われ慣れてないのか。

『お願いがあるんですけど』
「……なんだ」
『私と一瞬にタマムシデパートで買い物に行ってくれませんか?』
「別に構わない。丁度、寄るところだったしな」

声が出ない上での買い物は何かと不便だろうと思い、そう返す。

またココロは真っ赤な顔になって、俯いてしまった。

……もしかすると、ただ単に赤面症なんでは無いかと思ってしまう。

『あの、お名前は』
「ああ、言い忘れてたな。オレはグリーンだ、よろしくな」

手を差し出すと、ココロはまたあの小さな花が咲いたような笑顔を浮かべて、手を差し出し返した。

オレ達はそのまま手を握ってデパートを回った。

折り畳み式になっている、今よりも他の人間に見やすいメモ帳を買ってやったりもした。

声が出なくてうるさくないからか、ココロとの時間は凄く充実したものだった。

また会えたら、なんて柄にもなく思い始めていた。


繋いだ手の温もりは、
(確かにそこにあったんだ)
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